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長崎原爆被爆者のプルトニウム内部被ばく

2018年08月09日

長崎大学原爆後障害医療研究所 腫瘍・診断病理学研究分野(原研病理)の七條和子助教、環境科学部の高辻俊宏教授らの研究グループは、これまでは、原爆爆心地付近では強烈な上昇気流のため、プルトニウムが存在していないというのが常識でしたが、被爆距離1km以内で被爆して死亡した長崎原爆被害者のサンプルから、世界で初めて爆心地付近でプルトニウム内部被ばくがあることを示しました。
この研究成果はオープンアクセスジャーナル「Heliyon」Volume 4, Issue 6, e00666に2018年6月、掲載されました。

福島第一原発事故後7年を迎えた日本では、放射線の作用が、腫瘍発生・腫瘍制御に関する研究の中で最も関心事となりその基礎的研究の重要性が増しています。
研究グループは既に、長崎原子爆弾の核燃料である239Pu由来のアルファ粒子飛跡を近距離被爆者の70年前のパラフィンブロック病理標本上に確認し、内部被ばくの科学的証拠を初めて示しました。平均組織吸収線量は従来のリスク評価による外部被ばく線量と比較するとごく僅かで、それ自体は人体に大きく影響する値ではないと考えられていました。しかし、今回、アルファ粒子飛跡周辺細胞では遺伝子不安定性が増すことに着目し、アルファ粒子が細胞核を通過する際のエネルギー付与から算出した細胞核の吸収線量を算出したところ、高値を示しました。局所的な高線量という点においては福島第一原発事故におけるセシウムボールの問題と類似していますが、これはアルファ線の特性で、プルトニウムが集まって存在しているかどうかは、明らかではありません。今回の研究成果は、これまでの定説を覆す発見ではありますが、1973年に米国陸軍病理研究所から返還され長崎大学の原爆後障害医療研究所に保管されている650例の臓器のうち、被爆距離1km以内で被爆して死亡した被爆者の7例という貴重な小数例であり、必ずしも爆心地付近における内部被ばくの程度を代表しているとは見なすことができません。


(内容)
1945年8月9日長崎に投下された原子爆弾はプルトニウム爆弾です。爆弾は地上約500mで爆発しました。その後 24年経った長崎の土壌中に残留プルトニウムが存在することが坂上ら(Sakanoue et al, Nature 1971)によって報告されました。彼らは物理学的半減期が 24000年でアルファ壊変するプルトニウムの放射能濃度を放射線検出器で測定しました。一方、研究グループは、原爆被爆者の人体内にプルトニウムが残存することを見出しました(Fig. 1)。プルトニウム放射能濃度とプルトニウムから放出されるアルファ粒子のエネルギーから吸収線量率を求めました。生存期間における骨髄組織の平均的な内部被ばく線量が特に高かったのは爆心地から500mの屋外で被ばく、68日後に死亡した女性の骨髄で、0.104mGy、生存したと仮定し生物学的半減期50年で50年間被ばくすると20.2mGyという低い値を得ました(被爆時に体外から浴びたガンマ線や中性子線による外部被ばく線量は、推定83Gy)。これら原爆被爆者における放射線障害は投下中心地からの距離を指標にする外部被ばく線量によって厳密にリスク評価されているので、今回の近距離被爆者のこの内部被ばく線量はそれ自体が人体に大きく影響する値ではないと考えられました。今回、アルファ線による内部被ばくに特異的である局所的に高い吸収線量による細胞レベルの生物効果に着目し、アルファ粒子飛跡末端近く(Bragg peak)における細胞核の線量を算出しました。結果、そのアルファ粒子が当たった肝細胞の核では1.29Gy、血管内皮細胞核では3.35Gy と高線量を示しました。このことは、内部被ばくにおける細胞局所への影響の重要性を示すものです(Fig. 2)。
内部被ばく線量とその病理学的意義を研究することは、人体内残留放射能の生物学的影響を明らかにする糸口になると期待されます。

長崎原爆被爆者の病理標本におけるプルトニウムアルファ粒子の飛跡

Fig. 1. 長崎原爆被爆者の病理標本におけるプルトニウムアルファ粒子の飛跡
症例1膀胱(A), 症例2前立腺(B), 症例3肝臓(C), 症例5骨(D), 症例5気管支軟骨(E), 症例6腎臓(F)と肺(G)と肺(原子核乾板法)(H).

Fig. 2. 楕円形細胞核を通過する時のアルファパーティクル一個の吸収エネルギー

Fig. 2. 楕円形細胞核を通過する時のアルファパーティクル一個の吸収エネルギー

(論文)
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2405844018317754
雑誌名:「Heliyon」Volume 4, Issue 6, June 2018, e00666
doi: 10.1016/j.heliyon.2018.e00666
論文タイトル:Autoradiographic analysis of internal plutonium radiation exposure in Nagasaki atomic bomb victims
著者:Kazuko Shichijo a,∗,1, Toshihiro Takatsuji b,1, Manabu Fukumoto c,∗,
Masahiro Nakashima a,d, Mutsumi M. Matsuyama d, Ichiro Sekine a,d
a Division of Tumor and Diagnostic Pathology, Atomic Bomb Disease Institute, Nagasaki University, Nagasaki, Japan
b Faculty of Environmental Science, Nagasaki University, Nagasaki, Japan
c Department of Molecular Pathology, Tokyo Medical University, Tokyo, Japan
d Tissue and Histopathology Section, Atomic Bomb Disease Institute, Nagasaki University, Nagasaki, Japan
∗ Corresponding authors.
E-mail addresses: shichijo@nagasaki-u.ac.jp (K. Shichijo), manabu.fukumoto.a8@tohoku.ac.jp (M. Fukumoto).
1 These authors are equally contributed.

共同利用・共同研究拠点
This work was partly supported by the Program of the Network-type Joint Usage/Research Centre for Radiation Disaster Medical Science [ of Hiroshima University, Nagasaki University and Fukushima Medical University]
東北大学加齢医学研究所
This work was partly supported by the Cooperative Research Project Program of Joint Usage/Research Center at the Institute of Development, Aging and Cancer, Tohoku University.

(問い合わせ先)
長崎大学原爆後障害医療研究所 腫瘍・診断病理学研究分野(原研病理)
助教 七條和子 (しちじょう かずこ)
Tel:095−819-7107, Fax:095-819-7108
E-mail addresses: shichijo*nagasaki-u.ac.jp(*をアットマークに変えて送信ください)
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