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<東日本大震災・支援活動>

福島とチェルノブイリにおける甲状腺がんの発症パターンの相違について

2016年07月26日

   原爆後障害医療研究所の高村昇教授らのグループが執筆した、福島とチェルノブイリにおける甲状腺がんの発症パターンの相違についての短報が、Lancet Diabetes and Endocrinologyに掲載されました。

   1986年に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故では、事故当時小児だった世代における甲状腺がんの増加が認められました。2011年の福島第一原子力発電所事故後、福島県では県民健康調査において事故当時0歳から18歳だった約36万人を対象として甲状腺超音波検査を実施しており、2011年の10月から2014年3月に行われた先行検査では、約30万人が検査をうけ、うち116名が悪性ないし悪性疑い、と判定されました。県民健康調査検討委員会ではこれまでのところ福島では放射線被ばくと甲状腺がんとの関連は考えにくいとされていますが、これについては種々議論もされているところです。

   一方で福島における放射線被ばくと甲状腺がんとの関連を考えるとき、チェルノブイリとの比較等を通じた、因果関係の検証がきわめて重要となってきます。 チェルノブイリ周辺国のうち、もっとも事故の影響を受けたとされるベラルーシ共和国は事故の前から国全体でがん登録(がんと診断された症例を国家レベルで 登録するシステム。毎年それぞれのがんがどのくらい診断されたかが把握できる)が存在していました。このベラルーシ共和国のがん登録を調べたところ、事故 が発生した1986年から1989年の4年間で、事故当時0歳から15歳だった世代で甲状腺がんと診断されたのは25例でした。その後、同じく事故当時0 歳から15歳だった世代で甲状腺がんと診断されたのは1990年から1994年(事故後5年から8年)では431例、1995年から1999年(事故後9 年から13年)で766例、2000年から2003年(事故後14年から17年)では808例と増加が見られています。特に、甲状腺がんの増加は事故当時 0歳から5歳であった世代で1990年(事故後4年)から顕著に増加しており、この年齢群が放射線被ばくによる影響が多かったことがわかります。しかもこ の傾向は事故後4年から10年後に顕著であり、事故当時の年齢が高い群に甲状腺がん・がん疑いと診断された症例が多く見られている福島とは、その状況が大 きく異なることがわかります。

   さらに、チェルノブイリでは被災した小児の甲状腺の被ばく線量の中央値はベラルーシで560ミリシーベルト、ウクライナで770ミリシーベルトと推定され ていますが、事故直後の福島で1080名の小児(0歳から14歳)を対象として行われた甲状腺線量測定では、99%が15ミリシーベルト以下であったこと が報告されています。

   今後も引き続き、福島県の将来を担う世代の健康を見守ることが大切ですが、上記のようなチェルノブイリとの発症年齢の比較や福島県内の地域における発症頻度の比較などを行うことで、因果関係について科学的に検討することが極めて重要であると考えられます。

        こちらの論文は『THE LANCET』の下記URLでご覧いただけます。
        http://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(16)30112-7/      
        PDF版はこちら(135KB)

問い合わせ先 : 国立大学法人 長崎大学      
原爆後障害医療研究所         
高村 昇教授(095-819-7170)