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近江美保教授

ジェンダーを切り口に社会を俯瞰。
経済と人権の関係を見直す

多文化社会学部
近江 美保 准教授

貿易自由化と女性の関係 日本で遅れていた分野に切り込む

 ジェンダーと法分野で優れた研究を行った若手研究者に与えられる「ジェンダー法学会・西尾学術奨励賞」を2014年に受賞した近江美保准教授。著書『貿易自由化と女性』(尚学社)が評価された。 「『貿易自由化と女性に、どんな関係があるの?』と、よく聞かれます。フェミニズム研究が進んでいる海外に比べて、日本では、女性の人権と経済、貿易に関する研究に手がつけられていませんでした」。  しかし考えてみると、経済や貿易は生活のなかに入り込んでいる。例えば、100円ショップに並ぶものは、なぜ安いのか。主要な理由の一つは途上国で安く作られるためで、その多くを女性のパートタイム労働が支えている。コストダウンには、女性の労働力が大きな役割を果たしているのだ。
 関税の問題にしても、税率を下げれば国に入る税金が減り、途上国では国の医療費補助や教育支援に影響が出る。結果として、「家族が病気になったら?」「子どもの給食費は?」という生活上の大きな問題を引き起こす。
「労働力という面でも、家事、育児、介護という女性が無償で担っている仕事の側面でも、様々な負担を女性がいくらでも担ってくれることを前提に、貿易自由化が成り立っているのです」。
 専門は国際法、なかでも女性差別撤廃条約などの国際人権法である。
「同じ国際法のなかに、人を守る人権法と、経済活動をサポートする経済法が同居しながら、よりよい形で連携できずに分断されている」と、近江准教授は指摘する。

男女の違いだけでなく 個々の事情に配慮した政策を

写真   これまで、女性差別撤廃条約のNGOや男女共同参画センターなど、女性に関わる仕事にずっと就いてきた。
「学生時代を含めるとほぼ30年間、『女性』に関心を持ちながら生きてきました。女性学との出会いは米国留学です。たまたま薦められて選んだ授業『女性学入門』には、立場も人種も社会経験も違う学生が10人集まりました。教育や仕事などのテーマで議論を重ねるうちに、女性の生き方が学問として成り立つ面白さに目覚めました」
 女性の問題は、国の状況によって現れ方が違うが、「女性が家のなかのことをやるのは当たり前」という考え方は普遍的。「女性というキーワードを切り口に社会を俯瞰すると、それまで見えなかったものが見えてくる」と、近江准教授は話す。
「日本では、ここにきて急に、“女性が輝く社会”と言われ始めました。しかし、今までの男性と同じ働き方では女性にしわ寄せがいくことになります。男女の違いだけでなく個々の抱える事情にも配慮して、それぞれの生活に対応できる政策が必要です。パートを掛け持ちするシングルマザー家庭の生活の底上げや、経済的に苦しい家の子どもの教育についても目配りしてほしい。そういった視点が政治の場であまり議論にならないのは、議員の男女比のバランスの悪さも一因でしょう」。
「授業でジェンダーについて話していると『自分も育児休業をとって子育てに関わりたい』という男子学生が結構います。ところが実際に上司にそう言う自信はないという。それを普通に言えるようにするシステムや政策提言も必要です」。
 今後は、貿易分野の大きな要素である人の移動やサービスに関しても、研究対象として目を向けていきたいと話す近江准教授。「人権は一人ひとりが所有しているものです。国家や企業の論理に左右されて女性に無理を強いることのない社会を目指したい」と、穏やかながらきっぱりと言葉を結んだ。



【専門】国際法 国際人権法 フェミニズム国際法学

おうみみほ
国際基督教大学行政学研究科博士前期課程修了。ミネソタ大学ハンフリー公共政策研究所修士課程修了。神奈川大学法学研究科博士課程修了。東海大学、神奈川大学、東京女子大学、青山学院大学などの非常勤講師を経て、2014年より現職。2014年に著書「貿易自由化と女性ーWTOシステムに関するフェミニスト分析」(尚学社)で、第7回ジェンダー法学会・西尾学術奨励賞受賞。



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