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久芳さやか助教

それぞれの人生も視野に入れ
治療方針を患者さんと一緒に考えたい

医歯薬学総合研究科 医療科学専攻
久芳 さやか 助教

Evidence based medicineとNarrative based medicineの実践を目指して(※)

 女性のがんでは最も多いのが乳がん。生涯で乳がんを患う人の割合(生涯累積罹患リスク)は2010年の統計で12人に1人に達し、乳がんで亡くなる人は同年には1万2455人と30年前の3倍以上に増加している。こうした重要な疾患にもかかわらず、長崎県は他県に比べると専門医が少なく、女性の専門医は4人しかいない。その一人が長崎大学病院乳腺外科の久芳さやか助教だ。
 外科のなかでも、乳腺外科を選んだのは理由がある。
「女性は母として、妻として、職業人として、色々な役割を持っています。乳がんはそんな女性特有のがんです。また他のがんと比べ比較的若い女性が罹患します。ですので、治療以外の悩みがたくさんあります。そのような思いに寄り添った医療がしたい、そう思いました」。
 長崎では専門性に限界があると感じた久芳助教は、福岡市の九州がんセンターで研修した。
「がんの手術では、習慣的に積み上げられたやり方が一般的です。しかし乳がんの場合、これまでのやり方と新しい技術を臨床試験で比較して、より良いと証明された方を選びます。たとえば、昔は乳房だけでなく大胸筋も小胸筋も取って肋骨と皮膚しか残らないような手術をしていました。しかし、臨床試験を重ね乳房を残す手術を行っても生存期間に差がないことがわかり、今では乳房温存手術が主流となっています」。
 九州がんセンターでは臨床試験について学ぶだけでなく、乳がんの全身薬物療法などの治験・臨床試験に携わった。
「なぜこの治療をするのかという根拠・臨床試験(evidence)は大事です。しかしそれだけではなく、患者さんと話し合いながら(narrative)、患者さんの好み(preference)を考慮する。それぞれの患者さんにあった治療の選択肢を適切に提示し、そのなかでも『我々のおすすめはコレ』と伝える診療を叩き込まれました。若い女性の場合は特に、結婚や出産、子どもへの遺伝など、病気だけでなく広範囲な悩みや思いがあります。乳がんの治療を終えた後の人生も長いのです」。
 大学病院の強みもある。「妊孕性(にんようせい)温存」という手法だ。
「妊孕性の温存とは妊娠の可能性が消失しない様に生殖能力を温存するという考え方です。化学治療を行うと、卵巣機能が低下して妊娠が困難になることがあります。そこで子どもの欲しい方は、治療前に院内の生殖医療の専門家と相談しながら卵子や受精卵を凍結保存できるようになりました。医療の進歩で選択肢が広がっています」。


地域医療の輪のなかで活躍する頼れるドクターを育成へ

写真  久芳助教は「地域包括ケア教育センター」副センター長として、1年次から6年次までの医学部学生の教育にも携わる。
「高齢化社会が進むなかで在宅医療の比重が高まっています。当センターでは看護師、薬剤師、社会福祉士、介護士など医療だけでなく福祉の分野とのチームの中で、円滑に仕事ができる総合診療医の育成を目指し、チーム医療に不可欠な能力を6年間かけて段階的に身に着けさせます。私は、在宅への往診や看取りなどの場面でチーム医療を実習できるシステムづくりやアレンジに関わっていますが、学生たちが成長していく過程を間近で見られるのは楽しいですね」。
 学生たちには、「思い込みだけで進路を決めずに興味が持てる分野に進んでほしい。男女を問わず仕事がしやすい環境へと改善されています」と、久芳助教は笑顔で語った。


※Evidence based medicine= 根拠に基づいた医療  Narrative based medicine= 物語と対話による医療

【専門】外科学 乳癌

くばさやか
長崎大学医学部卒業、同大医歯薬学総合研究科博士課程修了。労働者健康福祉機構 長崎労災病院、国立病院機構 九州がんセンターを経て、長崎大学病院乳腺内分泌外科に赴任。2013年12月より現職。



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