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林川万理水 准教授

戦略による勝利より、信頼により
社会から生かされる企業を増やしたい

経済学部総合経済学科
林川万理水 准教授

投資家も企業も情報リテラシーと分析能力が試される時代

 株式会社という仕組みは、大航海時代に貿易というリスクも大きいが得られる対価も大きな事業を成し遂げる手法として生み出されたものだ。株式会社が成り立つためには、出資する「投資家」と経営を託される「企業」の存在が必要で、企業が事業内容や資金使途を投資家に報告するための情報開示が「ディスクロージャー」と呼ばれる。林川万理水准教授の専門領域である。
「株式会社という考え方は人類の叡智であり、素晴らしい仕組みだと思います。これを支える基盤となるのがディスクロージャーですが、情報の質や量、開示するタイミングなどは、企業がコントロールします。つまり、企業と投資家の間には情報の非対称性があり、投資家は常に意思決定を誤るリスクを負っています。このリスクを軽減するために、投資家を法で保護すると同時に、投資分析をサポートする体制づくりが必要です」。
 経済活動は、その参加者がもつ情報の量でゲームの勝敗が決まる。情報化時代の到来で、投資活動に大きな変化が起きている。
「情報を発信する側も利用する側も情報リテラシーや分析能力が問われる時代です。例えば、金融庁は金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム(EDINET)を提供していますが、情報利用者は公開企業のデータの加工、分析が容易になりました。また、国境を越えた資金調達を促進するために、国際財務報告基準(IFRS)を手本として各国の財務報告の基準を統一し、企業情報の比較可能性を高める方向に進んでいます」。
 一方で、個々の国には自国の商慣行や企業文化を守りたい思惑もある。グローバル化の潮流の中で、各国ともに財務報告制度をどうするか決断を迫られている。こういう流れのなかで、「社会科学の研究者には、理想を提示するだけでなく、客観的で緻密な現状分析に基づいて、現状と理想との乖離を埋める制度設計ができる力が求められている」と林川准教授は語る。
「ビジネスはエゴイスティックで、合理的戦略を優先させる一面があることは事実です。しかし、企業も人と同じです。ディスクロージャー研究を通じて、信頼され社会に生かされる善良な企業を増やすような制度設計を行うことが私の目標です」。


過保護から脱却し主体的な学びで真のグローバル人材を

  2013年、かつて勤めたイタリアのカ・フォスカリ大学に短期留学の学生を引率した。
「イタリアの学生が政治について自分の考えを語るのを目の当たりにして、『このままではいけない』と気づいた学生がいました。多文化共生の時代には、自分の考えを相手に伝える力が問われています。教育サイドも過保護からの脱却が必要。まずはお膳立てを減らすことが大切だと感じました」。
写真  もう一つ、日本人に大切なこととして「異文化理解」と「異文化傾倒」の区別を林川准教授は指摘する。
「世界の舞台で活躍するグローバル人材は、自国の長所短所を鳥瞰図的に把握し、かつ自国への誇りと異文化を尊敬するエチケットも備えています。文化差問題に直面しても、中立的立場で適格な判断をすることが重要です。まずは自国に対する造詣を深め、自分の立ち位置を見極めることが大切です」。
 新しい価値を生む時代だからこそ、「個」を確立する努力を怠らないでほしいと林川准教授は締めくくった。





【専門】会計学・ディスクロージャー

はやしかわまりな
長崎大学経済学部卒業。同大学院経済学研究科修士課程修了。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程会計システム専攻修了。2007年から長崎大学経済学部講師。同年10月より現職。イタリアのカ・フォスカリ大学に客員研究員として勤めた縁から、2012年に同大と長崎大学の共同学術事業として、ヴェネチアにて良品計画の金井政明社長(当時)による「これがいいではなくこれでいい」の無印良品コンセプトを紹介するシンポジウムの企画に携わった。



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