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増山律子 准教授

骨は細胞のゆりかご。
カルシウムイオンの動きと細胞の
“生きざま”を解明したい

医歯薬学総合研究科 医療科学専攻
増山 律子 准教授

細胞はカルシウムイオンを「スー」と吸い込み「ハー」と吐き出す

 増山律子准教授の専門は骨・カルシウム代謝。骨組織を破壊する「破骨細胞」など、骨の内部の細胞や、それらの働きと連携するカルシウム代謝系に注目している。
「骨は細胞のゆりかごです。骨や血液中の細胞の多くは骨髄で生まれて旅立っていきます。骨そのものが神秘的なのですが、なかでも破骨細胞は非常に面白い存在。細胞の活動は内部のカルシウムイオンに支えられており、破骨細胞のカルシウムイオンはある時期から『スー・ハー』と呼吸をするように濃度が上下して波が起こることを発見しました。その波が止まると息が止まるかのように細胞が死にます。『カルシウムオシレーション』という細胞活動です。骨を破壊しカルシウムを血液に送り込む破骨細胞もまた、細胞内のカルシウムイオンの挙動にその運命を委ねています」。
 生体内の多くの細胞にカルシウムオシレーションは観察されるが、その役割は解明されていない。
「破骨細胞はカルシウムオシレーションをしながら、猛烈な勢いで細胞同士が融合して骨を壊し、細胞機能が最大に達した途端に、たちまち死滅する寿命の短い細胞です。この仕組みには細胞内へのイオン流入が必要ですが、我々は『破骨細胞にはカルシウムイオン流入を抑制する作用が極めて低い』ことを発見しました。つまり、カルシウムイオンは常に供給され、細胞の機能にブレーキがかからない。この細胞はカルシウムオシレーションの役割を見極めるのに最適な実験ツールといえます」。
 この実験手法を生かして、カルシウムイオンの挙動が支配する機能を解明し、細胞の暴走を止めることが研究目標の一つ。骨以外では、消化管でカルシウムを吸収する際の「カルシウム輸送」を理解することも重要なテーマである。細胞の中でこの仕組みがどうして生まれるのか。未知の機能は何か。骨・カルシウム代謝の全貌解明に取り組んでいる。


生き物はどうして動く?好奇心を原動力にして

 子どものころから虫が好きだったという増山准教授は、東京農業大学大学院で農学博士の学位を取得した。写真
「生き物は、どうして動くのか。“動き”をもたらす仕組みに興味があったので、大学では栄養科学を専攻し、運動器の柱となる骨を研究テーマに選びました」。
 転機は学位取得直後。ベルギーのカトリックルーベン大学附属図書館に、『ファーブル昆虫記』で有名なファーブルが採集したフンコロガシの標本があることを知った。
「その大学に面接に行けば、標本が観られるかも、と。動機が単純ですね(笑)。実は骨代謝の分野で有名な大学でした。運よく2003年に内分泌のラボに研究職を得ました。隣の循環器ラボでは心筋の収縮に必要なカルシウムの挙動を調べていました。『その発想を骨の細胞にも生かせるのでは?』と話が持ち上がり、内分泌ラボで骨代謝研究をしていた私に声をかけていただきました」。
 100ミクロンの細胞をつまみ、細胞膜表面に1ミクロンというネコの毛の先ほどのガラス管を刺すような細かな作業から、細胞のカルシウム挙動を変化させたモデル動物をジョギングさせて運動機能を調べる実験も行う。
 生き物の命を支えているカルシウムイオン動態の解明に、日々挑んでいる増山准教授。子どものころに抱いた「それはなぜ動くのか」という好奇心が、いまも研究の原動力となっている。




【専門】骨・カルシウム代謝

ますやまりつこ
東京農業大学大学院農学研究科修了、農学博士取得。厚生労働省研究所研究員、東京農業大学講師を経て、2003年よりベルギーカトリックルーベン大学ポストドクターフェロー(内分泌学)。2008年より長崎大学テニュアトラック助教。2012年より現職。



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