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山口  敦子 教授

生物多様性の保全と
水産業の振興。
矛盾する二つを両立させたい

水産・環境科学総合研究科 水産科学領域
山口 敦子 教授

同じ海域で季節を変えて生物をモニタリング

 水産学部本館の玄関に飾られた「ナルトビエイ」の標本。山口敦子教授らが新種であったことを発見して新たな学名をつけたもので、世界的にも有名になった。
「長崎大学水産学部が発見した新種はいくつもあります。また、国際的な種の基準として海外に所蔵されている標本には長崎由来のものも多いので、数多くの種の模式産地であるこの長崎に自然史博物館を作りたいと思っています」。
 山口教授の専門は魚類学や水産資源学で、東シナ海をはじめ様々な海域をフィールドに、魚類を中心とした生物の生態や資源について研究している。その調査スタイルは独特。同じ海域で漁をする船に季節ごとに定期的に同乗し、調査を行う。たとえば、漁によっては夜中の出港になる。授業を終えると急いで帰宅して着替え、車で港に駆けつけて漁船に乗り込む。夜明けとともに漁を終えて上陸し、大学に戻ってまた授業ということもあるという。
「現場では漁を手伝いながら、水揚げされた生物をすべて採集し、解剖したり、発信機を装着して放流したりします。研究室に持ち帰ってから一匹ずつ丁寧に正確に同定(種類を特定すること)し、その後の詳しい分析や解析を行うための試料とします。毎回、今日は何が獲れるだろう…とワクワクしますね。逆に思うような成果が出ない時は、船長にかけあってもう一粘りしてもらうことも。船での移動や網を揚げるまでの待ち時間に漁業者と話す時間は貴重です。できるだけ現場に多く出ることで、様々な問題や新たなテーマが見えてきます」。
 最初は珍しがられるが、『女に何ができるか』と相手にしてもらえないこともある。しかし、何度も通い、共に作業をする中で次第に信用してもらえるようになるという。学生時代から続けるこのやり方で、全国津々浦々に親しい協力者ができた。研究者の知り合いより多いかもしれないと笑う。


エイにもサメにも役割がある。大切なのは生態系のバランス

 山口教授の研究フィールドの一つである有明海では、増えすぎたエイがアサリやタイラギを食べ荒らし、駆除されている。しかし、エイの増加を掘り下げていくと、エイの捕食者であるサメの減少や温暖化によるエイの生態の変化が明らかになってきた。
「我々はアジやタイなど食べられる魚に注目しがちですが、そこだけを見ていても問題の本質はわかりません。生態系の頂点に立つサメが減ることで、サメに捕食されるエイ、エイに捕食される生物といった生態系のバランスが頂点から下に向かって一気に崩れたことも問題だと15年かけてわかってきました。魚を増やそうとしても増えない状態が続いていますので、研究を通して得た知識を活用し、国や県の審議会等でも提言を行っています。一方で、現場の感覚からずれないように、常に漁業者の方々と率直な意見交換を行っています」。
 フィールドワークの合間を縫いながら、その成果を論文にまとめる作業にも余念がない。
写真 「通常、研究は仮説を立てて検証しますが、海洋研究は仮説を立てること自体が難しい。というのも、季節や潮の変化、天候に左右されるため時間がかかるのです。条件の違う場所で多様な生物の調査を徹底的に行い、成果を積み上げて、初めて仮説を導き実証していく。ひとつの論文が出来上がるまで、何年も時間と手間を費やすことになるのです」。
 漁業者と共に漁を行いながら「いま何が問題になっているか」を探る一方で、海全体の水産資源の継続性、生物の多様性にも目を向け、深く思索して提言を行う。山口教授のような研究者は、水産国日本に必要不可欠だ。



【専門】魚類学 水産資源学

やまぐちあつこ
東京大学大学院農学生命科学研究科水産圏生物科学博士課程修了。京都女子大学講師を経て、2000年より長崎大学へ。2010年より現職。主な著書に『干潟の海に生きる魚たちー有明海の豊かさと危機』(東海大学出版会)、『サメのなかま』(朝倉書店)など。国や県の審議会委員等を多数務めている。



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