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吉田朝美 准教授

科学的アプローチで
水産業の新たな可能性を探求する

水産・環境科学総合研究科 水産科学領域
吉田 朝美 准教授

魚肉内の酵素に注目 生化学的手法で解析し、応用する

 「鮮魚の鮮度低下や水産加工食品の品質劣化は、魚肉に含まれているプロテアーゼという酵素が引き起こしていることがわかりました」ー。こう語るのは、水産・環境科学総合研究科の吉田朝美准教授だ。
 長崎県にとって水産業は重要な産業の一つだが、鮮魚の鮮度低下や練り製品などの水産加工食品の品質劣化、養殖魚の肉質の劣化については、現場での経験的な情報はあるものの科学的に解明されていなかった。この問題に生化学的な手法で挑んでいる。
「魚は鮮度が落ちると軟らかくなります。これを魚肉軟化現象と言います。豚肉や牛肉は冷蔵保存で1〜2週間かけて熟成しますが、魚肉は1〜2日間で軟化が進みます。これは、魚自身が持つプロテアーゼが、魚肉に弾力を与えているコラーゲン等を分解するからです」。
 魚肉の軟化現象と酵素の関係を解明できれば、刺身の品質低下を防ぐことができる。刺身の歯ごたえは、魚肉の細胞と細胞の間にあるコラーゲンに依存する。そこで、冷蔵保存前と保存後でコラーゲン量を比較したり、コラーゲンを分解するプロテアーゼを抽出・精製し、遺伝子工学的な技術を用いて構造や生理機能を明らかにしたりしている。
 プロテアーゼの研究は、かまぼこなどの練り製品の品質改善や海水温の上昇に伴って発生することの多い養殖魚の肉質劣化の抑制にも応用できる。
「かまぼこなどの練り製品の製造工程では、魚肉を水に晒して血液や脂肪を除去してすり身にし、食塩を加えてすり潰したものを加熱します。このプロセスでタンパク質が結合して網目構造を形成すると弾力のある食感が生まれるのですが、この工程がうまく進まないと、ぼそぼそした食感になる“火戻り現象”が起きます。これも「筋原線維結合型セリンプロテアーゼ(MBSP)」という酵素が原因であることが長崎大学の研究で明らかになりました。私は現在、緑豆の抽出物がMBSPに特異的に作用して火戻り現象を抑制できるのではないかと研究中です。この酵素は、魚種だけでなく魚が獲れる時期によっても性質が異なります。まだまだ解明は続きます」。
 海外にも工場を持ち、世界のすり身生産で大きなシェアを占める水産加工事業者とも情報交換や共同研究を進めており、研究成果の波及効果は大きい。


実験を繰り返し、真理を見つける 水産業に貢献できる喜び

写真  吉田准教授が、水産化学分野の研究者の道を選んだきっかけは、長崎北高等学校のときに長崎大学水産学部名物のオープンラボに足を運んだことだった。「そこで、DNAの電気泳動の実験をさせてもらいました。今思えば、ごく簡単な実験だったのですが、大感激しました」と振り返る。
 水産学部に進学した当初は、教員免許を取って高校教員になろうと考えていたが、研究が面白くなり、そのまま研究室に居残ることになったという。
「実験の90%以上は失敗。しかし、努力して何回も繰り返しているうちに真理にたどりつくことができる。その過程に魅せられています。多くの学生たちとチームを組んで研究を進めるなかでマネジメント能力も鍛えられる。研究も教育もできる、いい着地点だと気付きました」。
 魚種が豊富な東シナ海をはじめ現場に近い大学だからこそできる基礎研究を深掘りし、科学的データや成果を漁業者や加工業者と共有していく。「研究成果を最終的に水産業に還元できる喜びがあります」と、吉田准教授は語った。




【専門】水産化学

よしだあさみ
長崎大学水産学部卒業。研究奨学生として米サウスカロライナ大学に留学。長崎大学大学院生産科学研究科博士後期課程修了、博士(学術)取得。2010年より長崎大学大学院生産科学研究科助教、2014年10月から現職。



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