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リーシュマニア症の感染曝露歴を評価する検査を世界中で可能に ~冷凍・冷蔵不要の新しい標準化抗原を開発、ワクチン評価および現場での活用にも期待~

医歯薬学総合研究科の井上信一准教授、熱帯医学研究所の濱野真二郎教授らの国際共同研究グループは、従来、高温環境下では品質維持が難しかった熱帯感染症「リーシュマニア症※1」の感染曝露歴を評価するための抗原について、冷凍・冷蔵保存を必要とせず長期安定性を有する新たな標準化抗原製剤の開発に成功しました。

本研究成果は2026年4月17日付けで、The Lancetが出版する国際医学誌「eBioMedicine」に掲載されました。


【研究のポイント】
・冷凍・冷蔵不要で長期保存が可能な感染曝露歴を評価する検査用抗原製剤を開発し、流行地域を含む世界各地での安定的な検査の実施を可能に
・リーシュマニア症患者由来の血液でも、感染歴を反映した特異的免疫応答を確認
・マウスにおいて、感染歴およびワクチン接種歴を反映した皮内反応を確認
・世界初のリーシュマニアワクチン開発に向けた免疫学的評価指標としての活用が期待される

【研究の背景】
リーシュマニア症は、世界90か国以上で流行しています。特に医療資源の限られた地域においては重大な公衆衛生上の課題となっています。感染の広がりを把握するためには、無症候感染を含めた正確な検出が重要ですが、それを可能とする標準化された検査手法は十分に確立されていません。これまでリーシュマニン皮内反応テスト(LST)※2が利用されてきましたが、従来の抗原は標準化されておらず、また高温環境下での品質維持が難しいなど、使用できる地域が制限されていました。現在では、未標準化抗原さえも供給不足であり実質的に広く利用されていません。

【研究成果の詳細】
・本研究で開発された最適化標準抗原製剤は、冷凍・冷蔵保存を必要としない凍結乾燥製剤であり、高温環境でも安定性を維持できることから、流行地域を含む世界各地での利用が可能です。また、本製剤は安全性および再現性に優れ、簡便かつ大規模製造にも適しています。
・本抗原は、ヒト由来株(MHOM/IN/93/BI2301/LRC-751)を基盤に、全ゲノム解析により遺伝的同一性を確認したうえで、品質管理された標準株の保存体系(MCB/WCB※3)を確立し、長期にわたり同一品質で供給可能とした、Leishmania donovani 標準株に由来します(Nature Communications (2023) 14:7028)。
・この抗原製剤を用いた実験では、マウスにおいて感染曝露歴・ワクチン接種歴を反映した皮内反応が確認され、その免疫応答にはCD4+T細胞およびCD8+T細胞が関与することが明らかとなりました。さらに、ブラジルのリーシュマニア症患者由来血液を用いた解析においても、感染歴のある被験者で特異的な免疫応答(IFN-γ産生)が確認されました。

【今後の展開】
本研究を実施した国際共同研究グループは、リーシュマニン皮内反応テスト(LST)の再導入を目指して、本抗原製剤の開発を進めてきました。このLSTは、現在開発が進められているヒトでの実用化を目指したリーシュマニアワクチンの有効性を評価する指標としての活用が期待されます。また、本抗原製剤は冷凍・冷蔵保存を必要としないことから、これまで検査実施が困難であった遠隔地や資源制約地域においても使用可能となり、感染分布の把握および公衆衛生対策の最適化に直接的に貢献することが期待されます。今後は、医薬品の製造管理・品質管理基準(GMP)に準拠した製造および臨床試験の実施を通して、実用化を目指します。

【用語解説】
※1 リーシュマニア症:

単細胞真核生物の細胞内寄生原虫であるリーシュマニアにより引き起こされ、サシチョウバエにより媒介される寄生虫感染症です。現在、世界で3億5000万人が感染のリスク下にあります。その臨床症状から皮膚型、内臓型、皮膚粘膜型の3つの病型に分類されます。世界保健機関(World Health Organization: WHO)は本疾患を顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs)に分類しています。
※2 リーシュマニン皮内反応テスト(Leishmanin Skin Test: LST):
リーシュマニア原虫への曝露により誘導される細胞性免疫応答を評価する検査法で、遅延型過敏反応(Delayed-type Hypersensitivity: DTH)を利用して感染曝露の有無を確認します。このテストは、感染曝露歴の評価に加え、ワクチンによる細胞性免疫応答の誘導を評価する指標としても有用です。
※3 MCB/WCB:
医薬品開発で用いられる標準株の管理体系で、同一品質の材料を長期にわたり安定供給するための仕組み。

【研究体制】
・長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
・長崎大学熱帯医学研究所
・アメリカ食品医薬品局(アメリカ)
・オハイオ州立大学(アメリカ)
・Gennova Biopharmaceuticals Ltd.(インド)
・マギル大学(カナダ)
・オズワルド・クルス財団(FIOCRUZ)ゴンサロ・ムニス研究所(ブラジル)

【論文情報】
掲載紙:
eBioMedicine
タイトル:
An observational study to test the potency of GLP-grade phenol-free lyophilised leishmanin antigen formulation
著者:
Thalia Pacheco-Fernandez*, Laura Klenow*, Shin-Ichi Inoue*, Kamaleshwar P. Singh*, Farzaneh Valanezhad*, Hannah Markle, Nazli Azodi, Meghan Brino, Shara Bakytbek, Caroline Hobson, Ishaan Jain, Pratik Talgaonkar, Shalu Shukla, Pawan Kardile, Swarnendu Kaviraj, Larissa O. Silva, Pedro B. Borba, Marina Santana, Taylla Costa, Greg Matlashewski, Lucas P. Carvalho, Edgar M. Carvalho, Camila I. de Oliveira, Abhay Satoskar#, Sanjay Singh#, Shinjiro Hamano#, Sreenivas Gannavaram#, Hira L. Nakhasi#
*Equal contribution
# Corresponding authors
掲載年:2026 年
DOI:10.1016/j.ebiom.2026.106246
URL:https://www.thelancet.com/journals/EBIOM/article/PIIS2352-3964(26)00128-3/fulltext

【研究費】
本研究は、以下の研究支援を受けて実施しました。
・公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)
・長崎大学熱帯医学研究所の共同利用・共同研究拠点「熱帯医学研究拠点」事業の一般共同研究課題(2024~2026年度)