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北教授らの研究により、マラリア制圧に大きな前進

長崎大学 熱帯医学グローバルヘルス研究科長を務める北潔教授らのグループが、3大感染症の一つで、寄生虫症のなかでも最も人的被害の大きいマラリアの制圧に関する研究で、2つの大きな成果をあげました。

 マラリアの治療には現在、いくつかの抗マラリア薬が使用されていますが、最も新しい抗マラリア薬である「アトバコン」は、この感染症の原因であるマラリア原虫に耐性が出現しやすい点が問題でした。

 北教授らの研究グループは、マウスを用いた実験で、アトバコンへの耐性の原因がマラリア原虫のミトコンドリア電子伝達系の「シトクロムb」の変異であることを証明しました。さらに、この耐性マラリア原虫が媒介昆虫である蚊のなかで増殖できるかどうかを調べたところ、薬剤耐性マラリア原虫は蚊の体内では増殖できないことが判りました。つまり、アトバコンの薬剤耐性をもつマラリア原虫が出現しても、マラリア流行地では拡散しないことがはっきりし、抗マラリア薬としての優位性が明確にされました。

 この一連の研究は、北教授がインドネシアや自治医大と共同で行ってきましたが、このほどオーストラリアの研究グループと共同で、ヒトのマラリアで最も悪性な熱帯熱マラリアでも同様であることを示し、世界で最も権威のある米国の学術誌「Science」の4月15日号に掲載されました。

 アトバコンは実際には「プログアニル」という薬剤との合剤として販売され、日本でも「マラロン」という商品名で販売されています。しかし、非常に高価であり、先進国の旅行者の予防や治療には利用可能ですが、死亡者の90%を占めるアフリカの子供たちの予防や治療への使用は不可能です。

 このような状況のなかで、北教授らはマウスを用いた実験で、サプリメントとしてすでにSBIファーマ(本社東京)から販売されている「5-アミノレブリン酸(ALA)」がマラリア原虫の増殖を抑制し、しかも治癒したマウスが再感染に100%抵抗性を示すことを突き止めました。100%抵抗性を示すということは、免疫ができておりワクチンの代わりにもなるということです。

 ALAは、がんの光線力学療法などでも利用されるなど高い安全性が実証されています。このことから、ALAがアフリカにおける抗マラリア薬として極めて有望なアミノ酸と考えられます。北教授らは、すでに試験管内でALAがヒトに感染する熱帯熱マラリアの増殖を抑えることを確認したほか、マウスを用いた実験でその治療効果と再感染防御効果を確認しています。次のステップはヒトへの効果判定であり、現在、アフリカでの治験を検討しています。

 今回、このALAのマラリア制圧に関する有効性の研究が評価され、4月22日にポルフィリン-ALA学会から学会賞を受賞しました。

 マラリアは世界全体で年間に約2億人が感染し、60万人が死亡する重要な疾患です。北教授らの研究の進展により、マラリア制圧の可能性が大きく高まっています

 

science誌URL
http://science.sciencemag.org/content/352/6283/349

SBI Pharma PDF
http://www.sbipharma.co.jp/pdf/SBI_pharma_20151022.pdf