リスクマネジメントとは

はじめに

 大学等の学術機関には教育研究活動における社会的責任の一環としてcompliance(法令遵守)の徹底や適正な研究情報管理等が求められています。そのため長崎大学においても2018年7月に研究開発推進機構にリスクマネジメント部門が新たに設置されました。リスクマネジメント部門では主に教育研究活動に係るリスクマネジメントとして、安全保障輸出管理、名古屋議定書のABS(Access and Benefit Sharing)対応、研究倫理教育管理、利益相反マネジメント、Dual-use(軍民両用)研究調査等のマネジメント業務を行っています。

「リスクマネジメント」って何?

 「リスクマネジメント」を広辞苑で調べてみると、「企業活動に伴うさまざまな危険を勘案し、損失を最小限に抑える管理運営方法」と記述されています。リスクマネジメントという言葉は「リスク」と「マネジメント」という2つの言葉に分けられ、「リスクマネジメント」とは「リスク」を「マネジメント」することを意味します。広辞苑の記述を言い換えると、「企業活動に伴うさまざまな危険を勘案する=リスク」、「損失を最小限に抑える管理運営方法=マネジメント」を意味していると考えられます。つまり「リスクマネジメント」とは、経営的な立場から、物事の危険性を考えるだけではなく、リスクを負うことによって得られる利益を考え、そのために必要な人員、予算、役割、プロセス等を体系化することで、リスク中のコスト(損益)を最小化し、得られる利益を最大化するようにマネジメントする(必要なものを体系化する)ことです。法令のとおりに管理する、担当者の指示に従って行動する等の行為は「リスクコントロール」であって「リスクマネジメント」ではありません。

リスクマネジメントの目的

 リスクマネジメント部門がリスク対応のみを行っているだけでは、ただのコストセンター(経営学用語の1つで、組織経営において、コストは集計されるものの利益は集計されない部門のことを言います。)になってしまいます。リスクマネジメント部門は、単にリスクに対応するだけでなく、リスクを負うことによって得られる利益(利得)も考えておく必要があります。
 例えば、安全保障輸出管理では、適確なコンプライアンス管理を行うことによって、利益(利得)として相手先やファンド等への信頼を得ることが出来るし、相手先の外国企業などからの国際的な信頼を得ることが出来ます。その信頼によって得られる利益(利得)を組織として最大限に活かし、組織をより発展させていくことこそが本来のリスクマネジメントとしての役割なのです。名古屋議定書のABS対応でも同様に、適切にリスクマネジメントを行うことによって相手の信頼を得ることができ、共同研究相手や相手国との信頼関係が構築されることによって研究活動が行いやすくなり、相手国へ適切に利益を配分することによって相手国の発展にも寄与することが出来るのです。

リスクマネジメントの必要性

 今後、大学等がより発展していくためには、リスクマネジメントに積極的に取組んでいくことが必要であると考えています。そのためにもリスクマネジメント部門ではcompliance(法令遵守)対応だけでなく、それらに関連する産学連携活動や国際交流活動等を一元的かつ横断的に対応し、組織のcost(損失)を最小化しbenefit(利益)を最大化する機能が必要であると考えます。大学等の組織におけるリスクマネジメントの取組みは、CSR(Corporate Social Responsibility)ではなく、CSV(Creating Shared Value)における共通価値を創造するものでなければなりません。組織が適切にリスクマネジメントを行うことにより、compliance(法令遵守)やsustainability(持続可能性)を追求するだけでなく、中長期的な視野を持って社会的状況や経済状況を鑑み、社会的意義のある事業活動を行っていく事で、より社会に貢献し堅実な組織経営を行っていくことができるのです。