齋藤 寛学長 送別の言葉

 齋藤 寛学長の離任式に際し,教職員を代表して,長崎大学の発展に貢献された齋藤先生に謝辞を述べさせていただきます。

 齋藤先生は,国立大学の法人化前後の6年間,長崎大学長の重責を担われました。法人化は,これまでにない大学の大改革と言われ,学長は強い適切なリーダーシップをもって大学を運営することが求められるようになりました。そこで齋藤先生は大きな負荷と責任を感じられて学長職をつとめられたことと思います。
 その結果,国際連携研究戦略本部や環東シナ海海洋環境資源研究センターなど長崎大学の特長となる部局の新設,生産科学研究科への環境科学専攻,医歯薬学総合研究科への熱帯医学専攻などの修士課程の新設など,教育研究活動の活性化と,工学部,教育学部,水産学部,病院の改修工事など,教育研究環境の改善がなされ,教職員の多くが長崎大学は以前に比べ活性化したと評価していると思います。
 ここに齋藤先生の学長としてのリーダーシップに敬意を表します。

 さて,リーダーシップと言えば,6年前齋藤学長誕生の内輪のお祝いの席で,本年4月退職された工学部の後藤恵之輔先生の挨拶を思い出します。
 後藤先生はかつて中曽根内閣の官房長官であられた後藤田正晴さんが述べられたリーダーが備えるべき4つの条件を紹介されました。
 1.先を見る目,2.意志の強さ,3.統率力,4.器の大きさ です。
 後藤先生はこれらの4つの条件の頭文字,先を見る目の"さ",意志の強さの"い",統率力の"と",器の大きさの"う",を並べると"さいとう"となるので齋藤先生にはリーダーの条件が備わっていると,ジョークをまじえて,齋藤先生のリーダーシップのもとでの長崎大学の躍進の期待を述べられました。
 私は,齋藤先生は後藤先生の予言のごとく各所にリーダーシップを発揮され,長崎大学を活気付けられたと思います。10月7日の長崎新聞も齋藤学長の優れたリーダーシップを紹介しています。私の頭に残る記憶の中で,いくつか例を挙げてみます。

 まず,"先を見る目"です。近年,日本の大学教育のあり方が問題視されています。一月ほど前,NHKテレビのディベート番組で,日本の有能な学生が日本の大学教育の貧弱さに愛想をつかし,欧米の大学に留学していることが報道されました。一方,近年文科省の教育研究経費のなかには,GPやCOEなど,教育改善のための競争的資金が登場しました。このような日本における大学の教育改革の流れをいち早く察知して,齋藤先生は"学生顧客主義"を提唱され,多くのGPを獲得されました。これはまさに齋藤先生の先を見る目がいかに優れていたかを示す一例です。

 次に,"意志の強さ"です。6年前の学長選挙のおり,齋藤先生は健康診断で悪性の血液の病気にかかっていることを知らされました。齋藤先生は数日熟考され,学長に選ばれたならば長崎大学の発展に己を捧げると決断され,自ら病気であることを公表し,学長選挙に臨まれました。これはまさに"意志の強さ"の現れです。

 "統率力"について述べます。私は数回21世紀COEや大学院GPのヒアリングで齋藤先生のお供をさせていただきました。齋藤先生はヒアリングで審査委員の心をつかむには,申請プログラムの推進に対する学長の熱意が最も重要と考えられて,学長が説明すべきと考えられる部分は,自ら原稿を何度も修正され,またヒアリングの直前まで原稿に目を通されました。この姿勢は我々を鼓舞するに十分な統率力です。同様な統率力は長崎大学の特長である国際協力,海外研究でも発揮されました。例えば,原爆60周年を記念してジュネーブで開催されたWHO・長崎大学共催の放射線の人体影響のシンポジウム,ケニアとベトナムでの海外研究拠点開所式,韓国済州大学校での長崎大学済州大学校交流推進室開所式などでの齋藤先生の祝辞や講演は,長崎大学の国際機関との連携や海外での共同研究の推進に多大の貢献を果たしました。

 最後に"器の大きさ"です。私は齋藤先生から大学の運営に関して愚痴を聞いたことはほとんどありません。おそらく長崎大学にも多くの難問が存在したと思いますが,齋藤先生は淡々と問題の解決に努力されたのでしょう。これは器の大きさを示す一例です。

 このようなことから,後藤先生の齋藤先生を見る目は正しかったと言えますが,私は齋藤先生がリーダーシップを発揮できたのは,齋藤先生が持っていらっしゃる"運の強さ"が背景にあると思っています。
 法人化により文科省の大学への財政支援政策は一変しました。幸い,長崎大学は文科省の新しい財政支援政策である競争的教育研究経費に応募できるいくつかの特色ある教育研究活動とその実績を有していました。齋藤先生は先生の特有な"先を見る目"を発揮して,長崎大学の特長を生かしていくつかの大型の教育研究経費の獲得に成功されました。齋藤先生は先生がもつリーダーシップを発揮できる,最も適した時期に学長に就任されるという"運の強さ"を持っていたと言えるのではないでしょうか。
 他にも齋藤先生の"運の強さ"を示す例はいくつもあります。例えば私がお供させていただいたヒアリングでは,必ず審査委員の中に齋藤先生の友人の方がいらっしゃいました。齋藤先生の人脈の広さなのでしょう。我々が獲得したCOEやGPには齋藤先生の"運の強さ"が支援してくれたと思っています。
 齋藤先生の"運の強さ"は退職直前に最高潮に達しました。皆様良くご存知のごとく,一昨日,長崎大学薬学部を卒業された下村 脩先生のノーベル賞受賞という長崎大学にとって開学以来の最高の栄誉がもたらされました。齋藤先生はマスコミの取材に追われ,連日,テレビ,新聞に登場され,大忙しです。

 このように齋藤先生は適切な"リーダーシップ"と"運の強さ"によって法人化という逆風のもとで,長崎大学という舟の帆をうまく張って,長崎大学という舟をうまく出航させたのです。長崎大学は,法人化の利点を活用して教育研究を推進させることに成功した大学の一つです。
 ここに改めて齋藤先生のご功績に謝意を表します。

 齋藤先生は今後も長崎にお住まいとお聞きしていますので,最後にひとつお願いを申し上げます。
 齋藤先生は"運の強い人"であり"幸運児"です。そこで,明日からは,齋藤先生が結成された長崎大学応援団の団長になっていただき,長崎大学が今後,片峰 茂学長のリーダーシップのもと国内はもちろん,国外においても注目される大学に成長するよう,ご支援をいただけますよう,お願いして,私の謝辞といたします。

 齋藤 寛先生,6年間,おつかれさまでした。ありがとうございました。


国際健康開発研究科長   青木 克己

(H20.10.10)




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長崎大学総務部総務課