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学長室

卒業証書・学位記授与式 学長告辞

2019年03月25日

平成最後の卒業となる30年度卒業生の皆さん、大学院修士課程修了者の皆さん、卒業そして修了誠におめでとう御座います。今日まで卒業生、修了生を見守り続けてこられたご家族の皆様にも心よりお慶び申し上げます。全ての教職員および在学生を代表してお祝いの言葉を申し上げます。

卒業の間際にある皆さんにとって、長崎大学で過ごした4年または6年がどれほど重要な期間であったか実感することは難しいと思いますが、学問に限らず多くの事を学び、また興味あることに挑戦してきたことを本当の人生の糧とすることができるのは、これからの未来の生き方次第だということだけでも今日は覚えておいてください。

鎖国の最中であっても西洋文化が上陸した長崎、「文明開化は長崎から」とも言われている長崎で皆さんは自分の専門性を磨き、自ら学びを深める方法と若者らしい想像力と行動力を手にしたことと思います。困難な課題や危機を自ら感じ取り、それに対応する方法を考え決断し、そして実行に移す、また失敗した場合もその過程を振り返り、粘り強く次の挑戦に向かう、このように現場に強い力を、それぞれの個性にあわせた多様な考え方で学び取り、巣立って行くものと確信しています。正直に言いましょう。学問だけが学びではありません。社会で独り立ちすることを目的とした生活のあらゆる場面が学びの宝庫であり、皆さん一人一人にとって、社会で役に立つものはそれぞれに異なり、時に意外なものかもしれません。一人一人が考えて、かつ行動できれば、何もかもが糧となり得ます。

皆さんを待ち受ける世界は、そもそも単純なものではありませんが、近い未来では米中貿易戦争が経済的な不安定要素として世界中に大きな影響を及ぼし、英国のEU離脱なども遠くの国の他人ごとではなく、次第に日本に波及してくるでしょう。めまぐるしく変わる情勢の中に明日にでも踏み出さなければならない皆さんが心配であると同時に、誇らしくもあります。

このような時代において、皆さんは自分の人生をどう切り開こうとしていますか。人生の節目において、新しい一歩を踏み出す時、誰しも将来に対する大きな希望とともに、見えないものへの不安を感じるものです。そして新しい環境に徐々に適応し、今までの学びから得たものを駆使して、活躍の地固めをするものと思います。

そこで卒業および修了にあたり、3つの言葉を贈りたいと思います。

第一に、「学び続けること」。人生100年時代と言われる時にあって、極めて長い人生を考えれば、大学を卒業したからと言って、学びの時間は終わるはずもありません。まずは身の回りの問題に一つ一つじっくり対応し、解決に向かいましょう。簡単に答えの出ないものに対しても、諦めず粘り強く対応し続けることが極めて大切です。諦め、投げ出した時が、失敗であり、持続し続ける限り、失敗はありません。若い皆さんには余り必要性を感じないでしょうが、若さを保ち続ける秘訣がここにあります。それは、アンチエイジングの薬でも、美容形成外科の利用でも、柔軟体操でもありません。簡単なことですが、何事にも知的好奇心を失わず、積極的に学び挑戦する姿勢です。自分を常に知的に再武装し続けて、今を生き続ければ、皆さんは世界がどのような状況になろうとも、豊かな人生を送れるでしょう。

第二は、「社会との共生」です。皆さんの中には友達の多い人、少ない人、人付き合いの上手な人、下手な人がいると思います。人生は孤独と感じる人もいるでしょう。しかし、人が一人で生きるにはこの社会は広く、複雑すぎます。皆さんは自分の事だけでなく、社会を豊かにするために何が必要か、自分が何をできるかを考えて行動して欲しいと願っています。このことが世界を考え、地域で行動する、「Think globally, act locally」の実践につながっています。大袈裟に聞こえますが、単純に考えて下さい。衣食住をみて見ましょう。日本の食料自給率はカロリーベースで38%と言われています。つまり6割以上を海外からの食料に頼っています。日本の農業人口が僅か5%であることを考えれば、よく頑張っている方です。しかし衣類の輸入浸透率は97%と国内での生産は僅か3%という驚くべき低さです。住宅を考えた場合、日本の国土の67%が森林ですが、木材の自給率は何%と思いますか。なんと31%です。そして、世界で生きて行く上で不可欠なエネルギーは資源の乏しい日本では僅か8%の自給率です。このように日本で生活していくには、大げさなグローバル化を叫ばなくても、明らかに世界の一員として組み込まれ、そこでしか生きていけないシステムになっています。

ただ豊かに暮らすとはどういうことでしょうか。お金があれば、経済的には楽になるでしょう。ただ収支だけみても、単純に收入が多ければ良いものではなく、生活するためには経費が当然出てきます。2人以上の勤労所帯では東京は、長崎の月給よりほぼ10万円多いと報告されています。しかし、衣食住や光熱費、交通費、教育費などの支出や親への仕送りなどを考えれば、ほとんど差はありません。経済的な事以上に重要なことは、いかに満足して暮らすかということです。仕事はやりがいがあると思うものがよく、たとえ楽ではなくても、自分が好きで、興味があるほうを選ぶでしょう。さらにより大きなものにするためには、人のために、例えば家族のため、地域のため、社会のため、人類のためと人との絆を繋ぐことを考えることが重要です。生きて行く上で、人にとって「社会との共生」を考えることが、幸せな人生を送るために必須と思います。そもそも社会が形成されたのも、共生でしか種を維持できなかった人間の本質によるものなのですから。

第三に「誠心誠意」という言葉です。最初に述べましたように、世界の政治情勢や経済情勢は予測できません。過去を考えてみても、10年前の重厚長大な産業は現在厳しい状況におかれ、GAFAと言われるGoogle ,Apple, Facebook, Amazonのデジタル巨大企業が世界のプラットフォーマーとして大きな影響を及ぼすようになって来ています。10年後はどうなっているでしょうか?今後もAI人工知能が大きく進歩し、人間の仕事を大きく変えるなど予測は立てられています。しかし、将来を悲観しても何にもなりません。どんな未来も現在からの連続であることだけは変わりがなく、今を誠実に生きることの大切さを失うことはあり得ません。いま自分の未来と接触がない世界も未来の自分との接点が必ずあるはずです。

例えば、日本の高齢化は世界トップクラスであり、人口減少を解決し、資源もエネルギーも海外に頼っている現状を大きく変えるためには、AIを活用し、人の頭で新しい発想と想像力で切り開かなくてはなりません。現在の課題に「誠心誠意」向き合えば、変化する社会との共存に一筋の光が見えてくるでしょう。今を誠心誠意生きることが、未来を切り開く唯一の道です。

最後に皆さんの母校長崎大学は、すなわちhome port母港であり、いつでも皆さんを待っています。長崎を離れる皆さんも4年間または6年間学んだ本学を誇りとして、いつでも学び直しに、また懐かしい恩師との語らいや後輩の激励に立ち寄って下さい。長崎の港、山、空が皆さんを温かく迎えるでしょう。

これからの皆様の豊かな活躍を祈念し、私の式辞と致します。本日はご卒業および修了誠におめでとうございます。

 

長崎大学長
河野 茂

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