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学長室

令和6年度春季学位記授与式学長告辞

2025年03月19日

 本日、晴れて学位を授与された皆さん、修了おめでとうございます。
長崎大学の教職員を代表して、心よりお祝い申し上げるとともに、これまでの皆さんの努力、時間、そして情熱に対し、深く敬意を表します。
また、ご列席の指導教員、ご家族や友人、そして支えてくださったすべての方々にも、心より感謝申し上げます。

 本年は、被爆80周年という大きな節目の年であると同時に、「科学技術・イノベーション基本計画」の第6期最終年でもあります。
この計画は、日本政府が科学技術・イノベーション創出を促進するために、1996年から5年ごとに策定しているもので、現在は第6期の最終年を迎えています。
第5期では、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、ロボット、ブロックチェーンなどの先端技術を活用し、経済発展と社会課題解決の両立を目指す社会構想、いわゆるSociety5.0(超スマート社会)が提唱されました。
続く第6期では、カーボンニュートラルの実現やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が重点目標とされています。
しかし、国際情勢の変化や社会構造の急速な変化により、カーボンニュートラルやSociety5.0の実現は未だ道半ばです。

 一方で、近年、基礎研究と経済社会活動の距離が急速に縮まり、研究成果が社会実装されるまでの期間がこれまで以上に短縮される例が多くなっています。
例えば、2019年の新型コロナウイルスパンデミックでは、mRNAワクチン技術が急速に応用され、わずか1年以内に実用化されました。
また、2022年に公開されたChat GPTは、わずか1年でビジネス・教育・医療などあらゆる分野に浸透しました。
これらの事例が示すように、現代は「科学技術・イノベーション力」が、これまで以上に国力に直結する時代となっています。

 では、政府は次の第7期科学技術・イノベーション基本計画において、どのような政策を掲げようとしているのでしょうか。
第7期では、刻々と変化する社会情勢や予期せぬ事態に対応しながら、将来の競争力につながる分野への先行投資をどれだけ行えるかが、日本の盛衰を大きく左右するとされています。
その対象となる分野として、これまで掲げられてきたAI、IoT、ビッグデータ、カーボンニュートラルなどの世界的に競争が激しい分野が引き続き重要であることは言うまでもありません。
しかし、それだけでなく、予期せぬ未来に備え、科学研究を通して多様な分野で豊富な「知」の創造を図ることが極めて重要な鍵だとされています。

 ここでいう「知」とは、単なる情報やデータの蓄積ではなく、社会に価値を生み出し、未来を切り拓くための多様で豊富な知識・知見・技術・発見を指します。
政府は、第7期において、「研究者から生まれる多様な『知』を社会につなげるエコシステムの強化」に重点を置き、その基盤としての大学の役割が、これまで以上に重要になるとしています。

 こうした政策の中で、本年1月、長崎大学は、日本全体の研究力向上と新たな価値創造を促進する「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」の支援対象校として、全国の国公私立大学の中から選ばれました。
この取り組みにおいて、グローバルヘルス・グローバルリスク・グローバルエコロジー3分野の教育と研究を融合させ、全学部・研究科が参加する学際的な教育・研究を推進し、国内外の諸機関と連携しながら、プラネタリーヘルスの実現に貢献する教育研究拠点となることを目指しています。

 政府は、第7期科学技術・イノベーション基本計画における科学技術エコシステムの強化のための先行投資として、J-PEAKSを第6期の最終年に打ち出しました。
J-PEAKSの基金化された助成金は、研究費として使うものではなく、今後10年間で、長崎大学が「知」を生み出し、その価値を社会実装につなげるための高度かつ効率的な研究環境、すなわち「知」のエコシステムを実現するためのものです。

 この「知」のエコシステムの主役となるのは、研究者だけではありません。
URA(University Research Administrator)をはじめとする研究開発マネジメント人材や高度技術専門人材の育成・確保、活躍の促進も重要な要素とされています。
長崎大学は、これらの職階制度やキャリアパスの確立を進めるとともに、博士号取得者のURAへの登用も視野に入れ、研究支援体制のさらなる強化を図っています。

 世界は今、急速に変化しています。
そして、長崎大学もまた、この変化と共に大きく進化していきます。
その中で、皆さんが研究を通じて創造してきた「知」こそが、長崎大学、そして日本、さらには世界にとって貴重な資源となります。
今後も、その「知」を活かし、社会や世界に貢献していくことを期待しています。
そして、長崎大学の掲げるミッション、プラネタリーヘルスの実現に向けて、共に歩んで行きましょう。

 最後に、皆さんに心からのエールを送ります。
どうか、未来への挑戦を楽しみ、自らの力で道を切り拓いていってください。
皆さんの輝かしい未来を心から祈っています。本日は誠におめでとうございます。

長崎大学学長 永安 武