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学長室

長崎大学長の6年を振り返って

2008年10月10日


本学は平成16年4月1日の国立大学法人化に際し,その中期目標前文で,「国立大学法人への移行を契機に,『学生顧客主義』を掲げるとともに,更なる教 育・研究の高度化と個性化を図り,アジアを含む地域社会とともに歩みつつ,世界にとって不可欠な『知の情報発信拠点』であり続ける」ことを宣言した。
「学生顧客主義」と「知の情報発信拠点」という二つの標語に集約される長崎大学の基本目標をより具体的に述べれば,

学長のリーダーシップのもと

  • 長崎大学の個性を発揮する研究の育成,
  • 長崎大学の特徴を活かした人材を育てる教育研究組織の編成と教育プログラムの提供,
  • 学生が主体的に学ぶことを促す教育学習支援体制の充実と基盤環境整備,
  • 長崎大学がもつ知的資産の公開と社会への還元

に努める,の4点に要約される。

  • [1] 学長のリーダーシップ発揮のための資源確保と戦略的配分の実現

(1) 外部資金等の自己収入増加のための工夫及び経費節減の遂行
外部資金については,「優れた研究活動へのインセンティブ経費の配分」等,各種競争的外部資金の獲得を促進するための施策の実施,科学研究費補助金へ の申請率増加や採択に向けた取組を強化してきた。更に,受託研究,共同研究,奨学寄附金の増加や医学部・歯学部附属病院の経営効率化,患者数増などによる 増収努力や,特許料収入の増加と余裕資金の運用等によって,自己収入の確保に努めてきた。また,光熱水料の低減,文書電子化によるコスト削減等で,経費を 節減する努力も進めた。

(2) 学長裁量経費の充実と戦略的配分
自己収入増加と経費節減に努めながら学長裁量経費を,平成17年度の187,130千円から平成19年度には299,000千円(約60%増)へと充実 させ,「公募プロジェクト経費」,「新任教員の教育研究推進経費」,「年度計画対応共通プログラム経費」,「重点研究課題推進経費」等,戦略的・重点的資 金配分を制度化して実施した。

(3) 教職員の柔軟かつ戦略的配置
全学の教員人事を学長協議とするシステムを導入する等,教員ポストについて全学的視野からの学長による管理体制を構築し,学内教育研究施設等への新規教 員の措置など機動的,戦略的に教職員配置を実施した。また,労基法第14条に基づく有期労働契約による教職員の雇用制度を新たに導入し,外部資金により教 職員を積極的に採用することによって,柔軟で効果的な教育研究プロジェクト推進体制を構築した。更に,平成19年度には有期雇用職員への年俸制を導入し, 教職員の戦略的な配置を行った。


冒頭の「I」〜「IV」の四つの具体的目標達成に向けた全学挙げての上述の(1)〜(3)の努力と取組によって実現してきた教育研究上の具体的成果の代表的事例を以下に示す。

I. 長崎大学の個性を発揮する研究の育成:
「放射線医療科学」と「熱帯病・感染症」の二つの研究を,これまでの教育研究成果に基づき本学の研究個性を発揮する代表的研究として位置付けた。「放射 線医療科学」は「放射線医療科学国際コンソーシアム(平成14年度)」として,「熱帯病・感染症」は「熱帯病・新興感染症国際制御戦略拠点(平成15年 度)」として,いずれも21世紀COEプログラムに採択された。
これら二つの国際連携研究分野に,東シナ海・有明海などの環境と資源の保全・回復を目的とする「海洋環境生物資源研究」分野を加え,まず三つの国際連携 研究を,本学の重点研究分野として育成していくことを骨子とする国際戦略を平成16年度に策定した。
この国際戦略の下,三つの国際連携研究のマネジメントに特化した「国際連携研究戦略本部」を平成17年度に創設し,国際連携研究の戦略体制並びに外部資 金の受入など業務運営・経費執行面の手続処理の一元化を行う制度を構築した。更に,同本部に学長管理の教授ポスト2名を配置したほか,10名を超える有期 雇用による教職員を重点的に採用配置した。
「放射線医療科学」については,旧ソ連邦核汚染国との連携研究に加え,現職教授をWHO本部(ジュネーブ)の環境・健康局放射線プログラム専門科学官と して派遣(2年間)するなど,国際機関(WHO)等との連携も推進した。これらの実績は高く評価され,「放射線健康リスク制御国際戦略拠点」が平成19年 度グローバルCOEプログラムに採択された。
「熱帯病・感染症」では,ケニアとベトナムの2か所に,本学が主宰・運営する本格的な常駐型海外感染症研究拠点を設置し,熱帯病・新興感染症の国際連携 研究を展開させることができた。この5年間の実績を基盤に,「熱帯病・新興感染症の地球規模統合制御戦略」が平成20年度グローバルCOEプログラムに採 択された。
「環東シナ海海洋資源研究」は,本学が中心となって日中韓の関係研究機関と連携して取組み,環東シナ海沿岸域の環境と水産資源の保全と回復を通して健全 な生態系を維持し,持続的生物生産の確保を目的としている。平成17年度より「東アジア河口域の環境と資源の保全・回復に関する研究調査(文部科学省教育 研究特別経費)」を開始し,日・中・韓の海洋研究拠点大学との研究ネットワーク構築と研究交流が実現した。更に,韓国済州大学校に本学の交流推進室を設置 して環東シナ海の海洋研究推進のための拠点活動を進めた。
このように,国際連携研究に関する高い実績を出した三つの研究課題をドライビングフォースとして,平成18年度には,特色ある研究10課題(重点研究課 題)を選定し,平成19年度には,学長裁量経費(重点研究課題推進経費)60,000千円を,平成20年度には180,000千円の支援を実施した。更 に,本学次世代の教育研究を担う若手教員育成を目指し「地方総合大学における若手人材育成戦略(平成19年度科学技術振興調整費採択課題,5年間総額 1,238,000千円)」を実施し,重点研究課題にテニュア・トラック制度を導入し,国際公募により,年俸制を適用する12名の助教を採用配置した。

II. 長崎大学の特徴を活かした教育研究組織の編成と教育プログラムの提供:
「熱帯病・新興感染症研究」の成果を基盤に平成20年度に開設した「国際健康開発研究科(独立研究科)」は,保健分野での国際協力活動に必須の資格であ る「公衆衛生学修士(MPH)」の修得と,国際協力の現場で即戦力となるプロフェッショナルな人材の育成を目的としている。
また,これに先行して平成18年度には,医歯薬学総合研究科では,長崎大学最初の試みである全ての講義を英語で行う「熱帯医学専攻(修士課程)」を設置 するとともに,「国際的感染症研究者・専門医養成プログラム(平成17年度大学院GP)」を実施した。また「放射線医療科学」では,ベラルーシ・ゴメリ医 科大学との遠隔教育を実施するなど,グローバルな教育プログラムの展開を推進した。
生産科学研究科では「海洋環境生物資源研究」の成果を反映した「海洋環境・資源の回復に寄与する研究者養成プログラム(平成17年度大学院GP)」を開始した。
また,長崎とオランダとの交流の歴史と文化的な背景に基づき,平成18年度からライデン大学と長崎歴史文化博物館の協力を得て,特色ある国際的な教育プ ログラムである「現代『出島』発の国際人育成と長崎蘭学事始(平成18年度現代GP)」を開始した。平成20年度には,「出島発,肥前の国専門医養成プロ グラム−地域性・国際性豊かな医療人の育成−(大学病院連携型高度医療人養成推進事業)」,「新興金融市場分析の専門家育成プログラム(大学院GP)」, 「国際保健分野に特化した公衆衛生学修士コース(同)」,「地域医療人育成プラットホームの構築(質の高い教育GP)」の採択を受けた。平成15〜20年 度までに合計17課題の特色ある教育プログラム(GP)の採択を受けた。以上の成績は705ある全国国公私立大学のトップテンに位置する。

III. 学生が主体的に学ぶことを促す教育学習支援体制の充実と基盤環境整備:
平成15年度の全学生を対象とした「学生生活調査」の結果(回収率85%)や,「学長と学生の懇談会」等で明らかになった学生の要望に応える戦略的支援 を実施した。例えば,「図書館開館時間の延長」並びに「附属図書館や保健学科図書室等の学習環境基盤整備」は,学長主導の下に強力に推進され,附属図書館 の年間入館者がそれまでの42万人前後から毎年2万人ずつ増加し,平成19年度54万人と法人化前よりも12万人の増加となるなど,学生の学習ニーズを反 映した利用促進と環境整備の効果が確実に現れてきた。このような学習環境基盤整備等の予算は,平成19年度は343百万円に達し,法人化初年度(平成16 年度)比80%の増となっている。
平成14〜20年の6年間で,過去十数年にわたる本学最大の懸案事項である築35年以上の文教キャンパス老朽化校舎(本学全体の68%に及ぶ)の全面改 築改修と医学部・歯学部附属病院新病棟の建設が完了した。改築改修及新築の総面積は143,400m2に及び,総工費487億円を要した大事業が竣工した。

IV. 長崎大学がもつ知的資産の積極的発信と社会への還元:
本学で生産された学術研究成果を電子媒体として登録・保存し,広く世界中の研究者に発信するためのデータベースとして「幕末・明治期日本古写真データベース」と「長崎大学学術研究成果リポジトリ(NAOSITE)」を構築した。
「幕末・明治期日本古写真データベース」は,附属図書館が整備し,インターネット上に公開したもので,これまでの累積アクセス件数は130万件を超え た。また,平成19年度に新たに入手した古写真「ボードインコレクション(Bauduin Collection)」833点のデータベースへの追加が決定している。
NAOSITEには,現在,本学の学術研究成果1万件以上が登録され,2008年1月の世界の学術機関リポジトリランキングで,国内第8位,世界第170位にランクされた。
更に,地球環境問題を考える上で有用な「ガラパゴス諸島画像」1,300枚をデータベース化して公開した。
年4回発行の広報誌「CHOHO」では,「来たれ,未来の工学人」,「ケニアの空の下で」等,本学の特色ある取組を特集として取り上げ,多数の図や写真 を交えて分かり易く解説した記事により情報発信した。本誌は高い評価を受け,発行部数も当初の3,000部から10,000部飛躍的に増加した。また,本 学ホームページでは,学内の様々な活動をタイムリーかつ視覚的に持続発信している。
平成19年度から長崎市との共催で,史跡「出島」内に「長崎出島サイエンスカフェ」を開き,本学がもつ知的資産を題材に市民との交流を深める試みも開始した。
知的資産の社会への還元については,法人化と同時に発足した「知的財産本部」と「(株)長崎TLO」が連携して推進した。また,共同研究及び起業支援の ために立ち上げた「産学官連携機構」が,平成19年度に長崎市出島地区に設置されたインキュベーション施設を拠点とする,工学部テクノエイド教育研究セン ターと県内企業8社による「斜面地に居住する高齢者の生活環境の改善」に向けた医工連携活動を支援した。

  • [2] 学長のリーダーシップを保証する組織体制の効果的運用

(1) 効果的・機動的な運営組織の整備
学長のリーダーシップの下で大学運営の重要事項を審議する「戦略企画会議」を設置し,経営戦略の立案に向けて効果的・機動的な審議を進めた。また,学長 補佐を主な構成員とする「学長室」を設置して,様々な課題点や解決方法を調査・検討・分析した。

(2) 企画・実行・評価・改善のシステム構築
学長を本部長とする「計画・評価本部」で自己点検・評価及び国立大学法人評価委員会の評価を踏まえた次年度の計画立案を行った。これによって大学運営に おける,計画の策定→業務の実施→業務結果の評価→外部評価や自己点検・評価の結果を実際の計画策定にフィードバックするシステムを確立した。

(3) 経営協議会の活用と監査機能の充実
「経営協議会」には地域の有識者・自治体の長のほかに国際機関の長も加え,学外の有識者の視点から大学経営を審議する体制を整えた。また,国立大学法人 経営の在り方について,積極的なコミュニケーションを図ることによって,学外有識者の意見を,法人経営に反映させた。
内部監査は,学長直属の監査室が,業務及び会計監査を定期的・臨時的に実施し,その結果を学内に公表して,指摘事項に対し該当部局において適切な措置を 講じた。平成19年度には,科学研究費補助金についての特別監査を,22%以上の研究課題を抽出して実施し,通常(10%)の割合を大きく超える内部監査 を実施する等,内部監査機能は法令遵守の上で大きな役割を果たしている。

(4) リスク管理と環境管理
本学において生じることが想定される危機事象に対処するための危機管理体制を構築し,危機事象発生時の連絡体制と対応手順を含む「長崎大学における危機 管理体制に関する要項」としてまとめた。また,これまでに整備した各危機事象に対応する全学的危機管理マニュアルは,危機管理担当理事の下で掌握し,学内 教職員専用ホームページの危機管理マニュアル等サイトに集約した。
環境管理については,平成18年3月に「環境配慮の方針」を制定・公表し,これを全学的に推進するための組織として「環境委員会」を設置した。また,平 成18年度から「環境報告書」を本学ホームページ上に公開し,環境に関連する教育・研究活動及び環境負荷の状況,並びに省エネルギー等への取組に関する情 報を社会へ発信した。

  • [3] 総括と展望

平成16〜19年度の全体を通して,中期計画を順調に実施することができたといえる。この4年間ですでに「達成済み」の項目も多くあり,中期目標の達成に向けた取組が着実に進んでいる。
折しも,平成19年度は,長崎大学創基150年の記念すべき年にあたる。
その歴史は,1857年11月12日「医学伝習所」の設立に始まる「創生と発展の時代」,ついで原爆の惨禍を被り,1,000人もの教職員学生が犠牲と なった1945年8月9日以来の「再生と復興の時代」に分けることができる。そして,今,我々は,これまでの長崎に根付く伝統文化を継承しつつ,社会の要 請に応える個性的で特色ある大学として教育研究の水準の更なる向上に向けた「新たなる発展の時代」のスタート地点に立ったといえる。
幸いにも,平成20年度までに,本学の最大の懸案事項であった築35年以上の文教キャンパス老朽化校舎の改築改修が完了し,平成20年6月には医学部・歯学部附属病院の新病棟が稼動を開始した(改築改修新築の総面積143,400m2,総額487億円)。
これら大学の基盤となる施設の整備完了ととともに,長崎大学創基151年の平成20年を第3の時代,すなわち「新たな発展の時代」と捉えて,それにふさ わしい21世紀を代表するような先進的で特徴的な研究と教育を行う大学を創っていくことを期すものである。
一方では,新病棟建設借入金の返済が始まるなど,厳しい経営環境の中でのスタートともいえる状況にあり,新しい大学の創造とともに,施設の有効活用はも とより,これまで以上の経営の効率化・合理化こそは,国立大学法人長崎大学が解決しなければならない最大の課題である。
「長崎大学創基151年・新たな発展の時代をリードする学長は片峰茂教授をおいて余人なし」。これが私の年来の信念であった。
長崎大学は片峰茂学長のもと,1857年11月12日以来の「創生と発展の時代」,原爆の惨禍を被り900名もの教職員学生が犠牲となった1945年8 月9日以来の「再生と復興の時代」についで,ここに「新たな発展の時代」を迎えるものと確信する。


追記:
2008年10月8日,長崎大学名誉校友・下村脩博士が緑色蛍光タンパク質GFPの発見による現代分子生物学の飛躍的発展への貢献によりノーベル化学賞 を受賞された。博士は原爆復興が緒についたばかりの1948年,長崎医科大学附属薬学専門部(現・長崎大学薬学部)に入学され,1951年にご卒 業,1958年長崎大学薬学部助手,1963年名古屋大学水質科学研究所助教授,その後プリンストン大学,ウズホール海洋生物研究所,ボストン大学で研究 を進められた。
長崎大学は下村脩先輩の卓越したご研究を顕彰するべく,2007年10月20日,先生を米国からお招きして,「長崎大学名誉校友(第3号)」に推戴申し 上げるとともに,記念講演をお願いした。先生は半生を賭けた研究の道のりを淡々と,ときにユーモアを交えてご紹介下さり,最後に「私をこれまでに育ててく れたのは,いつにかかって長崎大学での教育にある,私は長崎大学に限りない恩恵を感じている,母校の今後ますますの発展を祈る」と結ばれ,参列した教職員 学生市民のすべてが深い感銘を受けた。
以下は,下村先生ノーベル化学賞受賞当日,長崎で行った記者会見の私のコメントである。「長崎大学長として申し上げたいことは,大都市部にある大規模大 学ではなく,地方に位置する国立大学,しかも原爆の惨禍を受け,そこからようやく立ち上がり始めた長崎大学で学びを開始された下村脩先生が,この栄誉を受 けられたことに,深い尊敬と大きな喜びを持っています。地方大学であることが卓越した研究を阻むのではなく,高い志を持って学び,研究することによって世 界に貢献できることを教えていただいたのです」。この会見は全国放送され,その反響はとても大きかった。
本文でも述べたように,本学は今年創基151年を迎える。すなわち,1857年11月12日「医学伝習所」の設立に始まる「創生と発展の時 代」,1945年8月9日原爆により教職員学生1,000人余が犠牲となって以来の「再生と復興の時代」を経て,特色ある地方国立大学として世界トップレ ベルを目指す「新たなる発展の時代」のスタート地点に立っているのである。下村脩先生のノーベル化学賞受賞はまさに長崎大学の新たなスタートへの号砲であ り,祝砲である。