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学長室

平成21年度長崎大学入学式学長告辞(平成21年4月8日)

2009年04月08日

新入生の皆さん,入学おめでとう。諸君の入学をこころより歓迎します。夢と意欲に燃えて大学生生活の第一歩を踏み出されたことと思います。これからの4年または6年間の大学生活をおおいにエンジョイしてください。そして,多くのことを学び,体験し,色々な意味での付加価値をたくさん身につけて欲しいと思います。

私は昨年秋の学長就任に際して,大目標の一つとして,「志と覇気にあふれた若者が集う大学」を実現することを掲げました。大学の活性のレベルをもっとも反映するのは君たち学生諸君の眼の輝きだからです。大学は,さまざまな出会いを提供し,君たちが夢や志を育むことのできる場であるべく努力します。皆さんには,長崎大学という場を最大限に利用し,様々のチャレンジ・体験をし,新たな自分を発見してほしいと思います。

今日は,皆さんに二つのことについてお話ししたいと思います。ひとつは想像すること,二つ目は自立することです。

今の世の中,テレビやインターネットを通してさまざまな情報がリアルタイムで画像として私たちの目に飛び込んできます。しかし,若い皆さんに,時には静かに眼を閉じ,さまざまのことを自らの頭の中で想像し,イメージし,心に思い描いてほしいと思います。それが,皆さんの夢や憧れや志を育むことにつながると思うからです。

今,皆さんは長崎という街での学生生活,長崎大学という空間あるいは共同体での学びを開始しようとしています。先ず,長崎のこと,長崎大学のことをイメージしてみてください。そして,長崎大学で学ぶことの意味を考えてみてほしいと思います。長崎という街にも,大学にも長い歴史があり,その中で先達・先輩たちによって蓄積された有形無形の財産があります。それらが渾然一体となって,この街特有の"におい"をかもしだし,あるいは大学の伝統を形作っているのだと思います。

皆さんご存知のとおり,長崎大学の沿革は江戸時代末期150年前のオランダ人医師ポンペによる医学伝習所の開設にさかのぼります。皆さんの前方に当時の伝習所で学ぶ13名の若者たちの写真をお示ししていますが,当時の長崎には西洋文明を学ぼうと日本全国から野心に満ちた若者たちが集結していました。長崎で学んだかれらは,ほどなく明治維新を担うことになります。坂本龍馬が,福沢諭吉が,そして大志を胸に秘めた君たちと同じ年頃の多くの若者が,眼を輝かせ天を仰ぎながら長崎の街を闊歩している情景を想像してみてください。それだけで愉快じゃありませんか。

長崎大学は悲しい体験もしました。1945年8月9日の原子爆弾による被災です。学び舎は破壊しつくされ,瞬時にして本学の教職員・学生約1,000名の生命が奪われました。長崎市民の犠牲者は数万名にも及び,そして今なお後遺症に苦しむヒバクシャがおられます。彼らの無念に思いを致してほしいのです。そして瓦礫の中で立ち上がり,復興に尽力され,現在の長崎大学の礎を築いていただいた先輩たちの血の滲むような努力にも,思いを巡らしてください。

昨年,長崎大学にとって大変嬉しいことがありました。1951年卒業の大先輩,下村脩先生のノーベル化学賞受賞です。先日,先生ご夫妻にご来学いただき,母校の後輩たちに力強く温かい激励の言葉をいただきました。下村先輩は,原爆被災直後の長崎大学で,大変な苦労をされながら研究に没頭し,研究者としての志をたてられました。皆さんが今から,学び,そして生活する同じこの長崎大学という場所・空間で,50年前60年前に下村先輩が原爆被災後の何もない環境の中で一心に研究に取り組まれたお姿を想像してみてください。自然と,夢と力がわいてくるはずです。

さて,過去に思いを馳せるだけではなく,日本や地球の現在そして未来のこともイメージし想像してみてください。20世紀後半,科学の驚異的な進展は人類に素晴らしい文明をもたらしました。日本は,その恩恵を最も享受した国の一つであり,私たち日本人はこれまでにない平和と豊かさの中で生活ができるようになりました。しかし,21世紀に入り,地球や人類の未来に少し影がさしてきています。米国発の経済不況が世界を覆い,地球規模の環境破壊,食糧危機や感染症のまん延が人類の存続すらも危うくしかねないことが認識されつつあります。そして,その影響は,世界においてはアジア,アフリカの途上国に,国内にあっては地方に突出して現れています。

地球温暖化で急速に溶け出している北極の氷河をイメージしてください。そして,温暖化がこのままのスピードで進むと50年後100年後の地球がどのような状況になるのか想像してみてください。食べ物がなく飢え,感染症におかされても医療を施されることなく死んでゆく,内戦のアフリカに生まれた子供たちに思いをはせてください。東京には人があふれかえる一方で,過疎化により学校や病院が閉鎖され,数時間もかけて学校や病院にいかなければならない地域がこの長崎県にもどんどん増えている現実を考えてみてください。

しかし,暗い未来ではなく,明るい未来をイメージしたいものです。これまでもそうであったように,人類はその知恵と努力で,この21世紀に山積する多くの地球規模課題を克服し,明るい未来を切り拓いていくにちがいありません。壮大なチャレンジになるでしょう。そして,その役割の中心を担うのは,無限の可能性を秘めた,君たち若者世代であることは間違いありません。そうです。この21世紀の人類のチャレンジの真っただ中に立ち奮闘する将来の君自身の姿も,是非とも想像しイメージしてほしいのです。

人間は多様であり,君たちそれぞれは異なる個性を持っています。将来,君たちが社会で果たすことになるであろう役割もそれぞれ異なるはずです。大学生活を通して,それぞれの志を立て,将来の夢実現に向けてそれぞれのやり方で準備し蓄積してほしいと思います。多様性の中のオンリーワンとしての自分自身を認識し,自立した個性を確立してほしいと思います。

重要なキーワードは自立です。大学での生活は高校までの生活とは一変します。何といっても大学生は社会から一人前の人間として見られます。したがって,学則の縛りもゆるやかなはずです。お好みのファッションを身にまとおうが,お化粧をしようが,夜遅く街を歩こうが,様々な社会活動をしようが,社会的規範を踏み外すことがない限り,咎められることはまずありません。要するに,大学生には大きな自由が与えられています。自由をエンジョイする中で,自立することを学んでください。親への精神的・経済的依存から脱却することも自立でしょうが,大学で学ぶ自立とは,「自ら考え,調べ,決断し,実行する人間力」を身につけるということだと思います。大学生活の中で,そして今後の長い人生において,君たちの前には様々な困難や課題が立ち現れるはずです。それらの課題をどうしたら解決できるのか,自分の頭で必死に考え,自分自身の足で,眼で,耳で情報を収集し,その上で,自分で結論を出すのです。そして一旦出した結論は少々の困難が伴おうが,やりぬくのです。これが,「自立した人間力」です。言葉で言うほど簡単ではないことはよく分っていますが,「自立」を目指してがんばってほしいと思います。

先ずは,「自ら学ぶこと」から始めるのがよいかもしれません。受け身ではなく,目的をもって主体的に授業に臨んでください。そして,授業以外にも,その気になれば図書館,インターネット,サークル活動など「自ら学ぶ」ための環境が大学にはたくさんあります。おおいに活用してください。それから,乱読でもよいですから,本をたくさん読んでください。そして考え,考えたことを口に出し,文章に書き,表現してみてください。君たちの語りかけ,問いかけに,先生方も,先輩たちも,仲間たちも,きっと応えてくれるはずです。そのような,君たちの前向きの努力や活動をサポートするために大学は最大限の努力を惜しみません。皆さんの奮闘・努力を期待します。

それでは,4年後あるいは6年後の未来に多くのものを身に着け,自立し,今より一回りも二回りも大きくなって,同じこの場所での卒業式に臨む君たちの姿を想像しながら,私のあいさつを終わりたいと思います。

本日は,まことにおめでとうございました。


長崎大学長
片 峰   茂