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学長室

平成19年度長崎大学卒業証書・学位記授与式学長告辞

2008年03月25日

本日,ここに,皆さんの先輩に当たる長崎大学の8学部,1研究所の同窓会会長をご来賓としてお迎えし,また長崎大学理事,学部長,評議員の列席のもと,平成19年度長崎大学卒業証書・学位記授与式を挙行できることは長崎大学にとりましてこの上ない喜びです。

1,654名の学部卒業の皆さん, 373名の大学院修士・博士前期課程修了の皆さん,卒業おめでとう。また,皆さんをこれまで支えてくださったご家族の皆様にはさぞかしお喜びでございましょう。心よりお祝い申し上げます。

また,本日,卒業・修了の日を迎えた42名の外国人留学生の皆さんを心から祝福します。異国に住み,日本語を習得しな がらの勉強と生活はとても大変だったでしょう。皆さんとはインターナショナル・カルチャー・デイや留学生交流の夕べなどでよくお会いしました。思い出は尽 きません。ほんとうに卒業おめでとう。

さて,本日の卒業式にあたって,どんな挨拶をすればよいのか私は悩みました。それは,私は小学校から大学院修了まで,入学式や卒業式に数多く出席したのですが,恩師のお話をまったくといってよいほど覚えていないからです。

そんな私ですが,ひとつだけ,私が東北大学を卒業したときの黒川利雄学長の言葉を覚えています。

今から45年前の1963年3月のことです。黒川学長は「金縷(きんる)の衣再び得べし,青春去ってまた帰らず」と話されました。「金縷の衣」とは「金の糸で織った服」のことで,中国では「富や栄華の象徴」です。

黒川先生は「お金は失っても取り戻すことができる,しかし,過ぎ去った若さは二度と帰らない,若さを無駄にせず,勉強してほしい」と教えてくださったのです。

黒川先生はわが国の消化器エックス線診断学のパイオニアであり,文化勲章を受章された方です。また,黒川先生の若い頃 からの勉強振りは伝説的でさえありましたから,「私は年をとりました,もう新しいことは勉強できません,諸君,どうか若さを大切に」と話されたときの,過 ぎ去った年月を噛み締めるような,そして,どこか寂しげだった先生のお顔を見て,「悔いのない人生であるに違いない先生がどうしてそんなことを?」と感じ たことでした。

それから15年経った1978年のことでした。中国長沙の馬王堆の貴婦人墳墓から「金縷の衣」が出土して,この衣が実 在したことに世界中の人々が驚いたのですが,私は「この15年間,若さを大切にして努力してきたか?」と自問しました。答えは「ノー」でした。黒川先生は 私たちに未来を託してくださったのですが,私は分かってなかったのです。

私は日々遊び暮らしていたのです。このような私ですから,皆さんに立派なことをいえる資格はなく,それで悩んだのです。

今日の卒業式の最初に,長崎大学ロマンツアー合唱団,長崎大学管弦楽団による長崎大学学歌の合唱と福田隆さん指揮によ る管弦楽演奏がありました。皆さんの卒業を祝って後輩たちが心をこめて合唱し,演奏したのです。このような若い人の一生懸命な姿は見る人,聞く人を感動さ せます。

なぜ人を感動させるかといえば,若い人の一生懸命の姿はこの世に明るい未来のあることを人々に感じさせるからだと私は思います。

皆さんは覚えていますか? 私が4年前に皆さんの入学式で話したことを?

「長崎大学は前身の長崎医科大学などのいくつもの学校が1945年8月9日の原爆に被災したこと,教職員学生の犠牲者 は1,000名にも及び,負傷者にいたっては数知れないこと,“生きておられたら必ずや立派な仕事をされたに違いない先輩の分まで,よく学びよく生き る”,これが教職員・学生・OB,すなわち長崎大学人の責務である,そして長崎大学人は平和を尊ぶ心を持たなければならない」と私は説きました。

さらに,「文教・片淵・坂本キャンパスは原爆で生命を落とした先輩たちが眠っている奥津城である,たばこの吸殻のポイ 捨て,紙くずやペットボトルの投げ捨て・置き去りなどは死者を冒涜する実に恥ずべき行為で,あってはならない。ゴミが落ちていたらそっと拾って片付けてく ださい」と皆さんにお願いしたのでした。

長崎大学のキャンパス清掃の仕事をしている人たちが,[学長さん,この数年,キャンパスがとてもきれいになりました,タバコのポイ捨てが本当に少なくなりました]と話しくれました。
誰がそうしたか? それは皆さんです。

4年前に図書館の開館時間を延長し,図書館の机・椅子を新調し,学生用図書を充実しました。図書館利用者は4年前までの年間42万人から,毎年2万人ずつ増加して,今年は50万人を突破しました。
誰が図書館で勉強したのでしょうか? もちろん皆さんです。

「ランチタイムコンサート」,「よさこい突風」,「わっかもん舞踏祭」,「ピアサポート」などの新しい課外活動がはじまりました。
誰が始めたのか? もちろん皆さんです。

若いときを漫然と過ごしてしまった私ですが,皆さんは違います。「一生懸命」でした。敬服します。

何も言うことのない皆さんですが,ひとつだけお願いしたいことがあります。

大学構内を歩いていて,学生諸君から「こんにちは」と声をかけてもらったとき,あるいは「目礼」をしてもらったとき,私は本当に幸せでした。

いい年をした私がこんなことを言って恥ずかしい限りですが,「挨拶される」ということが人間をどれだけ幸せにするがはじめて分かりました。

人間を幸せにするということほど素晴らしいことはありません。
どうか皆さん,明日から仕事場の上司同僚後輩,また同じアパートの人に会ったら,皆さんのほうから「おはようございます」,「こんにちは」と挨拶をしてください。
この一言で周りの人々が幸せになり,周りの人々から皆さんが親しまれ信頼されるのです。

まず,今日の卒業式の後,ご両親に「卒業できました,ありがとうございました」と挨拶してごらんなさい。どれだけご両親が喜んでくださることか,私には確信があります。

皆さん,卒業おめでとう。皆さんは長崎大学の誇りです。長崎大学は皆さんを決して忘れません。どうか健康に気をつけて,平和を尊ぶ心を忘れずに,よりよく生きてください。
これをもって学長告辞といたします。

長崎大学長   齋 藤   寛