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学長室

平成20年度長崎大学卒業証書・学位記授与式学長告辞

2009年03月25日

平成20年度長崎大学卒業生の皆さん。卒業おめでとう。ご列席のご家族の皆様にも心よりお祝い申し上げます。 長い間の卒業生へのご支援まことにありがとうございました。
さて,皆さんの大学生生活は如何だったでしょうか。エンジョイできたでしょうか。十分に満足のいくものであ った人,いまひとつ心残りのある人,それぞれの思いがあるでしょう。しかし,4年前あるいは6年前,同じこの場 所で行われた入学式に出席した時のあなたとは確実に異なっている自分を今見出してほしいと思います。大学生活 の中で,多くの出会いを経験し学び,多くのことを得て,そして大きく成長したあなたが,ここにいるはずです。
新たな一歩を踏み出そうとされている皆さん。君たちの未来は無限に拡がっています。今,地球も,人類も,日 本という国家も,そして長崎という地域も,さまざまの困難と課題を抱えています。無限の可能性を有する皆さん に期待するところきわめて大であります。将来は君たちの奮闘にかかっています。

はなむけといっては何ですが,今日は皆さんに二つのことを申し上げたいと思います。一つ目は,"Change":変 わることあるいは変えること,二つ目は多様性です。

アメリカの新大統領バラク・オバマが"Change"を合言葉に多くの支持を集めたことは,よくご存知の通りです。 オバマの"Can you change?"という問いかけに,アメリカ国民とくに若者たちは"Yes, we can."と熱狂的に応えま した。なかにはオバマの演説を聴いて泣き出す者もいたほどでした。彼の卓越した話術が一つの原因であることは 事実でしょうが,"Change=変わる或いは変える"という言葉がアメリカ国民の心に強く響いたのだと思います。翻 っていえば,アメリカ国民は変えることの必要性を,心のどこかで感じ始めていたということでありましょう。君 たちの胸にはオバマの言葉はどう響いたでしょうか。
5,6年前のある大学での調査によると,学生たちに「30年後,どんな日本であってほしいですか」と聞くと, 「今と変わってほしくない」というのが典型的な答えであったそうです。それは,ある意味で,日本が,幸せでい い国だと満足していたのだろうと思います。これ以上何も求めていない。しかし,そうなると,逆に失うこと変わ ることを想像するだけでも怖くて,将来に不安を持ってしまう。社会は,いつの間にか保守的になって,変化に対 して臆病になっていたのだと思います。社会も自然状況も変わってほしくないと思っていたかのようです。しかし, これからは,それでは通らないことを皆さん気付きだしていると思います。地球温暖化を例にとってみましょう。 望もうが望むまいが,このままでは温暖化は急速に進行し,50年後100年後には地球にそして人類に大きな災難をも たらすであろうことを我々は知っています。人類をとりまく環境は確実に変化していきます。温暖化のスピードを 緩和し,温暖化に対応するためには,われわれ人間の意識を変え,社会のシステムを変える必要があることは云う までもないことだと思います。
日本は,近代から現代にかけて,二度の大きな変革を体験しました。一つは明治維新,二つ目は第二次世界大戦 の敗戦からの復興です。明治維新を果たした日本は,坂の上の雲を目指して富国強兵にまい進し,日清戦争・日露 戦争を通して欧米列強への仲間入りを果たしました。戦後は平和憲法の下,経済発展にまい進し,一度は世界一の 経済大国へと上り詰めました。そして今,第三の変革の時が来たといわれています。しかし,過去二度の変革とは根 本的に異なることがあります。それは,今われわれが直面する課題は全て世界規模,地球規模である点です。地球 温暖化しかり,経済不況しかり,感染症の流行しかり,枚挙にいとまがありません。全ての矛盾は地球規模であり, 日本一国では解決できません。そしてこれらの矛盾は,世界においてはアジア,アフリカの途上国に,国内にあっ ては地方に突出して現れることを認識してください。明日からの皆さんの活躍の場が,海外にあろうと,東京であ ろうと,ここ長崎であろうと,地球規模課題に向き合う必要があるのです。ますます国際的視野を養い世界を睥睨 し,変化をおそれることなく,課題に対して最先頭で前向きにチャレンジしてほしいと思います。

次に多様性について述べます。地球にはきわめて多様な生物が存在します。人間も各人各様ですし,民族も,文 化も,宗教も多様です。多様性の尊重とその連携が21世紀のキーワードになるであろうことにわれわれは気付きつ つあります。地球環境の維持・保全のためには生物多様性がきわめて重要な役割を果たすことはよく知られていま す。危機に瀕しつつある生物の多様性を我々は守る必要があります。社会に眼を転じると,9.11同時多発テロ以降 のアフガン・イラクにおける戦争や,市場経済一辺倒のグローバリズム経済の破綻などは,既存の一面的・一元的 な価値観・哲学では21世紀の地球規模課題に対応することが困難であることを教えているのだと思います。多様性 を尊重し,いかにして異なる民族,文化,宗教がお互いを理解し連携することができるのか,今後の人類に課せら れた最大の課題といえるのではないでしょうか。
そして,人間の多様性です。多様な自立した個性,才能の営為の中から様ざまな発想や発明が生まれ,それが組 み合わさることによって世の中を変えるブレークスルーが生まれることを知ってほしいと思います。多様性の中の オンリーワンとしての自己を認識し,自立した個性に磨きをかけてください。自立とは,「自分で考え,調べ,決 断し,実行する人間力」を身につけるということなのです。これからは,それぞれの場所で,個性を伸ばし,そし て自立した職業人として知識人として成長していってください。期待しています。

大学院進学で大学に残る諸君もいるでしょうが,ほとんどの皆さんは今日長崎大学を飛び立とうとしています。 お願いがあります。今後も,時には母校の動向や後輩たちのがんばりに目をとめていただきたいのです。先日,ノ ーベル化学賞を受賞された1951年卒業の大先輩,下村脩先生がご来学され,母校の後輩たちに力強く温かい激励の 言葉をいただきました。同窓の先輩こそ,母校,長崎大学の最大の応援団であることを再認識しました。長崎大学 は,下村先輩からいただいたかけがえのない贈り物を末永く大切にし,大学の新たな伝統の創造につなげていきま す。皆さん外にあっても,母校,長崎大学を見守ってください。そして機会あるごとに後輩たちへの応援,ご指導, 叱咤激励をいただければ幸いに思います。

最後に,卒業生の皆さんの今後のご健闘と,その先にある栄光ある未来を,心より祈念して,お祝いの言葉とし ます。

長崎大学長
片 峰   茂

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