HOME > 大学案内 > 学長室 > メッセージ > 平成14年度長崎大学卒業証書・学位記及び修了証書授与式 告辞

大学案内Guidance

学長室

平成14年度長崎大学卒業証書・学位記及び修了証書授与式 告辞

2003年03月25日

皆さん、卒業おめでとう。なかでも、外国人留学生の皆さん、本当におめでとう。卒業まで大変だったでしょう。留学生の皆さんの努力に心から敬意を表します。長崎大学はほかの国立大学に比較して学生の勉学・生活環境の整備が遅れています。そんななかで勉学に励んで下さった皆さんにあらためてお礼と感謝を申し上げます。

さて、卒業式にあたって、どんな挨拶をすればよいのか私は悩みました。私は小学校から中・高・大学、さらに大学院と、数多くの入学式や卒業式で聞いたはずの恩師のお話を何も覚えていないからです。

ただ一つ、東北大学医学部卒業の時の黒川利雄学長の言葉を覚えています。それは、奇しくも、今からちょうど40年前の昭和38年3月25日のことでした。黒川学長は「金縷(きんる)の衣再び得べし、青春去ってまた帰らず」と話されました。「金縷の衣」とは「金の糸で織った服」のことで中国では「栄華や富の象徴」です。黒川先生は「お金は失っても取り戻すことができる、しかし、過ぎ去った若さは二度と帰らない、若さを無駄にせず、勉強してほしい」と教えて下さったのです。

黒川先生はわが国の消化器エックス線診断学のパイオニアで、学士院賞と文化勲章を受章されました。また、黒川先生の若い頃からの勉強振りは伝説的でさえありましたから、「私は年をとりました、もう新しいことは勉強できません、諸君、どうか若さを大切に」と話されたときの、過ぎ去った年月を噛み締めるような、そして、どこか寂しげだった先生のお顔を見て、「悔いのない人生であるに違いない先生がどうして?」と、その時は感じたことでした。

それから15年経ったある年、中国長砂の貴婦人墳墓から「金縷の衣」が出土して世界中の人々が、この衣が実在したことに驚いたのですが、私は「この15年間、若さを無駄にせず勉強したか?」と自問しました。答えは「ノウ」でした。このような私ですから、学長告辞といわれても、皆さんに何かを申し上げるような資格はなく、それで悩んだのです。

皆さんには、一つのお願いと、一つの約束をして、挨拶にかえることにします。私は医学部を卒業してから15年間、東北大学附属病院で内科腎臓学を専攻しました。そこで学んだことは「患者さんをよく診る」、「カルテをきちんと書く」、「平明な言葉で自分の考えを述べる」の三点でした。この3点の重要さはどんな仕事でも同じではないでしょうか。たとえば、会社の営業マンでも、「事態をよく見る」、「きちんとメモをとる」、「自分の言葉で平明に説明する」ことが大切なはずです。
私は19年前に長崎に来ましたが、この長崎で、もう一つ大切なことを学びました。それは「平和を尊ぶ」ということです。「長崎で学ぶ」ことのもっとも大きな意義は「平和を尊ぶ」ことを学ぶことだと信じます。

「よく考える、あるいはよく観察する」、「正確な記録をとる」、「平明な言葉で自分の考えをきちんと述べる」、そして「平和を尊ぶ」ことのできる人間は、世界中のどこで働こうとも、どんな仕事に就こうとも、そこでなくてはならない人間となると考えます。
才能に恵まれない私でありますが、及ばずながらこの努力をしてきたことで、皆様が私を見捨てることなく、支援下さったものと感謝しています。ましてや、才能に不足ない皆さんの場合は言うまでもないことでしょう。

最後に私の約束を述べます。この世には変えることのできないものが二つあります。一つは「生」、もう一つは「死」です。私はそのほかに「出自」があると考えています。「出自」とは、出発の出と自分の自と書きます。自分の出どころのことです。皆さんは卒業した大学を変えることができません。このことは長崎大学が今後何をなすべきかを明確に示しています。どういうことかと申しますと、皆さんが取り替えることができないのですから、長崎大学は、今日よりも明日、今年よりも来年と、つねに前進しなければならないのです。皆さんが長崎大学を選択して下さったことに感謝します。しかし、在学中、皆さんの能力が最大限に発揮できるように、われわれ教職員が最大最善の努力をしたかと問われたとき、努力しなかったとは申しませんが、少なくとも私には内心忸怩たるものがあります。その反省も込めて、今後、長崎大学は不断の努力を重ねて、一歩一歩前進して行くことを皆さんに約束します。卒業生、教職員、学生のすべてが知恵を出し合って長崎大学を前進させたいのです。本学の歩みに注目いただき、ご提言とご支援をいただきたいと考えます。

皆さん、卒業おめでとうございます。皆さんは長崎大学の誇りです。どうか、健康に気をつけて、面を上げ、前を見て、歩んでください。未来はまさに皆さんのものです。これをもって学長告辞といたします。皆さん、さようなら。またお会いしましょう。