長崎大学長 永安 武 【略歴】
長崎大学は、世界で唯一原爆被爆を経験した医科大学としての歴史を持ち、壊滅の淵から立ち上がってきた大学です。だからこそ長崎大学は理念に「地球の平和を支える科学を創造すること」を謳い、核兵器廃絶の理想を掲げながら、人々が平和に共存する世界を実現するという積極的な意志の下に教育・研究を行ってきました。
その具体的な形として1962年には長崎大学原爆後障害医療研究所を設置し、被爆した方々の治療・健診に力を注いできました。また、放射線災害予防やリスク管理の枠組構築などの分野で国際的な政策提言や人材育成にも取り組んでいます。続いて2012年には長崎大学核兵器廃絶研究センターを開設し、世界に例のない核兵器廃絶に焦点をあてた共同教育研究拠点として、核軍縮や核兵器廃絶に向けた情報や提言を世界に発信し続けています。さらに2024年には、個別の学問の領域を超えて専門知を糾合し、複合的なリスクへの対処法を考えていく共同研究の場としてグローバルリスク研究センターを設け、全方位で平和を希求し、考え、行動してきました。
これらは全て、現在長崎大学が掲げるビジョン、プラネタリーヘルスの実現、すなわち人類が平和で安全な社会を構築するためには、人間が生活している環境や生態系も含めて健康でなければならないという考えと密接につながっています。
しかし、いかに平和への取り組みを継続的かつ積極的に行おうとも、さらなる挑戦が求められる課題に私たちは直面しています。戦後80年は、同時に被爆80年であり、戦争や原爆を体験した世代の高齢化は進み、被爆体験、戦争体験の継承がより切実になっています。そして世界を見渡せば戦争は各地で続き、核兵器の脅威が高まっていることもまた現実です。
そこで、長崎大学は戦後・被爆80年となる2025年を、人々が平和に共存する世界の実現のための「継承と行動」の年と位置付けました。今年、長崎大学が中核となって行う平和への取り組みのうち、現在までに予定しているものは以下の通りです。講演会、対話の場づくり、出版、展示会等幅広い世代を巻き込む活動を通して、私たちは改めて被爆の実相を再認識し、共有、継承し、「核なき世界の実現」「長崎を最後の被爆地に」という使命の完遂に少しでも近づくべく、将来に向けて取るべき行動を起こしてまいります。
2025年1月
国立大学法人長崎大学
学長 永安 武
被爆80年 長崎大学「継承と行動」
プロジェクト (2025年1月30日現在)
1.長崎大学医学部原爆復興80周年記念講演会
- 期間
- 2025年7月14日(月)14:10~16:20
- 場所
- 出島メッセ長崎
- 共催
- 長崎大学(長崎大学医学部・長崎大学原爆後障害医療研究所・長崎大学核兵器廃絶研究センター)
- 基調講演
- 朝長 万左男 長崎大学名誉教授
※その他演者未定
2.広島大学原爆放射線医科学研究所・長崎大学原爆後障害医療研究所 共同企画
原爆被災写真・資料展 「クビロが丘の祈り、フェニックスの誓い」(巡回展)
- 期間
- 2025年7月14日(月)13:00~17:00
- 場所
- 出島メッセ長崎
- 期間
- 2025年7月15日(火)~8月9日(土) 9:00~17:00
※土日祝日を除く(8月9日は開催)
- 場所
- 長崎大学医学部基礎研究棟1階
- 期間
- 2025年8月(詳細未定)
- 場所
- 広島大学医学部医学資料館
- 期間
- 2025年10月23日(木)~26日(日)
- 場所
- 広島国際会議場(日本放射線影響学会第68回大会会場)
3.旧長崎医科大学 原爆記念誌「追憶~長崎医科大学原子爆弾犠牲者の霊に捧ぐ~」
- 時期
- 未定
- 昭和30年(1955年)発行の冊子を英語訳し、発行
4.核兵器廃絶研究センター(RECNA) 核廃絶に向けた「対話」プロジェクト
- 時期
- 2025年通年
-
※核兵器廃絶長崎連絡協議会の取り組みとも連動
分断と対立が深まる世界で、どのような対話をどう進めれば核軍縮や核廃絶への突破口となるのか。RECNAのHPに「対話」プラットフォームを設け、多様な対話を促す。
5.核兵器廃絶研究センター(RECNA)・米国科学者連盟共同研究
- 時期
- 2025年3月(予定)
- 政策提言「北東アジアにおける核使用リスク低減に向けて」
6.核兵器廃絶研究センター(RECNA)・カーネギー国際平和財団共同研究
- 時期
- 2025年7月(予定)
- 書籍発行 テーマ:核兵器のある世界の現状分析と核軍縮再活性化に向けた政策提言
7.核兵器廃絶研究センター(RECNA) 北東アジア非核化プロジェクト
- 時期
- 同書の邦訳と共に2025年夏発行(予定)
- デジタル書籍「Getting to Nuclear Zero in Northeast Asia:The Nuclear Weapons Free Zone as a Vehicle for Change」
8.核兵器廃絶研究センター(RECNA)・核兵器廃絶長崎連絡協議会
- 時期
- 2026年2月頃
-
「対話で平和を組み立てる」プロジェクト
国内外の若手研究者・院生・学生による研究会をつくり、対話を重ね、2026年2月頃を目標に、提言や行動プランなどを盛り込んだ報告書を作成する。
9.核兵器廃絶研究センター(RECNA)・核兵器廃絶長崎連絡協議会
- 時期
- 未定
- 場所
- 長崎市内
-
国連軍縮研究所 ロビン・ガイス所長講演
テーマ「平和と軍縮における対話の大切さ」(仮)
10.多文化社会学部 出版・講演会
- 時期
- 2025年7月頃を予定
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韓国被爆詩人 金光子(キム・ガンジャ)詩集
「詩軸日記 ―長崎、長崎の曼陀羅よ!浦上慰霊曲」出版
- 時期
- 2025年5~8月頃を予定
- 金光子氏他の講演会および韓国(ソウル)セミナー開催を予定
11.長崎大学が持つ歴史的被爆資料を未来に残すプロジェクト
- 時期
- 2025年6月頃~開始予定
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長崎大学には、日本初の紙製人体模型(キュンストレーキ ※Web Choho参照)、被爆時長崎医科大学の学生が着用していた血染めの白衣、永井隆博士のカルテ、傾いた門柱・旧通用門等、原爆の被害を克明に残した歴史的資料が多く所蔵されている。
これら歴史を繋ぐ貴重な資料の修復・保存のためクラウドファンディングを中心とした募金活動を実施する。