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チェルノブイリでの経験を「被ばく医療学」として体系づけ次世代に

人類最悪の原子力災害であったチェルノブイリ原子力発電所事故から30年が経過しました。初期における放射性ヨウ素による内部被ばくは、その後、事故当時小児だった世代における甲状腺がんの激増をもたらしました。長崎大学では1990年から長瀧重信教授(現名誉教授)、山下俊一教授(現理事)を中心としてチェルノブイリ笹川医療協力プロジェクトに専門家として参画し、以降25年以上にわたって医療協力、共同研究を推進してきました。また2008年からは、ベラルーシ共和国のミンスクに長崎大学の拠点(代表部)を設置し、生体試料(甲状腺手術摘出サンプルや血液サンプル等)を活用した分子疫学研究や外部被ばく、内部被ばく線量データや甲状腺疾患をはじめとした種々の臨床データを活用した疫学共同研究を推進しています。

2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故後、長崎大学はいち早く福島復興支援にあたり、特に山下理事と私は福島県におけるクライシスコミュニケーション(発災直後の住民とのコミュニケーション)に取り組みましたが、このような活動を行うことができたのは、チェルノブイリでの長年の経験があったからにほかなりません。

チェルノブイリでは、30年が経過してもなお継続する廃炉作業をどのように進めていくのか、そのなかでの作業者の安全をどのように担保するかなど、まだまだ大きな問題があります。同時に、これからのチェルノブイリを知ることは、未来の福島を予測し、それに対して備えを考えるといううえでも、極めて重要となってきます。その意味で、今後もチェルノブイリにおける研究を継続することは長崎大学の大きな使命であるといえます。

さらに、今後非常に大切なことは、チェルノブイリや福島において多くの知見を積み重ねた長崎大学が、その知見を次の世代へどのように引き継いでいくかということです。本年度から長崎大学は、福島県立医科大学と共同で「災害・被ばく医療科学共同専攻」という大学院修士課程を立ち上げましたが、今後、この四半世紀におよぶチェルノブイリでの経験を「被ばく医療学」として体系づけ、次世代に伝えていくことが、我々の責務であると考えています。

 

原爆後障害医療研究所教授/ベラルーシ長崎大学代表部代表 高村昇