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北潔教授が「日本学士院エジンバラ公賞」を受賞

 

4月6日、北潔教授(大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科長)は、日本学士院の賞である「日本学士院エジンバラ公賞」に選ばれました。

「日本学士院エジンバラ公賞」とは、自然保護、種の保全の基礎となる優れた学術研究に対して隔年に1件授与されるものです。

北潔教授は、細菌や寄生虫、がん細胞などが低酸素環境に適応する仕組みを解明、新薬開発の道を切り拓きました。

 

 

北潔教授の研究内容と受賞理由は以下のとおりです。

北潔教授

北潔 教授

【研究題目】

   熱帯病原性微生物の生存および拡散戦略の解明−寄生虫の多様な環境適応機構−

【受賞理由】

   北潔教授は細菌から寄生虫、そしてがん細胞におよぶ多様な呼吸鎖電伝達系による低酸素適応機構を解明し、エネルギー代謝やオルガネラの進化、そして呼吸鎖電子伝達系の薬剤標的としての意義を明確にしました。そのきっかけは大腸菌が酸素の供給に対応して呼吸鎖電子伝達系を変動させ、酸化的リン酸化によるエネルギー供給を維持している事実の発見によります。そして、寄生虫が同様の戦略を取っているのではないかと考え研究を進めました。

   結果、回虫やエキノコックス、さらにはすい臓がん細胞などのフマル酸呼吸による普遍的な低酸素適応機構やトリパノソーマのシアン耐性酸化酵素など特殊な酵素の存在を明らかにしました。そしてマラリア原虫も含め呼吸鎖電子伝達系が格好の薬剤標的であることを⽰し、実際にナフレジン、アトペニン、アスコフラノンなど天然物由来の新規抗寄生虫薬候補を⾒出し、アフリカなど流⾏地の研究者と共に開発を続けています。

 

【用語解説】

◆呼吸鎖電子伝達系

   NADH やコハク酸などの還元力を持つ代謝産物からの電子を酸素などの最終電子受容体に運ぶ系。脱水素酵素、ユビキノン、シトクロムが順次に電子を渡していき、細菌では細胞膜、真核生物ではミトコンドリアに局在する。

◆低酸素適応機構

   ⼤気中の酸素(20%)に対して⼟壌や深海、動植物の体内には酸素分圧の低い環境が存在する。生物はこの環境に適応するため多様な戦略を進化させてきた。

◆オルガネラ

   「細胞内⼩器官」とも呼ばれる。真核生物に特有な細胞中の構造。DNA を含み遺伝情報を持つ核、細胞のエネルギー工場と呼ばれるミトコンドリア、光合成の場である葉緑体、分解を担当するリソゾームなどがある。

◆酸化的リン酸化

   酸素を用いてエネルギー通貨と呼ばれる⾼エネルギー化合物ATP を合成する仕組み。グルコースなどの糖質や脂肪酸などの脂質からアセチルCoA を経て最終的に電子は呼吸鎖電子伝達系で酸素に渡される。呼吸鎖の持つ水素イオンを汲み出す機能で形成された水素イオンの濃度勾配を利用してATP 合成酵素によりATP が生成される。

◆フマル酸呼吸(下図)

   酸素の代わりにフマル酸を最終電子受容体として用い、酸素がなくてもATP を合成できる系。最終産物としてコハク酸を生成し、⼀般にNADH 脱水素酵素複合体(複合体I)、キノン、フマル酸還元酵素(複合体II)から構成される。

◆トリパノソーマのシアン耐性酸化酵素

   本酵素はアフリカ睡眠病(眠り病)の病原体であるTorypanosoma brucei のミトコンドリア電子伝達系の末端酸化酵素として機能する。この酵素は哺乳類の酸化酵素の極めて猛毒な阻害剤であるシアンに対して感受性を全く⽰さない。宿主が持たない酵素であり、格好の薬剤標的である。北教授が⾒出したアスコフラノンはトリパノソーマを数分で殺滅し、感染ヤギも⼀夜で完治する。

フマル酸呼吸(図)

フマル酸呼吸(図)