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学長室

平成22年度長崎大学入学式学長告辞

2010年04月02日

昨夜の強い雨風がうそのように,青空がひろがっています。今日4月2日金曜日,例年より一週間も早い入学式となりました。まだ咲き誇ったままの桜の花が,君たちの新しい第一歩を祝福してくれています。入学準備のための期間が短く,皆さん大変あわただしく今日を迎えられたことと思います。長崎大学の全ての教職員そして在学生を代表して,あらためて申上げます。平成22年度長崎大学の新入生の皆さん,入学おめでとう。長崎大学は君たちをこころより歓迎します。また,これまで新入生を育み見守ってこられたご列席のご家族の皆様にもお祝い申上げたいと思います。

さあ,いよいよ新しい学びの生活のスタートです。これからの大学生活をおおいにエンジョイしてください。そして,多くのことを学び,体験し,色々な意味での付加価値をたくさん身につけて欲しいと思います。大学は,君たちにさまざまな新しい出会いを提供し,君たちが夢や志を育むための糧となるさまざまな材料を準備します。皆さんには,長崎大学という場を最大限に利用し,さまざまなチャレンジや体験をし,新たな自分を発見し,自立し,そして大きく成長してほしいと思います。

大学での学びは,これまでの学びとは異なります。専門的知識も大切ですが,大学では受け身ではなく自らの力で学ぶための方法=「学びの技法」を身につけてください。それは,単に机の上で勉強することに止まりません。自ら観察し,調べ,体験し,感じ,考え,決断し,そして実践する,これら一連の創造的プロセスを全て含みます。大学生活の中で,そして今後の長い人生において,君たちの前にはさまざまな困難や課題が立ち現れるはずです。それらの課題を解決するための武器,それが「学びの技法」です。自分の頭で必死に考え,自分自身の足と五感を総動員して情報を収集し,その上で,自分で結論を出すのです。そして一旦出した結論は少々の困難が伴おうが,やりぬくのです。言葉で言うほど簡単ではないことはよく分っていますが,ぜひともこの「学びの技法」を身につけてほしいと思います。

学部入学生約1700名の出身地を調べてみました。長崎以外の都道府県の出身者が約60%,長崎市在住以外の県内出身者を加えると,約85%の諸君が新たに長崎という街での生活を開始することになります。遠くは北海道からはるばるやってきた新入生が5名もいます。そして中国・韓国からの留学生22名も含まれています。大学生最初の日にあたり,今日は,君たちが自ら選び入学した長崎大学で学ぶことの意味,そして長崎という街に住み学ぶことの意味を考えてみてほしいと思います。

君たちは,過去の個人的な実体験に基づく記憶とともに生きています。しかし,君たちを形作る記憶は,それだけにはとどまりません。君たちが属する家や共同体が持つ記憶,住んでいる土地の記憶,さらには国や民族の記憶,そして人類の記憶と,大きく拡がっています。それらは,実体験にもとづかなくとも,先駆的な記憶として君たちの心の中に存在するのです。たとえば今咲き誇る桜です。どういうわけか日本人は桜の花に一様に感動し共感を覚えます。その理由を説明することはなかなかできません。これこそ,日本人の持つ先駆的な記憶というしかありません。そのようなものとして,長崎という街にも,長崎大学にも記憶があります。長い歴史の中で先輩たちによって蓄積・醸成されたものです。それらが渾然一体となって,この街特有の"におい"をかもしだし,あるいは大学の学風を形作っていくのだと思います。長崎大学で学ぶことの意味,そして長崎という街に住み学ぶことの意味,それはこの大学の記憶,この街の記憶に思いを馳せ,それを意識し共有しながら学ぶところにあると,私は思います。

これから,イメージを画像でお示ししながら,長崎大学の代表的な記憶について少しお話ししたいと思います。皆さんが長崎大学で学ぶことの意義を考えるための動機付けにしていただきたいと思います。

先ず遠い記憶です。江戸時代末期150年前,鎖国の日本にあって長崎は世界へ開かれた唯一の窓でありました。当時の長崎には西洋文明を学ぼうと日本全国から野心に満ちた若者たちが集結していました。長崎で学んだかれらは,ほどなく明治維新を担うことになります。坂本龍馬が,岩崎弥太郎が,高杉晋作が,福沢諭吉が,そして大きな志を胸に抱いた君たちと同じ年頃の多くの若者が,眼を輝かせ天を仰ぎながら長崎の街を闊歩していたのです。丁度その頃,1857 年,オランダ人医師ポンペがこの地に医学伝習所を開設し,長崎大学の創基となったのです。当時の伝習所で学ぶ13名の若者たちの写真をお示ししていますが,150年前の長崎大学の先達たちの青雲の心意気に思いを馳せてみてください。

二つ目は悲しい記憶,そして長崎大学が決して忘れてはならない記憶です。1945年8月9日午前11時2分,一発の原子爆弾が長崎市上空で炸裂しました。瞬時にして,学び舎と附属病院は破壊しつくされ,本学の教職員・学生約900名の生命が奪われました。長崎市民の犠牲者は数万名にも及び,そして今なお後遺症に苦しむヒバクシャがおられます。彼らの無念に思いを致してほしいのです。そして瓦礫の中で立ち上がり,復興に尽力され,現在の長崎大学の礎を築いていただいた先輩たちの血の滲むような努力にも,感謝の思いを巡らしてください。

そして新しい,嬉しい記憶です。1951年卒業の本学の大先輩,下村脩先生が一昨年ノーベル化学賞を受賞されました。その後,2回ほど,先生ご夫妻にご来学いただき,母校の後輩たちに力強く温かい激励の言葉をいただきました。下村先輩は,原爆被災直後の長崎大学で,大変な苦労をされながら研究に没頭し,研究者としての志をたてられました。皆さんが今から,学び,そして生活する同じこの長崎大学という場所・空間で,50年前60年前に下村先輩が原爆被災後の何もない環境の中で一心に研究に取り組まれていたお姿を想像してみてください。自然と,勇気と力がわいてくるはずです。

もう一度,150年前の記憶に戻ってください。坂本龍馬の記憶です。長崎の港を見下ろす丘の上に,風頭(かざがしら)公園という桜の名所があります。そこに超然として立つ坂本龍馬像があります。龍馬の眼差しが注がれている先は,江戸のある東ではありません。西に向かって立ち,その方角にある海を見つめ,そしてその向こうに拡がる遠い世界に思いを馳せているかのようです。龍馬の世界へ向けた思いや憧れ。これも,長崎の大事な記憶です。

いま,世界も日本も,歴史的な変革期の真只中にあります。ヒト・モノ・カネや情報が国境をこえて超高速で行き交う,いわゆるグローバリゼーションが急速に進行しています。その中で,人類は,かつて経験したことのない地球規模の危機に直面しています。経済不況,環境破壊,食糧・エネルギー問題,感染症・・全て地球規模です。私たち人類は,この危機を克服し,次世代以降も持続可能な世界を創造しなければなりません。その役割の中心を担うのは,無限の可能性を秘めた,君たち若者世代であることは間違いありません。龍馬のごとく世界に思いをはせ,世界を学び,世界中の若者と切磋琢磨し連携して,地球と人類の未来を切り拓く,そのための資質を長崎大学で養ってほしいと思います。人間は多様であり,君たちそれぞれは異なる個性を持っています。大学生活を通して,それぞれの志を立て,将来の夢実現に向けてそれぞれのやり方で準備し蓄積してほしいと思います。そして近い将来,皆さんの中から,国境をこえ世界をまたにかけて,21世紀の地球と人類に貢献する人材が数多く出現する。想像するだけでも,ワクワクします。どうか,がんばってください。皆さんの健闘を期待しています。

最後に,新入生のみなさんの,大学生生活が実りの多いものであることを念じて,お祝いと歓迎の言葉といたします。

平成22年5月21日
長崎大学長
片峰 茂