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学長室

平成27年度卒業証書・学位記授与式学長告辞

2016年03月25日

澄みきった青空の下、開花したばかりの桜が、春の到来を告げています。皆さんの旅立ちにふさわしい素晴らしい日和となりました。改めて申し上げます。平成27年度長崎大学学部卒業生の皆さん、大学院修士、博士前期課程修了生の皆さん。卒業そして修了おめでとう。長崎大学の全ての教職員そして在学生を代表して、お祝い申し上げます。本日ご列席いただきました、ご家族の皆様にも、これまでの学生たちへのサポートに感謝申し上げるとともに、心よりお慶び申し上げます。

さて、今振り返ってみて、2年、4年あるいは6年間の大学生活は、君たちにとって実りの多いものであったでしょうか。満足のいく時の流れであったでしょうか。私は、大学の最大の役割は、学生諸君にできるだけ多くの出会いの機会を提供することにあると思っています。友との出会い、教員との出会い、学問との出会い、価値観との出会い、新たな自分との出会い、皆さんそれぞれ、長崎大学で様々の出会いを果たしことと思います。その中に、君たちの人生に大きな意味を持つ出会いがあったとすれば、幸いに思います。そして、様々な体験も積み重ねたことでしょう。喜び、笑い、感動し、時には歯を食いしばり、涙したこともあったでしょう。最も清新で柔軟な感性を有するこの時期における体験は鮮烈で、一生心に刻まれる記憶となります。今後の人生の様々な場面で心の中に蘇り、君たちの背中を前に押す役割をしてくれるはずです。鮮烈な歴史に彩られた美しい街=長崎、個性あふれる長崎大学。そこでの出会いや思い出をこれからも大切にしてください。

去年は原爆被ばく70周年の節目の年でした。大学でも様々な事業が企画され、それに関わった諸君も少なくないと思います。被ばくの記憶は、長崎と長崎大学の大切な要素の一つです。今、核戦争の危機が現実味を帯びかけています。被ばく大学で学んだ人間として、核兵器廃絶への思いも忘れないで下さい。

さて、君たちが今日から歩を踏み出す社会は、いま大きな変容期にあります。産業革命に端を発した生命科学や物質科学やモノづくり技術の進展は、20世紀の人類に長寿や便利さや豊かさといった恩恵をもたらし、社会の意識や構造を大きく変容させました。そして、21世紀に入り、その変容はさらに加速しています。変容のスピードがあまりに速いため、10年後20年後の未来を見通すことも困難な、不確実性の時代に入ったと言ってよいと思います。その主役は、情報科学の驚異的発展です。今や、インターネットやSNSのネットワークが地球上を覆い尽くし地球は縮小し続ける中、自動車、カメラなど様々な物にインターネット機能が搭載され、あらゆる情報はビッグ・データとして集積され、人工知能は驚異的スピードで進化しています。先日、囲碁の対戦で、人工知能が世界チャンピョンを打ち負かしたというニュースが驚きをもって報じられました。最も複雑で人間的なゲームといわれる囲碁の名人に人工知能がこんなに早く勝てるなどとは誰も考えていなかったからです。このスピードでいくと、20年後には我々人間の仕事のかなりの部分が人工知能に取って代わられます。大変容の時代、今は最新の知識や技術でも瞬く間に陳腐化し使い物にならなくなります。そんな時代に必要な資質、それは既存の価値観に頼ることなく、自ら考え、学び、決断し、行動し、新しい価値観を生み出す力だと思います。

今日は、卒業する君たちへの餞(はなむけ)として一つの言葉を送りたいと思います。それは「気概」という二文字です。気概:STRONG SPIRIT:困難に立ち向かう強い意志のことです。この言葉に初めて大きな意味を持たせた人物が、一万円札に刷り込まれたあの福沢諭吉です。明治初期の大ベストセラー「学問のすすめ」の中で、福沢諭吉は「独立の気概、挑戦者としての気概」の重要性を説いています。他人に頼ることなく、やるべきことを明確に意識し、それに全力を傾注する明確な意志の重要性です。そして、そのメッセージは明治という大変革期を担った日本人の意識構造に大きな影響を与えたのです。明治維新のみならず、第2の大変革期であった第2次世界大戦敗戦後の復興にも、日本人の「独立の気概、挑戦者としての気概」が大きな意味を持ちました。福沢諭吉はこう言っています。「社会が安定し硬直的な時は志のある人物でも目的を抱くことは難しかった。変化の時代こそ個々人が自分を新たに活かす場所を見つけ気概をもって活躍するときである。社会の義務を知る日本人は、この時代を傍観せずに発奮すべきである。変革期は既存の価値観や手法が通用しないため、権威よりも新しく効果的な学修を積んだ者が勝利する。」変革期こそ、気概をもって学び挑戦する人物の活躍の場が急増するのです。

今は、明治維新と戦後復興に続く近代以降の日本の第3の変革期といわれています。まさに気概をもって未知の領域に挑戦する人物が活躍すべき時代です。しかし、今日本人を取り巻く状況は、国の独立、国の復興といった日本という国のためにだけ気概を燃やせばよかった明治や戦後と全く異なっています。最大のキーワードは、グローバル化です。いまや政治的に国境は存在しても、経済や学術・教育の世界においては国境が消失しつつあります。グローバル化は、私たち人類にさらなる繁栄と豊かさをもたらし、科学技術の恩恵や富を地球の隅々まで行き渡らせる大きな可能性を秘めています。一方で、グローバル化の負の側面もクローズアップされつつあります。エネルギー問題、食糧不足、気候変動、エボラに代表される感染症の大流行など、今人類が直面している課題は全て地球規模で一国だけでは解決不能です。そして、理想とは逆に、グローバル化は富の極端な偏在をもたらしつつあります。富の偏在がもたらした格差や差別や貧困が、確実に、現代の最悪の不条理「イスラム国」の出現・拡大の素地になっています。君たちには、このような地球規模課題に国境を越えて取り組む気概を持ってほしいのです。世界の何処に在っても、多様な人種や文化とコミュニケートし、力を合わせて働き、その中でリーダーシップを発揮すべく挑戦してください。

日本国内にあっては、格差がヒト、モノ、カネの首都圏一極集中、一方での地方における極端な老齢化と人口減少、経済活動の低迷という形で顕れています。東日本大震災の被災地はまだ大きな苦難を抱えたままです。首都圏一極のみで日本という国が存続するはずもなく、この国の最重要の課題が、地方の未来の創生にあることは間違いありません。国内の地域格差もグローバル化とは無縁ではありません。グローバル化時代、地球規模の矛盾は地方・地域にこそ集約して顕れます。まさに、地域を掘り下げることで世界が見えてくる。そんな時代なのです。地域にあってこそ、世界に目を凝らし、文化や言語や宗教など世界の多様性を理解する、そんな気概を持ち続けてほしいと思います。

この変革期、困難と向き合わざるを得ない時代であるからこそ、燃やすべき気概の原点は、未来への思いやりであると、私は思います。地球やこの国の未来や、後に続く次世代に思いを馳せ、豊かで、平和な未来や、次世代が目を輝かせて頑張れる未来の創造へ向けて気概を鼓舞し続けてください。

長崎大学は、4年前に一般教育の在り方を大きく変えました。眼目は、モジュール制によるアククィブ・ラーニングの本格導入です。従来の教員から学生への一方向性の知識伝達型授業から、学生の自主的な学びや対話やデベートやプレゼンテーションを重視する学生参加型の授業への転換を図ったのです。君たちの多くが、この新しい教育に取り組んだ最初の長大生です。受け身ではなく自分自身で考え学ぶことのできる力、自分の考えを相手に適切に伝えることのできる力、多様な人間とチームとして話し合い協働できる力こそが、歴史的な変革期を生きることになる君たちが、未知の未来を切り拓き、世界や国や地域に貢献するために必須のものであることは、これまでお話しした通りです。新しい教育が目的としたのは、まさにそんな力の養成です。新しいが故に、君たち学生にも先生方にも最初は戸惑いがあったかもしれませんが、立派に新しい教育のパイオニアとしての役割を果たしてくれました。間違いなく、その成果が、社会人としての君たちの未来に大きな意味を持つと確信します。

結びに当たり、改めて今後の君たちのご健闘を心より期待します。君たちが社会で輝きを放つことが、母校長崎大学にも輝きをもたらします。平成27年度長崎大学卒業生・修了生の皆さんの栄光ある未来を,心より祈念して,お祝いの言葉とします。

 

平成28年3月25日
長崎大学長
片峰 茂