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学長室

平成28年度長崎大学入学式学長告辞

2016年04月04日

   皆さん、はじめまして。学長の片峰です。長崎大学全ての教職員そして在学生を代表して申上げます。平成28年度長崎大学学部新入生の皆さん,大学院進学の皆さん、入学おめでとう。長崎大学は、君たちを心より歓迎します。これからの大学生活をおおいにエンジョイしてください。そして,多くのことを学び,体験し,色々な意味での付加価値をたくさん身につけ、成長して欲しいと思います。そのために、長崎大学は君たちに多くの出会いを提供し、全力で支援します。

   さて、今年の学部入学生約1700名のうち、長崎以外の都道府県の出身者が約66%、長崎市在住以外の県内出身者を加えると、約85%の諸君が新たに長崎という街での生活を開始することになります。君たちは、多くの大学の中から、自らの意志で、新たな学びの場として長崎大学を選んでくれました。その選択が、君たちの人生に大きな意義を持つことを心より期待します。大学生最初の日にあたり、今日は、長崎在住の諸君もふくめて、改めて長崎大学で学ぶことの意味を考えてみてください。

   この美しい街長崎には,特有の"におい"があり、長崎大学にも他大学にはない個性や学風があります。長い歴史の中で先輩たちによって蓄積・醸成されたものです。君たちは,過去の個人的な実体験に基づく記憶とともに生きています。しかし,君たちを形作る記憶は,それだけではありません。君たちが属する家や共同体が持つ記憶,住む土地の記憶,さらには国や民族の記憶,そして人類の記憶と,大きく拡がっています。それらは、実体験にもとづかなくとも、先駆的な記憶として君たちの心の中に刷り込まれています。長崎という街,長崎大学には他にはない鮮烈な記憶があります。長崎大学で学ぶことの意味、そして長崎という街に住み学ぶことの重要な意味の一つ、それはこの大学の記憶、この街の記憶に思いを馳せ、それを意識し共有しながら学ぶことにあると、私は思います。長崎大学の大切な記憶を心に思い描いてみてください。

   先ず160年前、江戸時代末期の長崎です。鎖国の日本にあって世界へ開かれた唯一の窓であった長崎には西洋文明を学ぼうと日本全国から野心に満ちた若者たちが集結しました。長崎で学んだ彼らは,ほどなく明治維新を担うことになります。坂本龍馬が,高杉晋作が、岩崎弥太郎が、そして大きな志を胸に抱いた君たちと同じ年頃の多くの若者が,眼を輝かせながら長崎の街を闊歩していたのです。丁度その頃、1857年、オランダ人医師ポンペがこの地に医学伝習所を開設し、長崎大学の始まりとなったのです。160年前の長崎大学の先達たちの青雲の心意気に思いを馳せてみてください。

   1945年8月9日午前11時2分、一発の原子爆弾が長崎市上空で炸裂しました。瞬時にして、学び舎と附属病院は破壊しつくされ,本学の教職員・学生約900名の生命が奪われました。大学が決して忘れてはならない悲しい記憶です。長崎市民の犠牲者は数万名にも及び,そして今なお後遺症に苦しむヒバクシャがおられます。彼らの無念に思いを致してほしいのです。そして瓦礫の中で立ち上がり,復興に力を尽くし,現在の長崎大学の礎を築いてくれた先輩たちの血の滲むような努力にも,感謝の思いを巡らしてください。

   そして7年前の嬉しい記憶です。1951年卒業の本学薬学部の大先輩,下村脩博士がノーベル化学賞を受賞されました。その後,何回かご来学いただき,母校の後輩たちに温かい激励の言葉をいただきました。下村先輩は,原爆被災直後の長崎大学で,研究に没頭し,研究者としての志をたてられました。君たちが今から学ぶことになる同じ長崎大学という場所・空間で,60年以上前に下村先輩が原爆被災後の何もない環境の中で一心に研究に取り組まれていた姿を想像してみてください。自然と,勇気と力がわいてくるはずです。

   5年前の3.11東日本大震災。私たちの心に映るこの国の風景を大きく変えた未曾有の大災害です。その直後からの長崎大学の被災地支援活動は、迅速性、質と量、いずれをとっても全国の大学のなかで際立っていました。大震災2日後には、大学病院や熱帯医学研究所の医療の専門家チームが福島県と岩手県で医療支援活動を開始し、翌日には、水産学部の練習船「長崎丸」が緊急出港し、緊急援助物資を福島県小名浜港と岩手県宮古港に一番乗りで届けました。とりわけ、地震と津波に加えて原発事故という困難を抱えた福島県での活動は、長崎大学の総力をあげたものとなりました。原爆被爆からの復興の経験と、ヒバク影響研究の蓄積を福島に役立ててほしいと考えました。震災から1週間後には、本学の2名の教授が福島県知事により「放射線健康リスク管理アドバイザー」に任命され、危機管理のリーダーとして決定的に重要な役割を果たしました。その後、県民健康調査活動を中心的に担い、いち早く帰村宣言をした川内村には支援拠点を構築するなど、現在も長崎大学と福島との協働は拡大し続けています。卓越した現場力と行動力に裏打ちされた長崎大学の支援活動は、社会から大きな評価を頂きました。そして、長年にわたる保健・医療や海洋分野を始めとする実学の蓄積による長崎大学の個性を、改めて私たち自身にも認識させる契機となったのです。今、現在進行形で「現場に強い大学、危機に強い大学、行動する大学」としての新たな記憶が形作られつつあります。

   君たちは、これらの記憶を皮膚感覚で実感することのできる空間で学ぶことになります。かつて坂本龍馬が眼を輝かせて闊歩した街に住み、平和への思いを育み、研究に没頭しているノーベル賞学者の若き日の姿を想像しながら学び、現場に強い行動力のある人材として成長する。長崎大学にしかない素晴らしい学びの環境です。他大学にはない長崎大学ならではの学びを通して、君たちの新たな個性を形作ってほしいと思います。

   大学での生活は高校までの生活とは一変します。いろいろな意味での自由があり、自分自身で管理できるより多くの時間があります。この自由をおおいにエンジョイしてください。ただし、自由をエンジョイすることは、楽をし、日常に流されることとは違います。自由の中で,受け身ではなく、自らの意思で主体的に多くのことを学び,体験し,チャレンジしてください。長崎大学の授業では、受け身ではなく主体的に授業に参加することが求められます。重要なキーワードは自立です。大学で学ぶ自立とは,「自ら考え,調べ,決断し,表現し、実行する人間力」を身につけるということだと思います。大学生活の中で,そして今後の長い人生において,君たちの前には様々な困難や課題が立ち現れるはずです。それらの課題をどうしたら解決できるのか,自分の頭で必死に考え,自分自身の足で,眼で,耳で情報を収集し,その上で,自分で結論を出すのです。そして一旦出した結論は少々の困難が伴おうが,やりぬくのです。言葉で言うほど簡単ではないことはよく分っていますが,「自立」を目指してチャレンジし続けてほしいと思います。

   今年夏の参議員選挙から選挙権が18歳に引き下げられます。君たち全てが選挙に参加することができます。そのことも含めて、君たちには公共的思考に取り組んでほしいと思います。公共的思考。自分自身のこと家族や友達など身の回りのことだけではなく、地域社会や国や世界のことを考えること、地域や国や世界の過去を学び、現状を分析し、未来を想像する一連のプロセスです。

   社会は、いま大きく変容しつつあります。最大のキーワードは、グローバル化です。いまや政治的に国境は存在しても、経済活動や学術・教育の世界においては国境が消失しつつあります。今人類が直面している核戦争やテロの危機、難民問題、エネルギー問題、エボラに代表される感染症の大流行、全て地球規模で一国だけでは解決不可能です。君たちには、世界のどこにあっても多様な文化的背景の人々とコミュニケートし協働する能力が必要となります。日本国内にあっては、格差がヒト、モノ、カネの首都圏一極集中、一方での地方における極端な老齢化と人口減少、経済活動の低迷という形で顕れています。長崎はその典型です。首都圏一極のみでこの国が存続するはずもありません。今後の、この国の最重要の課題が、いかにして地方を活性化し、新しい地方の未来を創生するかという点にあることは間違いありません。重要な点は、地域もグローバル化する社会の一部であり、グローバル化を無視しての地方の未来創生はありえないことです。

   大変容の時代、長崎にあっても、世界のどこにあっても、その地域への愛情と世界を俯瞰する視野を併せ持ち、かつ気概と行動力に富む個人が未来を切り拓くことができます。そんな人生の冒険家の新たなチャレンジが、やがてチームを作り、社会を動かす原動力になります。将来、グローバル人材として、地域創生人材として、社会を担い、未来を創造すべく、長崎大学での学びを通して志をたて蓄積し準備してほしいと思います。

   最後に,すべての平成28年度入学生諸君にとって,これからの大学生活が,楽しく,エキサイティングで,そして実りの多いものとなることを祈念して,お祝いと歓迎のごあいさつといたします。

 

平成28年4月4日
長崎大学長
片峰  茂