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学長室

平成29年度長崎大学入学式学長告辞

2017年04月04日

皆さん、はじめまして。長崎大学学長の片峰と申します。遅かった今年の桜が、この日を待っていたかのように一斉に花を開き始めています。素晴らしい春の日になりました。改めて申し上げます。平成29年度長崎大学新入生の皆さん,入学おめでとう。心からのお祝いを申し上げます。これまで新入生を手塩にかけ育み見守ってこられたご列席のご家族の皆様にもお慶びを申上げたいと思います。

新入生の皆さん。君たちは、数ある大学の中から長崎大学を選び、入学試験を突破し、今日の日を迎えられました。君たちの賢明な選択とこれまでの努力に敬意を表するとともに、長崎大学教職員一同、心より歓迎いたします。長崎大学は、コンパクトな3つのキャンパスが美しい国際歴史都市長崎に溶け込んで立地する日本を代表する地方国立大学です。他にはない個性を有する素晴らしい大学です。君たちに、新しい出会いのチャンスに溢れた空間と、様々のチャレンジができる豊かな時間を提供します。長崎大学という空間や環境を最大限に利用し、おおいに大学生生活をエンジョイし、様々の出会いを果たし、新たな自分を発見し、そして大きく成長してください。君たちが担うべき時代が、もうすぐそこまで来ています。世界も、この国も、地域も君たちの成長を待望しています。近い将来、21世紀の人類のチャレンジの真っただ中に立ち奮闘する君たち自身の姿を、想像しイメージしてください。これからの長崎大学での4年あるいは6年間は、その日のために蓄積し準備する大切な期間となります。

教育、経済、医療、モノづくり、水産・環境、多文化共生などの実学分野で構成される長崎大学は、「現場力と行動力」をキーワードに他にはない際立つ個性を有しています。今も、アフリカや福島を始め、世界や地域の様々の現場で、その個性が輝きを放っています。その個性を学び、将来、研究者、技術者、教員、経営者、医療職などの高度職業人として活躍するための基盤や素養をしっかりと身に着けてください。

ただし、今世界はものすごいスピードで変わりつつあることを認識してください。グローバル化が進行し、経済・流通や科学技術の分野においては国境が消失しつつある一方で、グローバル化の矛盾も明らかとなり、世界は不安定化し大きく動こうとしています。また、人工頭脳(AI)をはじめとした情報科学、あるいは生命科学の驚異的な進歩は、私たち人類を異次元の世界に導き、働き方や世界観、生命観そのものにも、変容をせまりつつあるように思います。日本においては、未曽有の超高齢化社会が出現します。50年先はおろか、10年、20年先を見通すことも簡単ではありません。こんな大変容の時代にあっては、既存の知識や技術は瞬く間に使いものにならなくなる可能性があります。個々の知識や技術を学ぶことも大事ですが、何よりも、未知の世界におけるブレイクスルーの創造につながるそれぞれの学問領域における物事の考え方、直面する課題をいかに把握し、理解し、解を導くのか、いわば学問の方法論の習得に力を注いでください。

そして、そのためにも、先ず主体的に学び,考え,主張し,行動することができる力と態度を身に着けてください。あらかじめ解答の準備されていない問題に向き合い、解決に導く力です。単に教えてもらう受け身の学びだけでは、その力を養うことはできません。自ら調べ,考え,他と議論し、そして決断し,実践する訓練の繰り返しの中から育まれます。この力を育んでもらうために、長崎大学は授業の在り方を大きく変えつつあります。新しい学びの形は、教員から学生への一方的な知識の伝達ではなく、学生諸君が主体的に参加する授業、課外での自学自修につながる主体的学びactive learningです。長崎大学の授業では、学生自身が発表し、議論し、教え合うことが要求されます。そのためには、予習・復習が必須のものとして課せられます。自ら学ぶこと、それを前提に主体的かつ積極的に授業に臨んでほしいと思います。

次のキーワードは多様性です。人間も各人各様ですし,民族も,文化も,宗教も多様です。男と女、ジェンダーも重要な多様性です。そんな多様性の尊重とその連携が21世紀のキーワードになります。多様性が互いを尊重し,いかにして異なる民族,文化,宗教が理解し協働することができるのか,人類に課せられた最大の課題です。長崎大学には、500名をこえる留学生諸君が学んでいます。彼らは、多様性あふれるキャンパス作りに大きな役割を果たしています。どうか積極的に彼らに語りかけてください。

異なる文化を理解するための手段の一つが言語の共有です。世界共通言語としての英語にも取り組んでください。教室のみでは英語は上達しません。24時間アクセス可能な英語自学自習のためのICT環境も充実させました。カリスマ予備校教師の安河内哲也先生は「英語はスポーツである」と言っています。英語も毎日の地道な「話し、聴き、読み、書く」訓練によってしか上達しません。そして、できれば在学中に海外に一度は飛び出し、多文化環境、英語環境の中に身を置いてみてください。

多様化し複雑化する現代において、課題に向き合いイノベーションをもたらすには、一人だけの力には限界があります。夢や目標を共有した人間の集まり=チームが大きな力を発揮します。しかも、同質の人間の集まり、仲良しグループではなく、異なる価値観、異なる才能、異なる文化的背景を持つ多様性ある人間がチームを作り、アイデアを出し合い、議論し、助け合う中からイノベーションが生まれます。マイクロソフトもアップルもグーグルも、今や巨大企業となったアメリカ発の情報系ベンチャーも、そんな少人数のチームがスタートでした。君たちには、多国籍チームの一員として、新しい価値を生み出す力も培ってほしいと思います。

さて、多くの諸君は、初めて長崎という街での生活を開始しようとしています。この街には、他にはない独特な匂いの風が吹いています。そして、その地に160年にわたって存在してきた長崎大学には際立つ個性があります。長崎のこと、長崎大学のことをイメージし、そして、長崎大学で学ぶことの意味を考えてみてください。長い歴史の中で先達・先輩たちによって蓄積された記憶があります。それらが、有形無形に渾然一体となって、この街特有の“におい”を醸しだし、大学の個性の大きな要素となっているのです。

長崎大学の沿革は江戸時代末期160年前のオランダ人医師ポンペによる医学伝習所の開設にさかのぼります。当時の長崎には西洋文明を学ぼうと日本全国から野心に満ちた若者たちが集結していました。長崎で学んだかれらは、ほどなく明治維新を担いました。坂本龍馬が、岩崎弥太郎が、そして大志を胸に秘めた君たちと同じ年頃の多くの若者が、眼を輝かせ天を仰ぎながら長崎の街を闊歩している情景を想像してみてください。

1945年8月9日の原子爆弾による被災は、長崎大学が決して忘れてはならない悲しい記憶です。学び舎は破壊しつくされ、瞬時にして本学の教職員・学生約900名の生命が奪われました。長崎市民の犠牲者は数万名にも及び、そして今なお後遺症に苦しむヒバクシャがおられます。彼らの無念に思いを致してほしいのです。そして瓦礫の中で立ち上がり、復興に尽力され、現在の長崎大学の礎を築いていただいた先輩たちの血の滲むような努力にも、思いを巡らしてください。

1951年薬学部卒業の大先輩、下村脩博士のノーベル化学賞受賞は嬉しい記憶です。下村先輩は、原爆被災直後の長崎大学で、大変な苦労をされながら研究に没頭し、研究者としての志をたてられました。皆さんが今から、学ぶことになる同じこの長崎大学という場所・空間で、50年前60年前に下村先輩が原爆被災後の瓦礫の中で一心に研究に取り組まれたお姿を想像してみてください。自然と、夢と力がわいてくるはずです。

君たちは、これらの時空を超えた記憶を実感しながら学ぶことになります。かつて坂本龍馬が眼を輝かせて闊歩した街に住み、世界の平和に思いを馳せ、研究に没頭しているノーベル賞学者の若き日の姿を想像しながら学ぶ、長崎大学にしかない素晴らしい環境です。長崎で学ぶことの幸運を噛みしめてほしいと思います。

さあ、いよいよ君たちの長崎大学での学びが始まります。最後に、新入生のみなさんの今後の大学生活が真に実りの多いものとなることを心より祈念して、お祝いと歓迎の言葉といたします。

平成29年4月4日
長崎大学長
片峰茂