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学長室

入学式学長告辞

2019年04月02日

長崎大学への入学、おめでとう。皆さんをこれまで支えてこられたご家族の方も皆さんの新しい学びに大いに期待されていることと思います。大学は義務教育や高校までと違って、与えられるばかりではなく、自らつかみ取っていく学びの場であり、皆さんが社会に出て活躍するための極めて貴重な時間となります。人生100年と言われる中で、健康寿命が延びるほど長くなる将来を幸せで有意義なものにするための学びが大学です。これからの4年間ないし6年間は、与えられた課題を要領よくこなすだけでは、満足な時間の使い方ではありません。様々な事象に興味を抱き、自分が強く惹かれたテーマを自分の頭で考え抜き、自分なりの答えを見いだし、それを教員や友人に伝えながら、双方向性の学びをする場所が大学です。興味を持ったテーマが必ずしも自分が入学した学部と一見関連がないことだってありえます。しかし学びの内容だけでなく、学びが達成されていく過程までもが成長の礎なのです。長崎大学では、学ぶことに対しての一切の制約や条件はありません。唯一の約束事は社会へ貢献するという目的・信念を持つことだけだと考えてください。

日本の将来を決めるのは皆さんの日々の選択の蓄積と集合によるものです。皆さんが社会の大きな担い手となる30年後には日本の人口は1億人を切ると言われています。18歳人口も私達団塊の世代では240万人いましたが、皆さんの世代は120万と半減しています。さらに20年後には3/4の90万人になることが予想されます。ここまではっきりとわかっている人口減少局面は有史以来はじめてです。人口増によるパイの増加を期待できない時代を、希望を持って生きるためには皆さんの柔軟な頭を使い、今までにない発想、イマジネーションで切り開いていくしかありません。その時々の賢明で柔軟な選択が、数々の難局を切り開くための鍵となるのです。コンピューターやAIなど日々進化する社会基盤が、これからは極めて重要となり、むしろそれらを如何に使いこなすかが評価される時代となるでしょう。

皆さんが卒業する頃には社会から期待される人材となるように、是非挑戦して欲しいことを以下に述べてみたいと思います。

1.まず、基本に立ち返り、本を読み、文章を書くことです。今後の長い人生で、SNSでの情報収集と発信だけでは極めて薄っぺらな人生になるでしょう。さまざまな本を読み込むことにより、何が正しいものであるか、よりよい方向であるかを判断する力量を学び、文章を書くことによって、科学的な考え方を身につけることになります。しかし知識は得るだけでは知恵になりません。自分の考えの根拠を示すこと、即ち理路整然と論理を展開すること、事実とそれに対する自分の意見を分けて話をすすめるなどの、基本をしっかり学んで、自分の考えをヒトに理解して貰い、頭の中にある知識を社会で使える知恵に変える必要があります。このような基本的な学びにより、常識や知識も備わり、教養のある人間力を身に付けることができると確信しています。是非とも大学の授業の予習復習の中で、毎日の習慣として読書と作文に磨きをかけて下さい。

2.つぎには様々な分野に触れて、知的興奮を知って欲しいということです。人は面白いこと、興味のあることには、脇目を振らず邁進するものです。他人からみれば、バカげたことでも、きっと何らかの新しい発見があることと思います。ただ、新しい発見をするには条件があります。より深く、また幅広く、学ぼうとする姿勢であり、すなわちその歴史や世界的な広がりにまで視野を広げる習慣を身に付けることです。それを学問として捉えるのもいいし、また趣味として、遊びとして、また社会との結びつきとして捉え、点から線へ、さらには面へと広がれば、自分の想像を超えた展開へと繋がり、それが一定の閾値を超えたところから、見えてくるもの、聞こえてくるもの、感じるものが変わり、興味が大きな理解へと広がり、さらに大きな喜びへとつながり、これこそが知的興奮であり、人生の深さ、多様性にふれることではないかでしょうか。

3.今だからこそ失敗を恐れぬ挑戦が必須です。夢を実現するためには、基本を学び、自分のものとして咀嚼し、さらにそれを実行してはじめて挑戦と呼べます。妄想や夢想だけでは外の世界は変わりません。行動をすることによって、事前に考えていたこととの矛盾が露呈してきます。勿論予想外、想定外のことも起こってきます。想定外の時こそ、起こったことの本質を考え、創造的な思考力で解決策を考えることは、皆さんがどのような方面に進もうとも、極めて掛け替えない財産となり、力となるでしょう。勿論、失敗することもありますが、失敗すらもまた素晴らしい学びとなるでしょう。大学生の時代、若い時代の挑戦は極めて大きな学びへと繋がります。失敗を恐れず、一歩を踏みだし挑戦しましょう。

4.学びにおける、急がば回れの方法とは「他者との協働による達成感を目指す」ことです。自分の夢や目標に向かって情熱を注ぎ、一人で挑戦することも大事ですが、社会にでて仕事に従事する場合、チームで活動することが多いものです。芸術家など限られた職種では、個人プレーが必須になることもあります。しかし、多くの場合には様々な人間関係の中で、活動することが一般的です。そもそも人間が生存競争で生き残ってきたのは、協働して来たからであり、活動のほとんどが他者との関係性の中で実施しなければなりません。この協働を学ぶことにより、例えば仲間と共通の目標や理念のもとで活動すれば、大きな困難にも一丸となって対応し、多様なアイディアと力の総合力で当たることができるでしょう。もし、失敗を繰り返したとしても、励まし合いながら、諦めることなく、挫折感を克服しながら対応することになります。このような協働の課程を通して、共感する力とコミュニケーションをする能力が向上するものであり、社会人として必須の素養である、主体性、パッション、コミュニケーション力が高まります。そして、達成感とともに大きな充実感を味わうことができるでしょう。

トーマス・アルバ・エジソンが言った諺に「天才とは1%の閃きと99%の汗である。」(Genius is 1% of inspiration and 99% perspiration.)という素晴らしい言葉があります。発明もイノベーションも努力なくして、達成できるものではありません。先日長崎大学で講演された2016年にノーベル医学・生理学賞を受賞された大隅良典先生がおっしゃいました。「最近の若い人から、よく次のような質問を受ける。『失敗した時、どうしたらいいか。最悪の時の脱出方法やコツを教えて下さい』と。そんな事解るはずがない。何事も自分で体験し、そして考え、答えを見つけ出すしかない」と。コツや王道はないということです。

これからの大学生活を有意義なものにするために、長崎大学は皆さんが挑戦できる環境を整えて、若い皆さんの発する息吹を待っています。さあ、自分のため、家族のため、仲間のために、夢を実現し、新しい人生の第1歩を踏み出しましょう。

入学、おめでとう。

 

長崎大学長
河野 茂

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