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学長室

令和三年 長崎大学春季学位記授与式告辞(2022年3月18日)

2022年03月18日

大学院博士課程・博士後期課程を修了した皆さん、本日は誠におめでとうございます。列席の研究科長、そして指導教員をはじめとする教職員一同と共に、皆さんの学位取得を心よりお祝い申し上げます。また、修了生を支えてこられたご家族等関係者の皆様方にも心よりお慶び申し上げます。

本日、86名の方が長崎大学から博士の学位を授与されました。経済学研究科2名、工学研究科13名、水産・環境科学総合研究科5名、医歯薬学総合研究科66名であり、うち、29名が留学生です。COVID-19による研究活動等に制約があった中で日夜研鑽を積まれ、高い研究力や克己心を身につけられたことに心から敬意を表します。

さて、昨年の夏になりますが、「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会」が開催されました。世界的なCOVID-19の蔓延により1年間の延期が強いられ、また多くの競技が観客を入れずに行われるという過去に例を見ない特殊な状況の中で開催されました。そのような中でもアスリートが躍動する姿を見て、コロナ禍の閉そく感の中で皆さんにも大きな感動を与えたのではないでしょうか。先月の2022年冬季北京オリンピックでも、多くの苦難を乗り越えでメダルを手にした人にも、また、例えメダルに届かなかったとしても最後まであきらめずに自分の限界に挑戦をするアスリートにも、私も大きく心を揺さぶられました。

皆さんには、研究活動を通して身に付けた高い専門性を活かし、研究者や各分野のエキスパートとして、アスリートと同様に夢の実現に向けて邁進されることを期待いたします。その道中には経験したことがない困難に遭遇することも、壁に突き当たって挫けそうになることもあるでしょう。そんな場合にも、失敗を恐れず困難に立ち向かう勇気を持ってください。南アフリカ初の全人種参加選挙にて第8代の大統領に就任したネルソンマンデラ氏は、「The greatest glory in living lies not in never falling、 but in rising every time we fall.:生きることの偉大の栄光は、決して失敗しないことではない。失敗するたび、起き上がり続けることにある。」と述べています。人生に困難はつきものです。挑戦し続ける姿勢が成長を促し、困難を乗り越えた経験は、皆さんを更なる高みへ導いてくれることでしょう。

挑戦を続けることは長崎大学も同様です。2020年から長崎大学が目指すべき方向としてプラネタリーヘルスを提唱し、大学全体の叡智を結集した取組に挑戦しています。気候変動、環境汚染、新型コロナウイルス感染症に代表される未知の感染症や疾患、人口・食糧問題、宗教・文化の対立や紛争などは、地球規模でかつ複雑に絡みあう課題です。大学として知の枠組みそのものを変え、有機的な知の連鎖を誘発してこれらの課題解決に取り組み、「地球の健康」に貢献することを目指します。

一方で3週間前の2月24日、ロシアのウクライナ侵攻という信じられないニュースが飛び込んできてコロナ関連のニュースさえ霞む事態となりました。
2年間にわたり私たちを悩ませ続けた新型コロナウイルス感染症がこんなに短期間で世界中に拡がったことは、世界の各地域の距離が縮まり、密接につながり、お互いに依存しあっていることを私たちに教えてくれました。そのような時代に、いずれかが屈しない限り終わることのない戦争を始めても、そこには利益を得る者など誰ひとりいるはずはありません。戦争当事者となったロシアとウクライナはもちろん、世界中の人々に不幸をもたらすのですから、このような行為は国際秩序を一気に不安定化する暴挙というよりほかはありません。
このような状況に対し、長崎大学では、侵攻の翌日にいち早く早期の収束を呼び掛ける声明を発表しました。続けて、3月2日には「ロシアのウクライナ侵攻と『核の恫喝』に対する抗議声明」を発表し、これを英語、ロシア語、ウクライナ語で世界へも発信し、より強く鮮明に抗議の意を表明したのです。抗議ばかりでなく、ウクライナの学生たちに学びの場を提供するという支援も、現在検討しています。学び続ける志を持った若者の存在そのものが国の未来を支える礎になるからです。長崎大学は、原爆の惨禍を経験した大学です。学び続けること、知の力を蓄えることの大切さと強さを長崎大学は過去の経験から知っています。ですから、この戦争で学びの場を奪われたウクライナの学生に学び続ける場を提供できないかと考えたのです。
そのためには皆さんの協力も必要です。人種・出身国・宗教にかかわらず学問を望むあらゆるヒトに学びの門を開いているのが大学です。出身国の違いによって不利益を被る学生が生じることがないよう、強い関心と意識を持ってキャンパスの自由闊達な空気を守って欲しいと思います。

ところで、現代社会は、デジタルイノベーションの飛躍的進歩がもたらす「Society 5.0」と呼ばれる社会へ大きく変容しようとしています。サイバー空間と現実空間を高度に融合させたXRシステムや人間の処理能力を超えるAI等の急速な進化により、時空間の壁を越えた新たな価値の創出が期待されています。それは、COVID-19パンデミック下において、大学でもZoom等を利用したオンラインの授業や会議が普通に行われるようになったように、デジタル技術に対する新しい気づきや生活スタイルの変化による「ニューノーマル」へのパラダイムシフトによって、さらに加速されることでしょう。皆さんの専門分野においても、DX技術との融合により新しい可能性が生まれてきているものと思います。このようなパラダイムシフトが起こり得るこの機会を捉えて、皆さんがこれまでに培った創造力や知性を存分に生かして積極的に挑戦され、社会に貢献されることを期待しています。

最後にフリートークをさせて下さい。
本当にコロナ禍での学位取得、ご苦労さんでした。
私が学位をとった頃、1970年代の後半でしたが、やはり貧乏な時代でした。電子顕微鏡を使った仕事でしたが、切片を切るためのガラスの歯も自分でダイヤモンドカッターでガラスを切って鋭い歯を作り、それから切片を切り出していました。なんとラットも自分達で飼育し、妊娠を確認して胎児を使い、脳腫瘍の研究をしていました。また、大学病院で亡くなった方の解剖もし、病気の診断もできるように勉強して病理の専門医の資格も取得しました。後の私の進んだ方向を振り返り、大学院時代とそれに続く米国留学の計6年間の研究は、その後の私の臨床医としての成長にどのように関係しているのかと考えてみました。直接関係の薄い呼吸器疾患を専門とし、また感染症を専門とした内科医となったことは、結局病理の6年間で論文を読み、手を動かして実験をし、多くの難問にぶつかり、課題への挑戦する心を育んでくれたのではないかと思っています。後の人生の基礎を育てたと解釈しています。従って、学位を取得した君たちが大学院の経験をどう活かすかは、君たち次第です。学位の価値は君たち自身が作り出すものです。日本の社会は直接、すぐに役立つものでないと、学位を評価しないような感じがしていますが、全ての経験は無駄になることはないと信じています。
 長崎大学での経験と学びを是非、自分のものにして下さい。

皆さんの今後の活躍を祈念して、学長告辞とさせていただきます。本日は誠におめでとうございます。

 長崎大学長    河野 茂