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学長室

令和6年度 入学式学長告辞(2024年4月2日)

2024年04月02日

新入生の皆さん、入学おめでとうございます。そして、ようこそ長崎大学へ。
長崎大学教職員を代表して、心よりお祝い申し上げます。

 今、皆さんはいろいろな思いを胸に新しいスタート地点に立っています。これから始まる大学生活への期待に胸を膨らませている方や既に自分なりの将来像を描いている方もいると思います。その一方でこれまでとは異なる大学という大きなコミュニティの中では新しい環境や多くの変化があり、それに伴って不安やプレッシャーを感じている方もいるかもしれません。
 しかし、若い君たちだからこそ、先のことを思い煩って悩むよりも目の前のことに全力投球することに専念してもらいたいと思います。大学は高校時代とは異なり、より自由で自主的な場ですので、これからの長崎大学での生活を大いに楽しんでください。そのうえで最初に、長崎大学の学生として皆さんに大切にしてもらいたいことを幾つか話しておきたいと思います。

 先ず、長崎大学の価値観と使命、すなわち本学が目指していることについての話です。
長崎大学は、1857年にオランダ人医師ポンペ・ファン・メールデルフォールトにより行われた日本初の医学伝習を創基とし、1945年の原子爆弾による壊滅の体験を経て、1949年に新制大学として再構築され、現在、10学部6研究科1学環3研究所及び大学病院を有する総合大学に発展しています。
 大学の理念として「長崎に根づく伝統的文化を継承しつつ、豊かな心を育み、地球の平和を支える科学を創造することによって、社会の調和的発展に貢献する」ことを掲げ、近年、グローバルヘルスに貢献する大学から、地球の健康、すなわち、プラネタリーヘルスに貢献する大学へと進化することを宣言しました。これはSDGsがゴールと定める2030年以降も、SDGsによって得られた成果とシステムを維持、発展させるという、SDGsのさらに一歩先を見据えた取組みです。
 21世紀になり、人間の活動に起因する、気候変動、食糧危機、生物多様性の減少、環境汚染、貧困、格差、パンデミックなどが益々深刻化しています。これら現代の地域・環境が抱える諸課題は地球規模で重層化、多様化しており、これらが人間の福利や健康に影響を及ぼすことも明らかになってきています。長崎大学は、人類と地球の抱える多様で相互に関連する課題群の解決に向けて、学際的にその知を結集し、国内外の諸機関等との連携を図りつつ、プラネタリーヘルスの実現に貢献する世界的“プラネタリーヘルス”教育研究拠点となることを目指しています。
 これを実現するためのキーワードが、グローバルヘルス、グローバルリスク、グローバルエコロジーであり、この3つの分野を融合させた教育、研究活動のさらなる発展を全学的に推進しています。
 それぞれの学部、大学院においてこれらに対する取り組み方は異なりますが、皆さんも常にそのことを考えながら行動することを心掛けてほしいと思います。

 次に学生生活で大切にして欲しいことを2つ挙げます。
1つ目は、学びへのコミットメントです。
「結果にコミットする」というフレーズは、結果を約束するという意味合いで使われていますが、ここで言うコミットメントとは真剣に取り組むことを意味します。当たり前のことですが、学業や研究に真剣に取り組んで下さい。そしてこの学びへのコミットメントにおいて最も重要なのが、何を成し遂げたかということよりも、どのように成し遂げたのか、すなわち結果よりも過程、プロセスを大切にすることです。
 学業や研究においてそのプロセスを大事にすることは、単なる情報の吸収ではなく、深い理解や自己の成長に繋がります。その一方で結果だけを追求し、それにこだわることは一時的な成功を追及することになり、学びの本質や価値を見失うおそれがあります。ビジネスの世界では、時間に対する効果を求めるタイムパフォーマンス、いわゆるタイパという言葉が流行っていますが、それに踊らされてはいけません。達成感や成功体験、タイムパフォーマンスを追及することも勿論重要ですが、それは一時的なものであり、真の学びや成長は真摯な取り組みのプロセスの中で実現されます。学びへのコミットメントがあれば、様々な不安やプレッシャーに対処できるようにもなります。
 長崎大学の前身である旧制長崎医科大学卒業生の下村脩(しもむらおさむ)氏は、17年間で85万匹のオワンクラゲを捕獲分析し、ごく微量しか含まれない緑色蛍光タンパク質GFPの発見でノーベル化学賞を受賞されました。それは短期的な研究成果を求めるのではなく科学の道をひたむきに歩まれた成果でした。そして、受賞後に行われた本学における講演会では「どんなに難しいことでも努力すればなんとかなる」という平易な中にも力強い言葉を残されました。これは、成功への道のりは簡単ではないことを示すとともに、学びや研究においてはプロセスを重視することこそが成功に不可欠であることを示唆しています。

 学生生活で大切にして欲しいことの2つ目は、人との出会いを大切にすることです。
これまで皆さんがいた環境とは異なり、社会や文化において異なる背景や特性を持つ多くの学生や教職員がキャンパスの中で共存しているのが大学です。
 長崎大学は国立大学における女性教員在籍率は最上位に位置し、女性活躍推進を牽引するとともに、ダイバーシティ&インクルージョンを実現する大学として多様性のさらなる理解の促進と誰もが集い易いキャンパスづくりを推進しています。 
 さらに、海外から昨年度は550名を超える多くの留学生を受け入れるとともに、海外の大学や拠点との相互交流や様々な国際交流プロジェクトを積極的に行っており、本学を卒業し世界で活躍している卒業生の国際ネットワークの構築やキャンパスの国際化を推進しています。皆さんには、これからの学生生活の中で、様々な機会を利用して、多様な人材との交流を積極的に行ってもらいたいと思います。
 コロナのパンデミックと同様に、今や気候変動による災害や紛争の影響は当事国や周辺国だけでなく国際社会全体への波及速度を速め、様々な価値観すらも国を越えて連動し、地球規模での対応が必要となる時代となっています。このような連鎖的な影響は、一つが倒れれば次々に倒れていくドミノ倒しのように、国と国、地域と地域に波及していきます。このため、国際社会は一つの国の問題に対しても敏感であり、その影響が広がる可能性を考慮して協力し合う必要があります。こういった観点からも皆さんには、多様な背景や特性を持つ人々との交流や連携を大切にしてもらいたいと思います。
 
 長崎大学のシンボルマークは、鎖国時代に世界と長崎をつなぐ文化の懸け橋として活躍したオランダ船の舳先(へさき)にNagasaki Universityの頭文字を付け、右肩に大學の文字を配したものを、青い海に覆われた地球を表現する色であるコスミック・ブルーで描いたものです。
 そして、古くから多様な文化を受け入れてきた歴史的背景と、原子爆弾による壊滅的な被害から見事に復興し、核兵器廃絶と恒久平和の願いを世界に訴える国際的な平和都市として蘇った、長崎の地にある総合大学を表現していることを覚えておいてください。

 さあ、本日から皆さんも長崎大学の一員です。
学びへのコミットメント、そして人との出会いを大切にして、プラネタリーヘルスの実現に向かって共に歩みましょう。

本日は入学誠におめでとうございます。

長崎大学長 永安 武