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第1回 寺島実郎氏

2015年05月31日(日曜)   15:00〜16:30(開場14:30)

長崎創生に向けて問いかける
〜17世紀オランダと江戸期日本からの視界〜

わたしはこの数年、「17世紀オランダからの視界」を軸に日本の近現代を見つめ直してきた。そのなかで改めて感じるのが長崎という地の役割の大きさだ。地域に埋め込まれたDNAを掘り下げ、長崎のもつ本質を問い直すことが、新たな創生に向けた最重要の課題と考える。

寺島実郎氏写真

寺島 実郎
(一財)日本総合研究所 理事長/多摩大学学長


早稲田大学大学院政治学研究科修士課程終了後、三井物産入社。三井物産常務執行役員、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授等を経て現職。著書に「若き日本の肖像: 一九〇〇年、欧州への旅」(新潮社)


《ホスト役》 木村 直樹 /多文化社会学部 准教授  

講演要旨

◆こちらから2015年7月28日(火)付長崎新聞掲載紙面(PDF/5.25 MB)がご覧いただけます。

「知の力」こそ原動力になる

 この5年間、「江戸期日本と17世紀オランダ」をテーマに思考を練り上げ、発表してきた。そこで痛感したことは、一つひとつの歴史を掘り起こし紡ぐことで、これまで考えもしなかった発想を得られるということだ。
 以前の長崎大学リレー講座でも触れたことがあるが、ピョートル大帝がオランダで学んだことがロシアの日本への関心を呼び起こし、ピルグリム兄弟のオランダでの体験が徳川幕府に開国を迫る米国の原点となった。歴史を丁寧に検証していくことで、17世紀オランダが現代世界をつくる基盤となったことが、初めて具体的な姿をもって、わたしたちの眼前に現れるのである。
 わたしは自分自身、このような知の再構築に取り組んでいるが、17世紀のオランダを調べてみることで、思わぬ発見に何度も遭遇した。たとえば、薄紙をはぐように事実関係を丁寧に解きほぐしていくことで、沖縄と日本の位置関係もくっきりとわかるようになった。そのことが、わたし自身の世界観や国際認識も変え始めている。
 江戸期の日本を掘り下げていくと、非常に閉鎖的な時代だと思われていた当時の日本でさえも、移動と交流が歴史を動かす原動力となり、地域活性化の重要な要素となったことを痛感する。別の言葉で言えば「観光」である。わたしは最近、『新・観光立国論−モノづくり国家を超えて』(NHK出版)という本をまとめたが、観光というものを戦略的に再構想すべき時期に入ったのではないかと感じている。
 観光立国を目指すというときに、ともすれば訪日観光客の数ばかりが話題となる。しかし、2泊3日のパック旅行で来日し、秋葉原の安売りツアー以外は滞在中もお金をほとんど使わない旅行者がいくら増えても観光は産業にならないし、地域経済に大きなインパクトは期待できない。世界遺産もよいが、「思い出観光」だけでは持続的な地域の活性化に結び付くことは難しい。
 観光で地域の経済を良くしようというのであれば、購買力の高い人たちを呼び込む必要がある。つまり、情報と知的基盤を求めるハイエンド層をどのように引き付けるかが重要なカギだ。長崎で言えば、長崎大学の熱帯感染症研究のように突出した存在が、世界中の研究者や産業人を引き付け、移動と交流を促進し、起爆剤になるのではないかと考えている「知による高付加価値化」をどう実現するか、ビッグデータの活用も含め、観光戦略の再構築が求められている。