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第4回 牧大介氏

2015年06月29日(月曜)   19:00〜20:30(開場18:30)

ローカルベンチャーが地域を変える

どれだけ立派な計画を立てたところで、やる人がいなければ意味がない。岡山県西粟倉村では、地域資源から新たな価値を創造するローカルベンチャーの育成に力を入れ、人口1500人の村に10社以上のベンチャーが生まれ、70名以上の雇用が創出された。このプロセスについて説明する。

牧大介氏写真

牧 大介
株式会社 西粟倉・森の学校 代表取締役 校長 


1974年生まれ。京都大学大学院(森林生態学)修了後、コンサルタントしてとして、農山漁村における新規事業の企画・プロデュースを手掛けてきた。2009年に(株)西粟倉・森の学校を設立。


《ホスト役》 渡辺 貴史 /水産・環境科学総合研究科 教授  

講演要旨

◆こちらから2015年7月31日(金)付長崎新聞掲載紙面(PDF/5.21 MB) がご覧いただけます。

岡山県・西粟倉村の挑戦

 地域の可能性を掘り起こし、価値に替え、雇用形態に結び付ける人材の存在が、地方創生では欠かせない。現場で一生懸命やる人が出て初めて、地域を変える試みが動き始める。
 ところが多くの場合、計画をつくることに追われ、実行に結び付かない。時間をかけて立派な計画をつくったところで、その間に環境はどんどん変化する。そもそも計画通りに行くはずがないないのに、計画に縛られ、計画通りにやろうとする。これでは、優秀な行政マンの時間を浪費するだけだ。
 合意形成にも時間をかけすぎている。今ある社会構造を変革しようとすると、初期には多くの人の理解を得られにくいものだったりする。みんなで話し合って合意形成しようとしてもなかなかうまく行かない。前例主義も障害の一つ。過去の積み重ねが今の停滞の原因なのに、失敗を恐れるあまり、過去にやってきた事例や方法にとらわれる。これでは新しい価値を生みだすことはできない。
 私が活動する西粟倉村は岡山県の北東の角にある人口約一五〇〇人の村。二〇〇四年に平成の大合併を拒み、独立して生きることを決めた。そして、この10年で移住者が人口の1割程度を占めるようになった。新しく立ち上がった会社が12社以上あり、売上高の合計も7億円を超え、雇用も少なくとも70人は増えている。
 きっかけとなったのは、当時、森林組合に勤めていた國里哲也さん。仲間を集めて起業し、今でいう林業の六次産業化に着手した。この動きをきっかけに、村全体がチームとして発展していくためのビジョンやコンセプトを文書化し、「一〇〇年の森構想」として発信することを始めた。このプロセスで、村は具体的なアクションを先行させ、既成事実となったものを政策的に文書化して、予算化していくという柔軟な対応をした。
 一つの事業を大きくするほど、大企業や大都市との戦いになる。それよりも、個性的で小回りの利く小さな会社や事業の集合体として地域全体を形づくり、地域の可能性を掘り起こしていくというのが西粟倉村の産業政策、経済振興の基本的な考え方だ。こうして生まれるローカルベンチャーが集積することで、起業家を育成する土壌が育ち、新しい事業が芽生えるという好循環が生まれている。
 多種多様なチャレンジが生まれる可能性は日本のどの地域も持っている。その可能性を活かすための実践力が求められている。