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第2回 樋口美雄氏

2015年06月03日(水曜)   19:00〜20:30(開場18:30)

長崎の人口推計と地域雇用

今後の長崎県の人口推計と自然増減・社会増減について議論し、これに大きな影響を与える雇用創出のあり方について論じる。これまでの地域創成策の失敗原因を顧み、成功事例を参考に効果的な取り組について検討する。とくに自治体、産業界、労働界、金融機関、大学、そして政府の果たすべき役割を考察する。

樋口美雄氏写真

樋口 美雄
慶應義塾大学商学部教授


1952年生まれ。慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程修了。商学博士。主な研究分野は労働経済学・計量経済学。最近の対談で、樋口美雄×増田寛也『地方消滅―東京一極集中が招く人口急減』(増田寛也著、中公新書)などがある。日本創成会議のメンバーとして活躍。


《ホスト役》 近江 美保 /多文化社会学部 准教授  

講演要旨

◆こちらから2015年7月29日(水)付長崎新聞掲載紙面(PDF/5.83 MB)がご覧いただけます。

「消滅可能性都市」の衝撃

 労働問題や雇用問題に長く関わってきて、東京の問題と地方の問題は違うと常々感じてきた。安倍政権の下で、地方の景気をどう回復させるのかという話をしているが、これは一時的な景気の問題だけではない。何十年来という構造変化が起こっているなかで、地方における若者減少が生じ、一方で、高齢化が進展している。これらは短期の対策で改善するものではなく非常に重い問題である。
 昨年5月、私も加わる日本創成会議が発表した「消滅可能性都市」という言葉は、大きな衝撃を持って受け止められた。これまでも、肌感覚としては「人口が減っている」「若者が減っている」と感じていた人が多いと思うが、私たちのせいで、見たくない未来を突き付けられたわけだ。
 私たちが厳しい見通しを発表したのは、取り組みによっては変わりうるという意味を込めてのものだ。これまでの取り組みを抜本的に変え、地域が一丸となって人口の問題に新たに取り組んでいくことで、私たちの警鐘は杞憂となる。そう望んでいる。ただし、そこには大きな課題があり、乗り越えるためには、ただならない努力が必要なことも事実である。
 国はこれまでにも、何度となく地方の活性化にチャレンジしてきた。しかし、うまく行ったところは少ない。現在進めようとしている施策は、これまでの反省を踏まえたものとなっている。たとえば、地域の自主性を重視して国はサポート役に徹し、地域が動きやすい環境を整備する方針を打ち出している。また、投資に対する費用対効果を測定し、PDCAサイクルを回して施策の改善を常に図っていく考えだ。同時に、地域にその施策を浸透させるために、5年、10年といった長期のビジョンをつくり施策を継続させる考えだ。
 もう一つ重要なポイントは、今までのような経験や勘に頼るのではなく、客観的なデータに基づいて、地域の特性と地域課題を抽出すること。そして、地方行政だけでなく地元企業や財界、銀行そして大学、労働組合、市民が参加するプラットホームをつくり、一丸となって取り組ませようという方針だ。求めに応じて、地域の活性化をリードする人材を国が供給する。地域間の連携にも前向きだ。
 日本の国家財政は、危機的な状況に達している。地方の雇用を解決するために、財政で刺激することはもうできない。今ほど地域の知恵と努力が求められている時代はない。