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第3回 北川フラム氏

2015年06月08日(月曜)   19:00〜20:30(開場18:30)

地方の資産を活かす地域文化の可能性

美術は地域の特質を発見する。他者の土地に設置することで、反対・批判を経て協働を誘発する。 更にまた、そのか弱く、手間がかかり、直接的に役に立たないという存在によって、そこに関わる人たちを媒介する働きがあり、それが均質化し、ただ効率化に向かっている社会の価値観に風穴をあけだした。その美術による地域づくりを説明する。

北川フラム氏写真

北川 フラム
大地の芸術祭総合ディレクター
瀬戸内国際芸術祭総合ディレクター


1946年新潟県生まれ。東京芸術大学卒業。「アントニオ・ガウディ展」、「アパルトヘイト否!国際美術展」「ファーレ立川アートプロジェクト」等をプロデュース。「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」「瀬戸内国際芸術祭」では総合ディレクターをつとめている。


《ホスト役》 堀内 伊吹 /教育学部 教授  

講演要旨

◆こちらから2015年7月30日(木)付長崎新聞掲載紙面 (PDF/6.26 MB) がご覧いただけます。

アートは人と地域をつなぐ原動力になる

 新潟県の十日町市と津南町にまたがる「越後妻有(えちごつまり)」で、二〇〇〇年から三年おきに「大地の芸術祭」を開いている。世界でも最も雪深い場所。かつては、時の政権に追われた人たちが逃れ住んだ。日照がぎりぎり一〇〇日あるかどうかという厳しい気象条件。平らな土地がないため棚田をつくり、川の流れを変えて日本一の米どころになった。
 初めてここに入ったのは約二〇年前。努力を重ねてきたこの地域を、国の方針変更で簡単に捨てていいのだろうかと考えた。「これは俺の仕事」というものをやれなくなるのが、そこに生きる人たちにとって一番辛い。そのこともよくわかった。
 町興しの計画は山ほどある。ところが、企画はあってもやり遂げることがない。僕は、計画を立てた以上やるしかないと思っている。地域の人たちが喜ぶ、そして誇りを持てるようなことをやりたい。一言でいえば、「じいちゃま、ばぁちゃまの笑顔を見たい」。生きてきてよかった、幸せなコミュニティにいるのだと実感してもらいたいと考えた。
 大地の芸術祭では、それぞれの集落にアート作品を設置する。置かせてもらうだけでなく、一緒につくってもらう。今ではほとんどの集落が関心を持ち誘致合戦のようになっているが、最初は、二〇〇〇回を超える説明会をやっても手を挙げてくれた集落は二つだけだった。
 今、「二一世紀の美術は越後妻有から始まる」とまで言われるようになった。一五年は開催年だが、蔡國強やイリヤ&エミリア・カバコフ、ジミー・リャオをはじめ錚々たるアーティストが世界中から参加している。今回は一七カ国・地域から約一八〇組の新しい作品が出品され、過去の恒久作品も含めると三五カ国・地域の約三五〇組の作品に出合える。
 この仕事に関わり強く思うのは、単位はあくまで集落ということ。だからこそ、集落ごとに企画を立ち上げた。そうして、その地域の特質を掘り下げたときに全然違う風景が現れる。国が求めていた合併施策と真っ向から違うことをやってきたが、それが「ふるさと創生」のモデルになっている。
 アートは赤ちゃんと同じ。手間がかかるし、言う通りには動かない。お金もかかる。しかし、今、大地の芸術祭にはIT企業のエースが続々と参加し始めている。農業と地域、文化、食がおしゃれだからだ。アートが人や地域をつなげる媒介として働き出している。