プロジェクトについて

研究概要

 長崎県島原半島は,県内有数の農業地域である.島原半島において生産される農畜産物は,食料供給と地域経済の振興という点から,持続可能な社会の形成に不可欠な資源である.しかしながら農作物生産に用いられる肥料や家畜から排出される糞尿に含まれる硝酸性窒素は地下水汚染を引き起こしており,島原半島は全国有数の地下水汚染地域ともいわれている.当地域における地下水汚染の改善は,持続可能な地域環境の形成にとって,重要な課題である.

 持続可能な開発目標(SDGs)において、目標6に「すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」として明記。
⇒世界的に水資源管理の重要性が高まっている


研究の必要性

 名水百選や水の郷として知られる島原市は,一方では,硝酸性窒素汚染が深刻な地域としても知られている.また申請者らの聞き取りによると,水の量そのものも,これまでに比べ減少してきていると感じている住民も多い.水循環基本計画では,こういった地域特有の水資源についての問題を明らかにして,計画へ反映していくことが肝要と考えられる.長崎県では,窒素負荷低減対策会議を設置し,長年,地下水汚染問題への対応に取り組んできたものの,その効果は明らかになっておらず,いまだに深刻な汚染に悩まされている.以上のように,本来,水のきれいな地域とされる島原市において生じている深刻な水環境汚染に対し,汚染対策の具体的な糸口を見出すことは,清澄な水の確保・保全の観点からも社会的意義のあるきわめて必要性の高い研究となる.


研究の有効性

 上述のように,水循環基本計画には,いずれ地域において流域水循環協議会を設置し,流域水循環計画を策定していくことによる流域マネジメント,流域連携の推進を政府が行うべき政策の一つとしている.地域にある大学として,長崎大学がこのような動きに積極的に関与していくことは極めて重要であり,本プロジェクトの成果と連動させ,適宜,情報交換しながら汚染対策に活かしていくことが有効であり,これは大学としての地域貢献の一つの形であると考えられる.


研究の発展性

 従来の環境研究においては,自然科学系の研究と社会科学系の研究が互いに接点を持たないまま個別に実施されることが普通であった.これに対して本プロジェクトは,地域の水環境の改善・修復という目標に対して,自然科学系と社会科学系の研究者がユニットを組み協同して携わる.これにより,単なる集合体ではない真に文理が融合した環境研究の在り方と,それによってもたらされるこれまでにない成果のかたちを長崎大学から世界に向けて発信でき,このことは,環境研究分野の今後の発展に大きく寄与するものである.
 本研究では,ケーススタディとして島原半島の水環境汚染の事例を取り上げているものの,研究のフレームワークそのものは,特定の場所に限られるものではないため,わが国にも多くある硝酸性窒素による地下水汚染が深刻な場所において広く適用可能なものとなる.また日本と同様に農業を中心に発展してきているアジア諸国,畜産の盛んな欧州においても応用可能な発展性を備えているといえる.