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熱帯医学研究所一盛和世客員教授 −20年にわたるWHO太平洋地域フィラリア症対策資料をオーストラリア ジェームス・クック大学へ寄贈

長崎大学の客員教授で、熱帯医学研究所のフィラリアNTD室長兼nekken NTDi Centerシニアアドバイザーである一盛和世教授が、オーストラリアのジェームス・クック大学James Cook University (JCU)のWHO太平洋リンパ系フィラリア症対策(PacELF)データウェアハウスに25年にわたる太平洋地域でのフィラリア対策の資料を寄付し、記念式典が2017年8月11日、クイーンズランド州タウンズビルの同大学キャンパス内でとり行われました。

一盛和世氏はロンドン大学で熱帯医学博士取得後、WHOジュネーブの職員として主に同地域のリンパ系フィラリア症の制圧プログラムに尽力し、1999年に上記PacELFプログラムを開始し、太平洋地域の流行国が年一回の全住民の一括薬剤治療(Mass Drug Administration)を5回繰り返した後、5年の評価期間、さらに2年間の排除成果承認期間を設けた国ごとの活動を支援しました。その結果、2013年には同地域のバヌアツを筆頭とする5か国が制圧成功国としてWHOから承認されるという成果をあげました。このプログラムを可能にしたのは一盛氏の情熱的な支援活動であり、この活動にはJICAをはじめとする日本政府が大きな貢献をしました。

一盛氏は1997年顧みられない感染症Neglected Tropical DiseasesのWHO総会決議の採択やエーザイのロンドン宣言(リンパ系フィラリア症、シャーガス病、リーシュマニア症に対しても新薬開発に取り組むことを表明し、2020年までのNTDs制圧に向けて全面的に協力することを宣言)にも貢献され、同本部内のNTD部で太平洋のみならず世界のフィラリア症撲滅に向けた支援活動を精力的に継続され、2013年退官されました。日本に帰国後は長崎大学熱帯医学研究所客員教授としてこれまでの活動に関する関係資料の編纂を進められるとともに、USAID(米国 国際開発庁)の支援の下、太平洋フィラリア制圧プログラムのフォローアップとしてEnd Game Projectをジェームスクック大学のPatricia Graves教授と共同で進めました。これらすべてを包括した太平洋地域におけるフィラリア対策の特別号が今年、日本熱帯医学会機関誌で長崎大学に事務局のあるTropical Medicine and Health誌(橋爪真弘編集長)において発刊される予定となっています。またWHOからもPacELFの総括特集号が出版されることになっています。

今回の記念式典は、一盛和世PacELFアーカイブズの大学への寄付と顧みられない感染症Neglected Tropical Diseases(NTD)制圧案のWHO総会決議20周年、さらにジェームスクック大学公衆衛生熱帯医学校開設25周年の記念行事として同大学が主催し、関係する内外ゲスト100名ほどが参加して行われました。長崎大学からは、一盛和世氏の他、Endgame Projectを支援した長崎大学熱帯医学研究所からも平山謙二所長が招かれ、それぞれ記念のスピーチを行いました。記念式典では、校長のMaxine Whittaker氏や学部長のLars Henning氏が祝辞を述べ、PacELFの歴史と成果の概要を、一盛氏とGraves氏が講演、その後、今後の大学連携や共同研究の可能性について熱研が昨年から開設したNTDi Centerの紹介も含めて平山がスピーチを行いました。その後レセプションが盛大に行われ活発な討論で盛り上がりました。その後シニアスタッフによる招待ディナーに一盛、平山が出席し、カンガルーやコロコダイルを食べながら、さらに両大学の親交を深めました。

一盛教授とJCUのWhittaker校長
 一盛教授とJCUのWhittaker校長

PacELF

一盛資料室でLars学部長やIT関連スタッフと
 一盛資料室でLars学部長やIT関連スタッフと

フィジーの保健省代表Kama氏、右は一盛氏の盟友Patricia Graves氏
ヘルスサイエンス教育棟のロビーの水槽(サンゴと熱帯魚)前で、フィジーの保健省代表Kama氏、右は一盛氏の盟友Patricia Graves氏

ジェームスクック大学http://www.jamescook-u.jp/

 遠隔教育プログラムで開かれていた2週間のスクーリング
遠隔教育プログラムで開かれていた2週間のスクーリング

JCUの新しいヘルスサイエンス教育研究棟
 JCUの新しいヘルスサイエンス教育研究棟

は、日本と時差一時間のオーストラリア北部グレートバリアリーフで有名なクイーンズランド州のタウンズビルとケアンズ、シンガポールにキャンパスを有する理系の大学で、熱帯研究における名門校としてオーストラリア国内外で人気が高い大学です。イギリスの探検家、ジェームス・クックに由来して命名され、学生数は20,000名以上、そして現在もその数は増え続け、留学生数は6,000名以上、学生は世界100以上の国から集まってきています。Shanghai Jiao Tong Universityにより世界の大学ランキングでは、世界上位2パーセントに入る評価を得ています。平山の印象では、南太平洋地域の保健医療公衆衛生、環境科学、畜産農水産科学の基幹大学を目指しているような感じです。英連邦の伝統を生かしつつ、熱帯地域に位置するという特色もうまく利用しながら、順調に発展しているようです。熱研としても何らかの互助関係Win-winを作っていけるかもしれないと感じました。

(文:平山謙二)