2025年03月11日
2025年2月10日、五島市玉之浦地区において、実施主体である豊田通商株式会社、そらいいな株式会社、株式会社ACSL、MONET Technologies株式会社、長崎県、五島市と共同でドローンのレベル4飛行による医療MaaS※への処方薬配送実証試験を行いました。本実証試験は、内閣府が連携”絆”特区として定める長崎県・福島県を対象とした「令和6年度 先端的サービスの開発・構築及び規制・制度改革に関する調査事業」の一環として実施され、本学から医歯薬学総合研究科の川上純研究科長、前田隆浩教授、野中文陽講師、宮田潤助教、下敷領一平助教が参加しました。
※MaaS:mobility as a service
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【背 景】
1)五島市の現状
長崎県五島市は長崎市から西に100km離れた離島地域であり、高齢化率(65歳以上人口が占める割合)が約43%と高齢化が進行しています。とくに市街地から離れたへき地や2次離島ではその傾向が顕著です。こうした地域では、高齢化の進んだ小集落が山間や海沿いに点在している一方、人口減少に伴う路線バスの減便やタクシー会社の撤退、運転免許証の返納などを背景に住民の移動手段が限られ、医療機関へのアクセスが困難な住民が多いという課題があります。また医療資源そのものも充分ではありません。
2)五島市モバイルクリニック(図1)の社会実装
このような事情で以前から遠隔医療のニーズが大きい状況ですが、ICTリテラシーの問題、オンライン診療の正確性やコミュニケーションの問題が障壁となり、なかなかオンライン診療が普及しませんでした。これら課題に対応すべく、五島市では2023年1月より医療MaaSを活用した巡回診療推進プラン(五島市モバイルクリニック:MC)が開始となりました。MCは通信システムを搭載した医療MaaSが患者の自宅付近まで配車され、乗車してきた患者へ向け、医師が医療機関からオンライン診療を行います。車内には遠隔聴診システム、血圧計やパルスオキシメーターなどの医療機器が搭載され、オンライン診療を行う設備が備わっているうえ、同乗している専任の看護師が患者の横で診療の補助を行っています。Doctor to Patient with Nurse(D to P with N)型のオンライン診療のため、看護師が患者-医師間コミュニケーションの補助やバイタルサインの確認など、通常のオンライン診療よりも格段に患者さんを把握しやすくなっています。
本学ではこれまで、五島市に設置された離島医療研究所の教員を中心に、五島市や五島医師会、本事業の委託事業所であるMONET Technologies株式会社と共同でモバイルクリニックの実務や臨床研究を行ってきました。
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(図1)
2023年1月に開始してから2025年2月末まで、モバイルクリニック利用患者は71名、運行回数はのべ534回にのぼります(図2)。また、本事業に参入している医療機関は徐々に増え、現在市内6医療機関でモバイルクリニックが活用されています。
(図2)![]() |
3)ドローンによる処方薬配送の可能性
モバイルクリニックの利用患者は増加していますが、オンライン診療後にどのように処方薬を患者へ届けるという問題が浮き彫りとなりました。課題解決の一手として我々はドローンによる配送の可能性を検討致しました。
そこで、2023年にそらいいな株式会社、五島市、久賀診療所、玉之浦診療所ならびに株式会社福江薬局と共同で処方薬のドローン搬送試験を行いました。へき地診療所で医師が対面診療を行った後、市街地の薬局から薬剤師がオンライン服薬指導を行い、調剤した処方薬をそらいいな株式会社の固定翼型ドローンに搭載し、患者自宅近くまで配送する実証実験になります。この実験によって離島地域におけるドローンを活用した処方薬配送が技術的に可能であることを明らかにしました。ただ、この時のドローン飛行はレベル3(無人地帯での目視外飛行)であったため、ドローンで処方薬を搬送した後に患者に手渡すまでに比較的大きな時間と労力を必要とし、実運用の面で大きな課題が残りました。このため、レベル4飛行(有人地帯の目視外飛行)の重要性が痛感され、今回の実証試験につながったわけです。
一方、2024年6月には長崎県が「新技術実装連携“絆”特区」に指定され、有人地帯の目視外飛行(レベル4飛行)を行うための要件が緩和されたことにより、ドローンによるオンデマンド配送の実現に向けた調査事業を行うための基盤が整いつつあります。
【課 題】
玉之浦診療所においてMCによるオンライン診療を行った後、翌日に診療所看護師が患者自宅を1件1件訪問し処方薬を手渡しているという現状があります。
【今回の実証内容】(図2、図3)
玉之浦診療所でMCによるオンライン診療を終えたのち、院内で調剤した処方薬を、ACSL社のマルチコプター型ドローン(PF2-CAT3)によるレベル4飛行で診療所からMC(患者宅の軒先)まで配送する実証実験を行いました。MCによるオンライン診療とドローン技術を組み合わせることで、移動が困難な患者へ安定した医療を届けるだけでなく、オンライン診療~処方薬を届けるまで完結した次世代型遠隔医療モデルの提供が期待されます。
![]() 医療MaaS(患者宅付近)にまもなく着陸するドローン |
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処方薬を搭載したドローンが玉之浦診療所を離陸する様子 |
(図3)![]() |
【今後の展開】
本実証の有用性や課題を関係各所と検討し、未来の遠隔医療の発展に寄与したいと考えています。
【本実証における各企業・自治体・本学の役割】
豊田通商株式会社:調査事業全体とりまとめ、規制・制度改革案協議
そらいいな株式会社:実証現場整備、配送オペレーション補助
株式会社ACSL:レベル4飛行対応機体提供、レベル4飛行オペレーション
長崎県:規制・制度改革案協議
五島市:モバイルクリニック連携協力、玉之浦診療所運営
長崎大学:医療関係者間協議補助、処方薬配送効果検証
【連絡先・お問い合わせ】
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 離島・へき地医療学講座(離島医療研究所)
〒853-8691 長崎県五島市吉久木町 205 番地 五島中央病院内
電話:0959-74-2673 FAX:0959-74-2635
担当者:野中文陽、前田隆浩