2025年05月27日
2025年2月、長崎大学多文化社会学部の4年生、江島千晴さんと平部桃子さんが福島県双葉郡大熊町の紹介動画を制作・完成させました。3月より福島県双葉郡大熊町、大野駅のデジタルサイネージで放映されています。この程、同町のご厚意により、本学での掲載許可をいただき、ここで紹介します。
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江島さん、平部さんの2人は昨年9月、長崎大学福島未来創造支援研究センターが主催する『地域から学ぶ復興学セミナー』に参加。3泊4日で福島県を訪れ、東日本大震災・原子力災害伝承館や請戸小学校震災遺構、東京電力廃炉資料館などを見学し、災害被ばくに関する講座やワークショップを受講したほか、地域住民の方々や同地の大学生との意見交換会に参加して、福島復興の現状や課題について理解を深めました。
同セミナーでの交流がきっかけとなり、10月に大熊町より動画制作の依頼を受けました。その内容は「3~5分程のショートムービー。学生目線で大熊町の魅力を紹介する動画を作ってほしい」というもの。セミナー後も福島への関心が高かった2人は「ぜひチャレンジしたい!」とその依頼をお受けして、11月に再度大熊町を2泊3日で訪れ、撮影を行いました。以下、2人に話を聞きます。
福島未来創造支援研究センター『地域から学ぶ復興学セミナー』についてはこちらから
![]() 左から江島さん、平部さん |
![]() 福島県で購入した大熊町の施設やキャラクターのキーホルダー |
【インタビュー】
Q.どんな思いを込めて大熊町紹介動画を作りましたか?
平部さん 地域の温かさが伝わる動画にしたいというのが2人の共通意見でした。『地域から学ぶ復興学セミナー』で、福島県浜通り地域の人々と交流した際に「多くの人に福島へと足を運んで欲しい」という声を聞き、自分が見聞きしたことを何か形に残して誰かに伝えたいと思うようになったのです。動画制作の依頼をいただいて、それを実現できる絶好の機会だと思いました。
江島さん 自分たちが実際に見て心うごかされた場所や触れ合いを動画に込めたいということも同意見でした。また、セミナーの3日間にいただいた食事がお米も海産物もすべておいしかったので、食品の紹介も必ず加えたい要素だと考えました。しかし、現地で調査・撮影期間は2泊3日と限られており、魅力を探す時間は多くありません。まずは、インターネットや地図アプリなどを使って情報を集め、その中で我々が気になる場所を探しました。
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Q. 動画内では『秋の坂下ダムウォーキング』で多くの人の楽しそうな表情が印象的でした
平部さん 偶然にも訪問時に多くの大熊町民が参加するイベントがあることが分かり、撮影の絶好の機会だと思い参加しました。大熊町は双葉町と共に福島第一原子力発電所がある自治体です。14年たった現在でも帰還困難区域があり、震災前の状況に戻ることが容易ではありません。ですが、ウォーキングではそんな困難を感じさせない地域の方々の絆の強さと、それを包み込む自然の豊かさを体感することができました。
江島さん 私たちも撮影目的で同じ行程を一緒に歩いたのですが、多くの方から大熊町への想いを聞くことができ、大熊町らしい風景の中で地域の人が触れ合う良い映像を撮ることができたと思います。長崎から参加したと話すととても驚かれて、歓迎してくださいました。セミナーで感じていた福島県の印象と同じく、県外からの参加者を受け入れてくださる温かさがとてもありがたいと感じました。
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Q.食品ではおおくまベリーが紹介されていました
江島さん 『ネクサスファームおおくま』という農業法人で、ネットで見たときからとても気になっていました。問い合わせて実際に訪れると予想以上に大規模なハウスで、その栽培施設および栽培関連施設は約2.8haだそうです。最新鋭の設備でシステマチックに管理するいちご栽培が行われており、とにかく圧倒されました。
平部さん ネクサスさんは東日本大震災から8年後の2019年に、大熊町に産業を起こそうと設立された企業です。植物工場を作ることになり、大熊町の特産品として生産していくのに選ばれた作物がいちごでした。当初は、いちご全量に放射性物質測定検査をしていたそうです。現在はこれまでの科学的な安全性が担保され、比較的手間がかからないスポット検査に移行しています。おおくまベリーを使った飲むこんにゃくゼリーやセミドライいちご、いちごジャムなど加工商品の製造販売も好調の様子でした。
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Q.新興企業の存在は地域の活力になりそうですね
平部さん ネクサスさん以外にも大熊町では小学校を改築してスタートアップ企業の誘致施設となった『大熊インキュベーションセンター』があり、5つの企業が事務所を構えているほか、100以上の企業がシェアオフィスを設置しています。9月のセミナーで見学させていただいたのですが、ドローンや無人ロボットの開発など、最先端技術を追求するスタートアップ企業が技術開発している様子に将来性を感じました。
江島さん 教育機関でも魅力的な施設があります。動画で紹介した大熊町立『学び舎ゆめの森』は、こども園と義務教育学校が合体した教育機関で0歳児から15歳までが通っています。図書館を取り囲む独創的な校舎や芝に覆われた運動場など環境も素晴らしいですし、探求力育成を重視する教育方針も魅力的で「私も通いたかった」と思ったほどです。
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Q.多くのことを学んだ動画制作だったことが伝わってきました
江島さん セミナー参加から動画撮影へと縁がつながり、大熊町の大きな可能性を見せていただきました。大学生から見て大熊町は、働く場所としても、育児環境としても素敵だと思います。もちろん、現在も中間所蔵施設を抱えている被災地なのですが、昔ながらの風景を守ろうとする地域の方々の想い、そして未来を生み出そうとする街づくりや新興企業を見て、どちらも魅力的な大熊町の姿であると感じました。この動画でその魅力が少しでも伝わったら嬉しいです。
平部さん 九州出身の私たちにとって大熊町は、これまで縁がなく、関係を築くことは難しい場所でした。セミナーに参加して福島県について学ぶ機会になったこと、さらに大熊町の映像制作の機会をいただき、様々な出会いがあったことに感謝しています。居住者ではない私たちが同地に貢献できることは少ないかもしれませんが、江島さんが話したように、この動画で自然の美しさや温かさに満ちた地域の人々の様子をご覧いただき、大熊町に興味を持っていただけたらと思います。