2020年01月28日
国立大学法人 長崎大学大学院工学研究科 小林透教授の研究グループは、長崎大学病院 脳神経内科の辻野彰教授の研究グループと共同で、IoTとAIを活用することにより、普段の生活行動から認知症の予兆を検知するシステムを開発しました。
【開発の経緯】
小林透教授と辻野彰教授の研究グループは、これまで、「認知機能障害」を会話型ロボットとの会話により定量的に把握できる認知症予兆検知ロボットを開発し、長崎大学病院で実証実験を行い、国際会議でその高い有効性が評価され“SpecialMerit Award”を受賞しています(※1)。
さらに、家族に関する情報を会話型ロボットとの会話に盛り込み、その真偽を家族に確認することにより記憶の確からしさを計測する新しい手法を創出(※2)し、有効性評価を行っています。
一方、認知症の診断には、「認知機能障害」だけでなく、家事が行えないなどの「生活機能障害」の把握が重要であると言われています。「生活機能障害」を把握するためには、高齢者だけでなく、その家族にもヒアリングする必要があるため、これまでの会話型ロボットだけでは難しいという問題がありました。
そこで、IoTとAIを活用することにより、従来の会話型ロボットで、高齢者の生活行動の見守りを可能とし、そこから生活機能の障害の度合いを定量的に把握できるシステムの開発に成功しました。
開発したシステムは、高齢者の宅内外に設置した超小型センサ、高齢者の宅外行動を把握するためのウェアラブルデバイス、及びクラウド上の人工知能を連携させることで「生活機能障害」の把握を可能としています。
具体的には、加速度センサと通信機能(Bluetooth Low Energy)を備えた一円玉大の超小型センサを既存の家電や家具等に張り付けることで、例えば、高齢者がトイレに行った回数やゴミ箱を開けた回数などを検知することで、日常生活動作(ADL:Activities of DailyLiving)(※3)を定量化することができます。
【実証実験について】
2020年2月以降、ロボットの評価を目的とした実証実験を長崎大学病院で実施します。長崎大学病院脳神経内科の辻野彰教授の研究グループと共同で、長崎大学病院の特別室に実験システムを構築し、数名の被験者を募り、データ収集機能等のシステムの機能的検証を行います。
【今後の展望】
離島を抱えた本県において、まずは人に代わりロボットが予兆を捉え、その後専門医の診断を仰ぐという体制を整えることができれば、効率的な医療サービスの提供が可能となります。さらに、高齢者の生活機能の障害の度合いを定量的に把握できれば、より細やかな認知症予知が可能となります。
※1 IEEEが主催するコンシューマエレクトロニクスに関するトップカンファレンスの一つであるThe International Conference on Consumer Electronics-Berlin (2019ICCE-Berlin) において、コンシューマ向けサービスとして、最も効果が期待できる発表に与えられるものです。
※2 NTTの研究所との共同研究成果の一部です。
※3 ADLとは、移動・排泄・食事・更衣・洗面・入浴などの日常生活動作(Activities ofDaily Living)のことを言い、ADLが低下する背景には身体機能と認知機能の低下と精神面・社会環境の影響があります。
※ 本研究開発の一部は、総務省・戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)からの委託により実施した。
【問い合わせ先】
国立大学法人長崎大学大学院工学研究科情報工学コース
担当:小林 透 教授
TEL:095-819-2577
Email:toru@cis.nagasaki-u.ac.jp