2020年04月14日
医歯薬学総合研究科口腔病原微生物学分野の庄子幹郎准教授、中山浩次客員研究員のグループは沖縄科学技術大学院大学の柴田敏史研究員、Matthias Wolf准教授のグループ、大阪大学大学院理学研究科の今田勝巳教授のグループとの共同研究で、バクテロイディア綱細菌が有する、宿主への定着等に重要な働きがある5型線毛の構造と形成機構を解明しました。
細菌の付着機構は、宿主-微生物間および微生物-微生物間の相互作用を可能とする代表的な生存戦略です。細菌の菌体表面にある線毛は病原細菌の病原因子の一つであり、環境中や宿主生体内での定着やバイオフィルム形成に関わります。バクテロイデア綱の細菌の多くは、線毛形成にプロテアーゼが関与するユニークな線毛(5型線毛)をもっています。ポルフィロモナス・ジンジバリス(以下、ジンジバリス菌)はバクテロイデア綱に属し、成人の慢性歯周炎の発症と進行だけでなく、関節リウマチ、心血管疾患、膵癌など他の器官・臓器の疾患にも関連が示唆される主要な口腔病原細菌です。 また、最近、ジンジバリス菌は脳内のβ-アミロイド様沈着物の形成にも関係しているとの報告があります。 本菌は、2つの5型線毛、長いFim線毛(0.3-1.6 µm)と短いMfa線毛(80-120 nm)を保有します。 これらの線毛は、口腔上皮基質および細胞外マトリックスタンパク質への付着、自然免疫システムからの回避および口腔バイオフィルム中の他の細菌との共凝集において重要な役割を果たします。このように5型線毛はジンジバリス菌の重要な病原因子ですが、構造や形成機構の詳細は依然、不明でした。本研究で、ジンジバリス菌のFim線毛の主要サブユニットFimAタンパク質の試験管内での重合体形成に成功し、クライオ電子顕微鏡解析(解像度3.6Å)でのFimAタンパク質重合体の構造を解明しました。また、その構造をX線結晶構造解析(解像度2.1Å)でのFimAタンパク質単量体の構造と比較した結果、重合体形成の詳細がわかりました。FimA重合体の原子モデルでは、RgpBプロテアーゼによるドナーサブユニットのN末端鎖切断によってドナーサブユニットのC末端鎖に位置変化が生じ、アクセプターサブユニットのβシートの溝に挿入されています。すなわち、5型線毛の形成はバクテロイデア綱に属する細菌が有するプロテアーゼが関わるサブユニットの連続的な鎖交換で行われます。さらに、FimA重合体での病原性に関連する機能表面も本研究で明らかになりました。この発見は、歯周病予防や治療のための抗菌薬の開発につながる可能性があります。
なお、本研究は4月14日(日本時間)付でNature Microbiology誌に掲載されました。
著者名:Satoshi Shibata#, Mikio Shoji#, Kodai Okada, Hideyuki Matsunami, Melissa Matthews, Katsumi Imada*, Koji Nakayama* and Matthias Wolf*
# : Co-first author, * : Co-corresponding author
雑誌名:Nature Microbiology
DOI:10.1038/s41564-020-0705-1
Related links
◆沖縄科学技術大学院大学(OIST)
日本語:https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/34935
英語:https://www.oist.jp/news-center/press-releases/building-blocks-gum-disease
◆大阪大学:https://www.sci.osaka-u.ac.jp/ja/topics/8425/
◆SPring-8 大型放射光施設:
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2020/200414/