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世界初 魚類が2方向から攻撃される場合の回避行動を解明~国外5つの大学・研究所と共同研究~

 水産・環境科学総合研究科の木村 響(実験当時:5年一貫制博士課程4年)、河端雄毅准教授、デンマーク工科大学のTilo Pfalzgraff博士、モントリオール大学のMarie Levet氏、コペンハーゲン大学のJohn F. Steffensen教授、ハワイ大学のJacob L. Johansen助教授、イタリア国立生物物理学研究所(CNR–IBF)のPaolo Domenici博士らの研究グループは魚類が2方向からの攻撃に対して柔軟に逃げる方向を変化させることを世界で初めて明らかにしました。

 魚類は捕食者などの攻撃を避けるために逃避します。その逃避する方向(図1)について様々な研究が行われてきましたが、単一の捕食者・刺激に対する行動に主眼が置かれていました。しかし、自然界では、複数の捕食者が異なる方向から同時に、あるいは連続して襲ってくることがあります。また、フェイントをかける(挟み撃ち攻撃するときに時間差を持たせる)ことで魚類が逃避する方向をコントロールしようとする捕食者もいます。

 そこで、本研究では2方向から攻撃された場合に逃避する方向を変えられるのか、変えられるとすれば2つの攻撃に時間差があっても変えられるのかを調べました。北米西岸に生息するカジカの一種(Leptocottus armatus)を対象に、左右から円盤が接近する映像を見せて驚かす方法で実験を行いました。

図1:実験設定と逃避のパラメータ


 その結果、左右からほぼ同時(時間差0ミリ秒・時間差33ミリ秒)に攻撃される場合に逃避する方向が変化することが分かりました。しかし、左右の攻撃に一定時間(時間差83ミリ秒)の差があると逃避する方向が変化しないことが明らかになりました(図2)。

図2:逃避する方向

 ・左右から同時に刺激を受けた場合(①)と、左右の刺激の時間差が33ミリ秒の場合(②)は

  逃避する方向を調節

 ・左右の刺激の時間差が83ミリ秒の場合(③)、片側からのみの刺激(④)と同じ方向へ逃避

 動物の逃避は刺激を感覚器で感知してから実際の移動が始まるまで一定の時間差があることが分かっています。これは中枢神経系での情報処理や信号の神経伝達にある程度の時間がかかるためです。Leptocottus armatusは刺激を受けてから移動が始まるまで60ミリ秒程度の時間がかかることが先行研究により推測されています。

 このことから、Leptocottus armatusは刺激を受けてから反応が始まるまでの間に2つ目の刺激を受ける場合にのみ逃避する方向を調節することができ、反応が始まってからは逃避する方向を調節することができないと考察できます。

逃避はほぼ神経反射で行われる硬直的な素早い反応であるとこれまで考えられていました。一方で本研究の成果は柔軟な一面も併せ持つ行動であることを示しています。

 本研究の成果は国際誌「Journal of Experimental Biology」に2022年4月11日に早期公開されました。


論文情報


雑誌名:Journal of Experimental Biology

論文名:Escaping from multiple visual threats: Modulation of escape responses in Pacific staghorn sculpin (Leptocottus armatus).

執筆者名:水産・環境科学総合研究科 木村 響(実験当時:5年一貫制博士課程4年)、

                  河端 雄毅准教授

     デンマーク工科大学 Tilo Pfalzgraff博士

     モントリオール大学 Marie Levet氏

     コペンハーゲン大学 John F. Steffensen教授

     ハワイ大学 Jacob L. Johansen助教授

     イタリア国立生物物理学研究所(CNR–IBF) Paolo Domenici博士

掲載日:2022年4月11日

DOI:https://doi.org/10.1242/jeb.243328