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日本特有の難病である中條−西村症候群の原因遺伝子変異を発見  −全身性炎症をきたす難病の発症に新たなメカニズム−

1. 本研究成果の概略 

昭和14年の最初の報告から72年の時を経て,日本特有の難病である中條-西村症候群の原因遺伝子を発見した

この遺伝子がコードするプロテアソームのPSMB8サブユニットの1アミノ酸が変化することによって,プロテアソーム機能が低下する

プロテアソームの機能不全が,全身性の炎症をきたすさまざまな難病の発症に関わる可能性を示した

 

2. 経緯

研究の背景:中條−西村症候群は日本に特有の遺伝性炎症性疾患と考えられ,30例ほどの報告があるが,これまで一定した疾患名もなかった。患者は関西地方,なかでも和歌山・泉南に集積し,幼小児期より凍瘡様皮疹にて発症し,原因不明の周期熱,結節性紅斑,顔面と上肢を中心とする脂肪萎縮・関節拘縮と大脳基底核の石灰化などを認める。家系内発症が多く,全身性の炎症を制御する重要な分子が遺伝的に障害されている可能性が想定されるものの,長らく原因不明であり有効な治療法もなかった。

 

研究主体:平成21年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業の研究奨励分野177疾患の一つに採択され、和歌山県立医科大学医学部皮膚科(金澤伸雄講師,古川福実教授),久留米大学医学部呼吸器・神経・膠原病内科(井田弘明准教授),長崎大学大学院医歯薬学総合研究科人類遺伝学(吉浦孝一郎教授)を中心とする研究班によって研究が進められた。

 

研究成果:患者とその家族の方の遺伝子を解析し,PSMB8遺伝子の変異が原因であることを見いだした。これは,細胞内蛋白質の品質管理を司るプロテアソーム複合体を構成するサブユニットの遺伝子の一つであり,変異によってプロテアソームの量も機能も低下していた。さらに,本来はプロテアソームによって分解されるポリユビキチン化蛋白質や酸化蛋白質が患者の組織や細胞内に蓄積していること,これらの蓄積によって炎症に関連するリン酸化p38が細胞核内に増加しIL-6の産生が亢進していることを明らかにした。

 

3. 期待できる効果

 現在生存が確認されている患者は関西に11人あるのみであるが,平成17年生まれの幼児例もあり,今後も患者の発生が予想される。原因遺伝子とその変異によって炎症が引き起こされるメカニズムが明らかになったことにより,有効な治療法の開発につながることが期待される。時を同じくしてよく似た疾患が米国とスペインからも報告され,中條−西村症候群と合わせプロテアソーム機能不全病として,新たな病態の解明に向けた研究が世界規模で進むと予想される。

 難病においては様々な因子が複雑に絡み合って根本的治療が困難となっているが,慢性炎症がその基礎にあることが少なくない。本研究によってプロテアソームの機能不全が中條−西村症候群における慢性炎症の原因であることが示されたことで,さまざまな難治性慢性炎症性疾患の発症にもプロテアソームの機能不全が関わっている可能性が示唆される。このような観点から難病の発症メカニズムの解明が進み,新しい抗炎症薬の開発につながることが期待される。

 昨今,プロテアソーム阻害薬が多発性骨髄腫の治療に使用されるようになり,さらに関節リウマチなどの新しい治療薬として期待が高まっているが,本研究はプロテアソームを長期阻害することによる効果の一側面を示している可能性がある。

 

4. 参考

 中條−西村症候群患者数 全国:11名(和歌山県内在住:6名,大阪府:4名,奈良県:1名)

(平成21・22年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業研究班調べ)

 本研究成果は,今週の米国の科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要)」のonline版に掲載される。