2023年06月20日
高度感染症研究センター・新興ウイルス研究分野/熱帯医学研究所・新興感染症学分野の吉川禄助助教、川上真弘さん(当時 長崎大学医学部生)、安田二朗教授らのグループによる重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスに関する学術論文が2023年6月11日に米国の生化学専門誌“Journal of Biological Chemistry”の電子版に掲載されました。
SFTSは2011年に中国で初めて報告されたマダニ媒介性ウイルス感染症で、原因ウイルスはSFTSウイルスです。わが国では2013年1月に国内初症例が報告されて以来、すでに805名の感染者が国内で確認されています(2023年1月31日現在)。発症者の10-20%が死に至る極めて致死性の高い感染症ですが、効果的な治療薬やワクチンはまだ開発されていません。
SFTSウイルスは、ヒトだけでなく、ネコ、イヌや老齢フェレットに対しても高い病原性を示す一方、マウスではウイルスが増殖しにくくほとんど病原性を示しません。また、ヒツジ、ウシやブタではウイルスの感染を示す抗SFTSウイルス抗体が検出されていますが、それらの動物がSFTSを発症したという報告は未だにありません。そのため、SFTSウイルスは動物種によってその病原性が異なると考えられていますが、その詳細は明らかになっていません。
ウイルスが宿主に感染するとウイルスの複製を抑制するためにインターフェロン(IFN)応答が惹起(自然免疫反応)されます。ところが、ヒト細胞ではSFTSウイルスが細胞内で作るタンパク質であるNSsがIFNシグナル伝達系の下流にあるSTAT1/2に結合することでIFN応答を阻害することが以前より明らかになっています。そこで、吉川助教らはNSsのIFN応答抑制機能をヒト、マウス、ネコ、イヌ、フェレット及びブタ細胞で比較解析を行いました。その結果、ヒト、ネコ、イヌ、フェレットではNSsによってIFN応答が抑制されましたが、マウス及びブタでは抑制されませんでした。また、それはNSsとSTAT2の結合力に依存していることも明らかになりました。
以上のことから、これらの動物種間でのNSsによるIFN応答抑制能がSFTSウイルスのこれらの動物に対する病原性と相関していることが示され、NSsによる抗IFN応答抑制能がSFTSウイルスの種特異的病原性を規定していることを強く示唆されました。また、本研究においてNSsを欠損させた組換えSFTSウイルスの作出にも成功し、このNSs欠損SFTSウイルスは通常のSFTSウイルスと比べ、様々な細胞種においてその増殖力が低いことも明らかにしました。そのため、NSs欠損SFTSウイルスは将来のSFTSウイルスに対するワクチン候補となる可能性も示しました。
動物間でのSFTSウイルスの病原性の違いとそのメカニズムについて |
■論文情報
Yoshikawa R*, Kawakami M*, Yasuda J.: The NSs protein of severe fever with thrombocytopenia syndrome virus differentially inhibits the type 1 interferon response among animal species. Journal of Biological Chemistry, 299(6): 104819, 2023 (*筆頭著者).
SFTSウイルスのNSsによる抗IFN応答抑制は動物間で異なる。
URL: https://doi.org/10.1016/j.jbc.2023.104819
尚、本研究は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「ムーンショット型研究開発事業:ウイルス-人体相互作用ネットワークの理解と制御」、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「一類感染症等の新興・再興感染症の診断・治療・予防法の研究推進」、「ウイルス性出血熱に対する予防・診断・治療法等の開発に向けた産学連携研究」、「新興・再興感染症研究基盤創生事業(BSL4拠点形成研究):国際的に脅威となる一類感染症の研究及び高度安全施設(BSL-4)を活用する人材の育成」、「ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業(SCARDA)」、日本学術振興会(JSPS)「基盤研究C :リバースジェネティクスを用いたSFTSVの抑制因子の同定と弱毒生ワクチンの開発」、公益財団法人武田科学振興財団「SFTSVの病原性機構の解明と新規抗SFTSV薬剤の探索」及び公益財団法人内藤記念科学振興財団「新型ダニ媒介性ウイルス(SFTSV)の自然免疫回避システムの理解と、それを利用した治療方法の模索」からの研究費のご支援を得て実施したものです。