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世界初 速効性抗マラリア薬のハイスループット評価系を確立 ―薬剤耐性原虫にも有効な速効性のある薬剤開発加速に期待―

 長崎大学熱帯医学研究所(NEKKEN)の佐倉 孝哉助教・稲岡 健ダニエル教授の研究グループは塩野義製薬株式会社との共同研究により、抗マラリア活性化合物としてより高い薬効を示す化合物を選別する方法を改良し、Turn-on蛍光プローブを用いた新しい薬効評価系を確立しました。さらにこの評価系を応用し、世界で初めてハイスループット(=同時に多数のサンプルを処理する方法)で化合物の速効性を評価できる系を確立しました。

ポイント

◆マラリアは年間60万人以上の死者を出す感染症であり、薬剤耐性マラリア原虫の出現により新しい
抗マラリア薬の開発が急務とされている。
◆治療法の簡略化および薬剤耐性原虫の出現の防止のために、速効性のある新しい抗マラリア薬が必要
とされているが、ハイスループット評価系が確立されていないため、薬効の高い化合物の選定に長い時間を要してきた。
◆我々は熱帯熱マラリア原虫乳酸脱水素酵素(PfLDH)を用いる従来の薬効評価法に改良を加え、
Turn-on蛍光プローブによる新しい薬効評価系を構築し、384-、1536-well plateによるハイスループット化に成功した。
◆さらに生きた原虫ではPfLDH活性が高いことを利用し、化合物の速効性を迅速に評価できるHigh-Throughput Speed of Action Profiling(HT-SAP)を確立した。

内 容

 マラリアは年間60万人以上の死者を出す原虫感染症であり、既存薬剤のほぼ全てに耐性マラリア原虫が出現しています。そのため薬剤耐性マラリア原虫にも効果のある新しい抗マラリア薬開発が必要とされています。新しい抗マラリア薬には治療法の簡略化および薬剤耐性原虫の出現の防止を目的として、開発段階から化合物の速効性評価が必要とされておりParasite Reduction Ratio (PRR)という評価系が広く利用されています。しかし、PRRは複雑なプロトコルに加えて結果がでるまでには一ヶ月以上の時間を要するため、多数の化合物を一度に短時間で評価することは不可能でした。

▶Turn-on蛍光プローブを用いた新しい薬効評価系を確立
 今回、我々はPfLDHを利用した従来の評価系を改良し、大腸菌の酸化還元酵素であるNitroreductase (NTR)に、還元されることによって蛍光を発するTurn-on蛍光プローブを組み合わせた新しい蛍光法を確立しました(図1)。そして、テスト化合物による小規模ライブラリーを用いた比較において、本スクリーニング系は従来法よりもコストが低く、精度が高く安定した結果を示し、ハイスループットスクリーニング(384、1536-well plate)でも使用可能であることが確かめられました。



図 1. NTRとTurn-on蛍光プローブを用いた新しい評価系
(Created in BioRender. Inaoka, D. (2024) https://BioRender.com/f93u419)

▶世界で初めてハイスループットで化合物の速効性を評価できる系を確立
 次に生きた原虫のPfLDH活性が高いことを利用して、本手法を化合物の速効性評価に応用するための最適化を行い、大量の化合物の速効性を数日で評価できるHT-SAPを確立しました。HT-SAPを用いて速効性(Fast)、準速効性(Moderate)、遅効性(Slow)に分類される既存の抗マラリア薬を評価した結果、既存手法による分類と遜色ない結果が得られました。さらに化合物の速効性の評価のために、増殖阻害曲線と速効性曲線のAUC(Area Under the Curve)を利用したAUC%という新しい指標を確立しました(図2)。AUC%を利用することで、迅速に化合物の速効性をモニタリングすることが可能となり、構造活性相関(SAR: Structure-Activity Relationship)に基づく構造改変を効率よく進め、独創的なリード化合物の創出を目指すことが可能になりました。本手法による創薬を進めることで、流行地で必要とされている薬剤耐性マラリア原虫にも効果のある、新規かつ速効性のある抗マラリア薬創薬を大幅に加速させることが期待されます。


図 2. HT-SAPによる化合物の速効性評価

論文の詳細

タイトル:Accelerating Antimalarial Drug Discovery with a New High-Throughput Screen for Fast-Killing Compounds.
著  者:Takaya Sakura, Ryuta Ishii, Eri Yoshida, Kiyoshi Kita, Teruhisa Kato, Daniel Ken Inaoka
雑  誌:ACS Infectious Diseases
D O I : 10.1021/acsinfecdis.4c00328
論文は以下URLで閲覧できます
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsinfecdis.4c00328