2024年12月27日
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の佐藤 克也 教授はアメリカ・イギリス・ドイツ・イタリアとの共同研究にsCJDにおける新規診断基準を提唱し、その診断基準の有効性と問題点を明らかにしました。
プリオン病は致死性の神経変性疾患で診断が困難ですが、髄液(CSF)バイオマーカー検査や蛋白増幅法(RT-QuIC法)の進歩により高感度な診断が可能になりつつあります。また、涙を用いた非侵襲的な診断法も登場し、克服への希望が広がっています。このような診断法の進歩から、診断基準の改訂がポイントとなりつつあります。
図:WHO基準、Hermann基準、Hermann基準のみを使用した発症から推定診断までの期間の分布 発症からprobableケースの診断までの期間はWHO基準とHermann基準で有意差はなかった。 |
ポイント |
◆プリオン病の多くを占める孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病(sCJD)は、異常に折りたたまれたプリオンタンパク質によって引き起こされる致命的な神経変性疾患です。
◆sCJDでは発症から3ヶ月程度で急速に悪化し無動無言に至るために、発症後のできる限り迅速な診断が必須です。
◆長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の佐藤克也教授はアメリカ・イギリス・ドイツ・イタリアとの共同研究にsCJDにおける新規診断基準を提唱し、その診断基準の有効性と問題点を明らかにしました。
◆本研究成果は、『Diagnostics (Basel). 2024 Oct 30;14(21):2424』(2024年10月31日付)の電子版に掲載されました。
内 容 |
1. 本研究ではまず、sCJDの病態と従来の診断方法を丁寧に解説し、診断におけるバイオマーカーの重要性を指摘し、日本プリオンサーベイランス委員会(JPDS)のデータを用いた後方視的コホート研究により、Hermann基準の臨床的意義を明らかにしました。本研究の結果、Hermann基準はWHO基準と比べ、sCJDの可能性が高いケース(probableケース)を大幅に増加させ、診断の感度を向上させることを明らかにしました。
特異度はわずかに低下するという課題も浮き彫りにしました。
2. 発症からprobableケースの診断までの期間(上図)はWHO基準とHermann基準で有意差はありませんでした。Hermann基準のみで診断された群ではWHO基準で診断された群よりも期間は有意に長かったです。進行の遅い非典型症例(MM2皮質型 等)は、WHO基準での診断が困難な時点でもHermann基準では診断が可能となることがあり、その結果Hermann基準でのみ診断される群では発症から診断までの期間が長い傾向にあると考えられました。
本研究では、Hermann基準の利点と限界を詳細に議論し、新たなバイオマーカーの活用に向けた将来の展望を示しました。最終的に、sCJD診断のさらなる改善には、追加的な研究が不可欠であると結論付けました。
3. 本研究成果により、発症早期に有用で、精度の高いプリオン病(孤発性CJD)の新規診断基準が構築されることで、その有効性と問題点が明らかになったことで早期の臨床診断の確定、発症早期の治療法開発につながることが期待されます。