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医歯薬学総合研究科のグループが酸性アミノ酸特異的な新規ジペプチジルペプチダーゼを発見

長崎大学医歯薬学総合研究科の根本孝幸教授、根本優子准教授らのグループは、酸性アミノ酸であるアスパラギン酸(Asp)とグルタミン酸(Glu)に特異的な新規のジペプチジルルペプチダーゼ11(DPP11)を歯周病原性細菌Porphyromonas gingivalisで見いだした。これまでヒトを含め全ての生物において、酸性アミノ酸特異的なDPPは見つかっていなかった。
多くの細菌や細胞は糖を主たるエネルギー源とするが、歯周病原性細菌であるP. gingivalisは糖を代謝することができず、その代わりにアミノ酸を代謝してエネルギーや炭素源とする。従って、細菌外のタンパク質やペプチドを分解してそれらを取込む機構は本菌にとっての成長戦略に深く関係する。
これまでの研究から、P. gingivalisには塩基性アミノ酸であるアルギニンおよびリシン特異的なエンドペプチダーゼ類(ジンジパイン)、疎水性アミノ酸に選択的なDPP7、及びプロリン特異的なDPPIVが発現していることが明らかになっていた。一方、アミノ酸代謝の研究から、P. gingivalis は20種類のアミノ酸の中でも特に酸性アミノ酸を多く消費し、また、GluやAspの代謝産物である単鎖脂肪酸は細胞障害性を持つ病原因子であることが知られていたが、代謝取込み機構の起点となる酸性アミノ酸を標的とするペプチダーゼは不明であった。今回、AspおよびGlu特異的なDPP11が発見され、しかもDPP11遺伝子を破壊した細菌ではGluやAspの分解活性が消失し、増殖能も低下したことから、酸性アミノ酸代謝経路の第1の段階をDPP11が単独で担っていることが明らかとなった。
また、今回の研究から、DPP7とDPP11のアミノ酸配列には類似性があるものの、670番目のアミノ酸がグリシンかアルギニンであるかによって、疎水性アミノ酸、あるいは酸性アミノ酸を選択するというDPP酵素の基質特異性を決めるメカニズムも明らかになった。DPP11は,他のペプチダーゼと協同的に働くことによって菌体外タンパク質の利用効率を上げ、歯周ポケットでの生き残りに寄与していると考えられる。
さらに遺伝子配列の比較検討から、DPP11は口腔内嫌気性細菌で歯周病との関連も指摘されるPrevotella属、Fusobacterium属やCapnocytophaga属細菌に存在すること、養殖魚や栽培植物の感染症起炎菌を含むBacteroides門(Cytophaga-Flavobacterium-Bacteroides group)に広く分布することも明らかになった。P. gingivalisは成人性歯周病のほかに糖尿病、循環器系疾患、低体重児出産との関連もあるとされている細菌である。
本研究でDPP11が発見されたことにより、アミノ酸代謝経路を標的としたこれら疾患の効果的な予防・治療方法の開発につながる可能性も考えられる。 

なお本研究の成果は、『J. Biol. Chem.』に掲載された。