2025年03月19日
【研究のポイント】
教育学部・理科専攻の 野口 滉二郎 さん(2024年3月卒業)と 三好 裕杜 さん(2025年3月卒業予定)は,卒業研究(指導教員:福山 隆雄 学長補佐)を通して,物理学の基礎研究に取り組みました。
その成果として,プラズマ波動中に「悪魔の階段」と呼ばれる特異な現象が現れ,カオス理論に基づくところの「タイプⅠ間欠性」の法則が存在することを発見し,Progress of Theoretical and Experimental Physics 誌において発表しました。
【本研究の概要と意義】
「プラズマ」とは,電子と原子核が解離した「物質の第四状態」と呼ばれるもので,プラズマ中ではカオスやソリトンなどの,多彩な非線形の物理現象が観測されます。物理法則は,我々が暮らす地球上のみならず,太陽系,銀河系,そして全宇宙に渡って普遍的に成り立つ,実に面白い,壮大なロマンに満ちたものです。また,プラズマの基礎的性質に関する知見を得ることは,地球上に太陽を作り出す「核融合発電」の実現に向けても重要です。
本研究では,プラズマ中の電離波動と呼ばれるカオス状態を呈する非線形波動に,周期的な電場外力を印加し,カオス波動を同期させ,同期と脱同期を繰り返す状態において,悪魔の階段と呼ばれる構造(下図)を発見しました。悪魔の階段はカントール関数とも呼ばれ,平坦な領域(ラミナー)と,位相 2π のずれ(バースト)を繰り返す特徴を持ちます。
さて,外力の強度や周波数を変化させて,同期状態から非同期状態へと遷移する脱同期の過程において,系はサドルノード分岐を経るものと考えられます。同期状態(悪魔の階段のラミナー領域)の継続時間の平均値 <T_L> に着目をして,同期のしきい値からの隔たりと <T_L> の間に -1/2 乗のベキ則が存在することを見出し,その特徴は,カオス理論によるタイプⅠ間欠性と合致することを明らかにしました。
本研究を通して,プラズマ物理学の基礎研究に一石が投じられることを期待します。
![]() 【図の説明】 カオス波動系と外力の位相差の時間発展において現れる悪魔の階段 |
【掲載論文】
題目:Devil's Staircase and Power-Law due to Desynchronization in a Laboratory Plasma
(https://doi.org/10.1093/ptep/ptaf024)
著者:福山 隆雄(物理学教室),野口 滉二郎(佐賀県庁勤務),三好 裕杜(九大修士進学)
掲載誌:Progress of Theoretical and Experimental Physics
(Oxford University Press on behalf of JPS,最新IF:6.2,最新ランク:Q1)
備考:本論文は,長崎大学オープンアクセス加速化事業のサポートを受けています。
本研究の全ては,長崎大学教育学部の実験室と設備を用いて遂行されています。
【科学研究費によるサポート】
課題番号:JP23K03355,基盤研究(C) 福山 隆雄(研究代表者)
「プラズマ中の同期現象の究明とカオス制御への応用」
課題番号:JP20K03895,基盤研究(C) 福山 隆雄(研究代表者)
「カオス理論を応用したプラズマの安定化に関する研究」