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骨の表と裏はどのように決定するのか?腕や足の背中側の骨を作り出す細胞の起源を発見

医歯薬学総合研究科の松下祐樹教授、米国テキサス大学Noriaki Ono博士の研究グループは国際共同研究によって、骨の発生、成長に関わる重要なメカニズム、特に四肢(腕や足)の骨格の背中側(後ろ側)を担う細胞の起源を発見しました。
本研究成果は、米国の国際学術誌である「Journal of Bone and Mineral Research」に2025年11月29日に掲載されました。

【ポイント】
・腕や足などの長管骨の発生において、胎児期に最初に出現する間葉系凝集※1とその次のステージである軟骨原基※2はほぼ全ての骨のおおもとであることは分かっていましたが、これらの構造が最終的にどのように骨を形作っていくのかは詳しく分かっていませんでした。
・間葉系凝集や軟骨原基の特定の領域のみの細胞の運命を可視化、追跡することに成功し、成長後の四肢(腕や足)の背中側(後ろ側)の骨を構成する細胞の起源を突きとめました。
・本研究の成果は、生まれながらに骨の異常を伴う難病疾患の病態解明や、治療法の開発に貢献することが期待されます。

【概要】
本研究では、「細胞系譜追跡※3」という手法を用いて、全ての長管骨のおおもととなる間葉系凝集や軟骨原基の特定の領域の細胞を赤色蛍光分子で可視化し、胎児期の骨の発生初期から成体に至るまでの過程を追跡することに成功しました。その結果、成体の四肢の背中側の骨を構成する細胞は、生まれる前にできる骨のもとである間葉系凝集の中でもより中央に位置する領域の細胞を起源とすることが分かりました。さらに、これらの細胞に対して選択的な細胞死を誘導したところ、骨の長さの成長がほぼ起こらなくなることが分かりました。骨の運命を発生起源から詳細に、かつそのメカニズムとともに解明することで、将来的には生まれながらに骨の異常を伴う難病疾患の病態解明や、治療法の開発に貢献することが期待されます。

【研究の背景】
我が国、そして世界には原因の分かっていない小児の難病が数多く存在し、骨の発生異常を伴う疾患も多く存在します。骨の発生過程を正確に理解することはこれらの疾患の解明につながる可能性があり、非常に重要です。これまで骨の発生過程では、胎児期に最初に出現する間葉系凝集とその次のステージである軟骨原基がほぼ全ての骨のおおもとであることが分かっていました。しかし、これらの構造が最終的にどのように骨を形作っていくのか(例えば間葉系凝集のどこの部分が将来の骨のどこになっていくのか)は詳しく分かっていませんでした。

【研究の成果】
本研究では、まず骨の発生初期に着目し、マウス胎児の間葉系凝集から採取した細胞に対してシングルセルRNAシークエンシング解析※4を行うことで、骨発生初期に存在する細胞の多様性を一細胞レベルで明らかにしました。さらにデータサイエンスの手法を活用することで、これまで均一と思われていた間葉系凝集の細胞にも多様性があり、Fgfr3※5という遺伝子を強く発現する細胞と発現しない細胞に分かれることが明らかになりました。実際、Fgfr3は組織学的にも間葉系凝集のより中央に位置する領域の細胞に局在していることが分かりました。
次に、この間葉系凝集のなかでも中央に位置するFgfr3を発現する細胞が、胎児期における骨発生初期から成体に至るまでの過程でどのように骨の形成に貢献するかを明らかにするために、Fgfr3陽性細胞を赤色蛍光分子で可視化し、「細胞系譜追跡」という手法を用いて、この細胞の運命を追跡することに成功しました。その結果、胎児期のFgfr3を発現する間葉系凝集の細胞は生後、成体の四肢の背中側の骨を構成する細胞のみに選択的に寄与することが分かりました。さらに、これらのFgfr3を発現する間葉系凝集の細胞選択的に細胞死を誘導したところ、骨の長さの成長がほぼ起こらなくなり、Fgfr3を発現する細胞が骨の成長に非常に重要な役割を担っていることが明らかになりました。

このことから、成体の骨を構成する細胞は生まれる前から厳密にその起源が定められており、骨の表と裏がどのように形成されていくのかが本研究で新たに明らかになりました(下記概要図)。

【今後の展開、将来展望】
本研究の成果によって、骨の発生過程を詳細に解明することで、生まれながらに骨の異常を伴う疾患の病態解明や、治療法の開発に貢献することが期待されます。

<概要図>


【用語解説】
※1 間葉系凝集:
脊椎動物の骨の形成初期に見られる、いわゆる骨のもととなる細胞集団で、将来の骨格を形成する起源となる。

※2 軟骨原基:
間葉系凝集に続くステージの構造体であり、間葉系凝集の未分化間葉系細胞が軟骨細胞に分化してできた構造で、同様に将来の骨格を形成する起源となる。

※3 細胞系譜追跡:
あるターゲットとする細胞集団の細胞運命を組織学的に追跡する手法。

※4 シングルセルRNAシークエンシング解析:
単一の細胞から網羅的に遺伝子発現解析を行う手法。

※5 Fgfr3 (Fibroblast Growth Factor Receptor 3):
FGFファミリータンパクと結合する膜貫通型の受容体タンパク。骨発生初期の軟骨原基の軟骨細胞で発現する。

【論文情報】
タイトル:
Early determination of the dorsal-ventral axis in endochondral ossification in mice
著者:
Yuki Matsushita1,2, Angel Ka Yan Chu3, Chiaki Tsutsumi-Arai1, Shion Orikasa1, Mizuki Nagata1, Sunny Y. Wong4, Joshua D. Welch3, Wanida Ono1, Noriaki Ono1*
Sixun Wu1,2, Hirotaka Matsumoto3, Jumpei Morita1, Mina Yamabe1, Azumi Noguchi1,2, Shinsuke Ohba4, Noriaki Ono5*, Yuki Matsushita1,2*
1. Department of Skeletal Development and Regenerative Biology, Nagasaki University Graduate School of Biomedical Sciences
2. Leading Medical Research Core Unit, Life Science Innovation, Nagasaki University Graduate School of Biomedical Sciences
3. School of Information and Data Sciences, Nagasaki University
4. Department of Tissue and Developmental Biology, Graduate School of Dentistry, Osaka University
5. University of Texas Health Science Center at Houston School of Dentistry
掲載誌:Journal of Bone and Mineral Research 40(12): 1385-1396, 2025
DOI:10.1093/jbmr/zjaf086