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アフリカの感染症研究は「下請け」か?―長崎大学、研究の「格差」を数値化 ~パンデミック阻止の鍵、研究の主導権を可視化する新指標を提言~

長崎大学熱帯医学研究所の玉記雷太准教授らの研究グループは、サブサハラ・アフリカ(※)における感染症研究の実態を調査し、高い疾病リスクに対して現地の研究力が著しく低く、先進国などの外部ドナーへの依存が「研究の主導権」を奪っている実態をデータで明らかにしました。これまで概念的に語られてきた「研究の脱植民地化(現地主導への転換)」を指標化し、感染症研究の主導権構造を定量的に示した世界で初めての試みです。次のパンデミックを水際で食い止めるには、アフリカ人研究者が自ら研究を主導する体制への変革が不可欠であると警鐘を鳴らす画期的な研究です。
 ※サブサハラ・アフリカ:アフリカ大陸のサハラ砂漠以南の地域

【ポイント】
・研究の「不都合な真実」を可視化
パンデミックリスクのある新興・再興感染症のホットスポットであるサブサハラ・アフリカ(図1)は、世界人口の15%を占め、感染症リスク(疾病負荷)が21%と高いにもかかわらず、研究力はわずか2.7%。様々な外部ドナーの研究投資にも関わらず、30年間にわたり研究力の構造的格差がほとんど改善していないことが明らかになりました(図2A)。
・「金は出すが口も出す」外部依存の弊害
外部資金に頼るほど、現地のニーズ(疾病負荷)よりも、ドナー側の関心に合わせた研究が行われる「歪み」が生じていることを明らかにしました(図2D)。
・「データ収集係」からの脱却
現地研究者がフィールドワーク(現場作業)を担い、先進国の研究者が論文執筆を担うという「研究の上下関係」を数値で証明。これを是正するための新たな評価指標を提案しました(図2C)。


【経緯】
本研究は、長崎大学熱帯医学研究所のケニア拠点を基盤とし、JICAと長崎大学の包括連携協定に基づいてケニアのJICA 技術協力プロジェクト(※)に派遣された玉記准教授が現場で気付いた違和感から始まりました。2023年の熱帯医学会においてケニアやガーナの主要研究所所長(論文共著者)らとの意見交換を重ね(写真1)、2025年のアフリカ開発会議(TICAD9横浜)での発表を経て、国際誌「BMJ Global Health」に掲載されました。

※ケニア中央医学研究所研究能力強化プロジェクト(JICA)https://www.jica.go.jp/oda/project/202107657/index.html

【波及効果】
1. グローバルな防疫体制の強化:
感染症リスクの高い国の現地研究者が主導する「自律的な研究エコシステム」を構築することで、未知の感染症を早期に発見・封じ込め、人類共通の脅威であるパンデミックを未然に防ぎます。
2. 研究の「脱植民地化」の推進:
外部資金に依存した「下請け的構造」を是正し、現地の疾病負荷(ニーズ)に基づいた真に公正で持続可能な研究投資のあり方への提言となります。
3. 国際協力モデルのパラダイムシフト:
データ収集のみを現地に頼る従来型から、現地研究者のリーダーシップとキャリア形成を優先する、新たな国際共同研究の評価指標となります。

【今後の展望】
1. 次世代モデルの構築:
2026年度に採択された科研費(基盤研究(B) 研究課題名『グローバル・サウスにおける研究エコシステムの脱植民地化に向けた構造分析』)を通じ、本研究を「グローバル・サウス」に拡大し(図1)、パンデミックリスクのある各国が自律して研究を牽引できる、新たな国際研究協力のエコシステムを解明・提言します。
2. 政策への実装:
TICAD(アフリカ開発会議)などの国際的な政策決定の場で本知見を発信し、研究資金の配分や人材育成のあり方に関して具体的な変革を目指します。

【研究者コメント】
「パンデミックとなりうる感染症の多くはサブサハラ・アフリカで発生していますが、研究の主導権は必ずしも現地にありません。本研究は、その構造をデータで示した初めての試みです。今後は、対象地域を拡大し、グローバル・サウスの現地研究者が主導する研究エコシステムの解明と政策への提言を目指します。」(長崎大学熱帯医学研究所 玉記雷太准教授)

【謝辞】
本研究は以下の支援を受けて実施しました。
●JICA技術協力プロジェクト(ケニア中央医学研究所研究能力強化プロジェクト)
●日本学術振興会(JSPS)
・科学研究費助成事業(JP23K18218, JP23K09693)
・二国間交流事業(120248602)
●国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)SCARDA
・ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業「ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群長崎大学シナジーキャンパス(出島特区)」
・ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業「ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群東京大学フラッグシップキャンパス(東京大学新世代感染症センター)」
●国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
・新興・再興感染症研究基盤創生事業(ブラジルにおける新興・再興感染症制御研究の推進))

【論文情報】
掲載紙:
BMJ Global Health
タイトル:Research capacity and decolonisation in Sub-Saharan Africa: a bibliometric analysis
著者:Raita Tamaki, Yuki Furuse, Hirotake Mori, Kazuki Santa, Kazuki Shimizu, Hongxiang Wang, Kozo Watanabe, Ryo Komorizono, Samson Muuo Nzou, Evans Inyangla Amukoye, Elijah Maritim Songok, Dorothy Yeboah-Manu, Shingo Inoue, Satoshi Kaneko
掲載年:2026年
DOI:10.1136/bmjgh-2025-021609
URL:https://gh.bmj.com/content/11/3/e021609