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絶滅危惧種のマルコガタノゲンゴロウの幼虫が多様な餌動物を食べるジェネラリストであることを解明

教育学部総合生産科学研究科の大庭伸也准教授、総合生産科学研究科博士後期課程(日本学術振興会特別研究員)の福岡太一氏、石川県ふれあい昆虫館の渡部晃平学芸員、熊本水生生物研究所の松井英司氏、ぐんま昆虫の森の澄川智紀学芸員の研究グループは、絶滅危惧種であるマルコガタノゲンゴロウの幼虫が多様な餌動物を食べるジェネラリスト*1であることを野外観察と室内実験によって明らかにしました。

【背景】
昆虫類や淡水生物の種多様性と個体数は世界的に減少しており、日本の水田やため池に生息するゲンゴロウ類もまた同様に減少しています。ゲンゴロウ類のような捕食性の昆虫類は幼虫期の餌資源の質や量が成長や生存、ひいては個体群サイズに影響を及ぼします。そのため、減少する種の食性を明らかにすることは生息地の保全を講じるうえで重要な知見となります。

マルコガタノゲンゴロウは環境省版レッドリストで絶滅危惧IA類、種の保存法において国内希少野生動植物種に指定されている絶滅危惧種です。本種の幼虫の飼育手法や食性は断片的に報告されているものの、網羅的に調査した研究はありませんでした。

本研究では、マルコガタノゲンゴロウの幼虫の食性解明を目的とし、生息地における餌構成と季節消長(季節ごとの個体数の増減パターン)、室内実験による異なる餌の成長パフォーマンスと選好性を調査しました。

【方法】
野外調査は石川県と熊本県にあるため池で実施しました。幼虫の餌構成を明らかにするため、5~9月に週1~3回、夜間にライトで水中を照らして捕食中の幼虫を目視で観察しました。また、幼虫と環境中の餌資源量の季節消長を明らかにするため、5~9月に週1~3回、たも網を用いた一定回数のすくい取りを行いました。

さらに、目視観察による視覚的な制約や環境中の餌密度の影響をなくすため、石川県の個体群を使用して2つの室内実験を行いました。まず、異なる餌による成長パフォーマンスを明らかにするため、野外で遭遇する潜在的な餌動物であるヤゴ(トンボ類の幼虫)、エビ、魚、オタマジャクシ(カエル類の幼生)をそれぞれ幼虫に与え、成虫になるまでの生存率、幼虫の成育日数、羽化した成虫の体長を処理群間で比較しました。次に、幼虫の餌選好性を明らかにするため、上記の4種類の餌を幼虫に同時に与え、捕食した数を比較しました。

【結果・考察】
野外では主にヤゴやエビといった水生の無脊椎動物を捕食しており、魚やオタマジャクシなどの脊椎動物の捕食も観察されました(図1)。若齢幼虫は主にヤゴやカゲロウ類の幼虫、老齢幼虫は主にエビを捕食し、成長に伴って餌構成が変化することもわかりました(図2)。

図1 マルコガタノゲンゴロウの幼虫の捕食シーン(左上:ヤゴ、右上:エビ、左下:魚、右下:オタマジャクシ)
図2 熊本県におけるマルコガタノゲンゴロウの幼虫の餌構成
異なるアルファベットは統計学的に有意な違い(p < 0.05)を示す


幼虫は、石川県では6月上旬~8月中旬に出現し、6~7月にピークがありました(図3)。熊本県では、6月下旬~9月上旬に出現し、7月にピークがありました(図3)。また、幼虫と環境中の餌資源量との季節的な重なりは両地域で一貫していませんでした。


図3 生息地におけるマルコガタノゲンゴロウの幼虫の季節消長(左:石川県、右:熊本県)


4種類の餌による成長パフォーマンスは明確な違いがみられ、ヤゴ、魚、エビ、オタマジャクシの順で幼虫の成育日数が短く、成虫の体長が大きいことが分かりました(図4)。ただし、生存率は魚類で低下しました(図4)。餌の選好性は若齢幼虫では低く、老齢幼虫ではヤゴとエビを好む傾向がありました。

図4 各処理群におけるマルコガタノゲンゴロウの成長パフォーマンス
(左上:成虫までの生存率、右上:幼虫の成育日数、左下:羽化したメス成虫の体長、右下:羽化したオス成虫の体長)
異なるアルファベットは統計学的に有意な違い(p < 0.05)を示す


以上の結果より、マルコガタノゲンゴロウの幼虫は多様な餌動物を捕食し、成長することが可能であることが明らかとなりました。近縁種ではオタマジャクシや魚類をあまり捕食しない、あるいはオタマジャクシだけでは成長できないことが知られていることからも、本種はジェネラリストであることが示唆されました。

したがって、マルコガタノゲンゴロウの生息地の保全には、餌となる水生動物が豊富に生息できる環境の保全が重要となります。水生植物が豊富でエコトーン*2が形成された水域の維持と創出は、陸域と水域の双方を利用するトンボ類やカエル類などの水生動物を増やし、間接的に本種の個体数の増加に寄与すると考えられます。

【今後の課題】
ため池では水生動物を増加させる管理手法として、定期的な「泥上げ」や「干し上げ」が挙げられます。しかし、このような管理が、マルコガタノゲンゴロウをはじめとする水生の捕食者の保全に効果的であるかはわかっていません。また、マルコガタノゲンゴロウの食性はジェネラリストであるため、餌資源の減少が、本種の主な減少の要因とは限らない可能性があります。今後は、生息地の管理手法の効果を検証するとともに、個体数が減少している要因を明らかにしていく必要があります。

本研究は、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2172)の助成を受けました。マルコガタノゲンゴロウの捕獲は許可を得て実施しました(国内希少種野生動植物種(石川県):No.2303313、(熊本県)No.2401191;石川県指定希少野生動植物種:No.4-45-1)。

*1ジェネラリストとは多様な環境や資源を利用できる種のことです。
*2エコトーンとは陸地と水域といった異なる性質の生態系が接して緩やかに移り変わる移行帯のことです。

本研究の成果は日本陸水学会の英文誌『Limnology』に2026年4月8日に公開されました。

【論文情報】
タイトル:
Feeding habits of the endangered diving beetle Cybister lewisianus larvae
(絶滅危惧種マルコガタノゲンゴロウ幼虫の食性)
著者:
福岡太一(長崎大学大学院総合生産科学研究科博士後期課程(日本学術振興会特別研究員))
渡部晃平(石川県ふれあい昆虫館 学芸員)
松井英司(熊本水生生物研究所)
澄川智紀(石川県ふれあい昆虫館(現在:ぐんま昆虫の森) 学芸員)
大庭伸也(長崎大学大学院総合生産科学研究科/教育学部 准教授)
掲載誌:Limnology
掲載年:2026年
DOI:doi.org/10.1007/s10201-026-00835-x