2026年07月14日
長崎大学は、ICTを活用し、離島の医療の質と利便性を高めるための様々な取組を進めています。
このたび、長崎県五島市の調剤情報共有システム「おくすりネット」を活用したインフルエンザ速報システムの効果を検証し、その内容をまとめた論文が、日本疫学会の英文誌である『Journal of Epidemiology』に掲載されました。(2026年7月Web先行公開)
【研究の背景】
医療・福祉施設や学校などの教育施設において、インフルエンザ流行の予防は重要です。日本では、全国の医療施設(定点)からの報告に基づき、週単位で流行状況が発表されていますが※1 、流行から発表までに数日のタイムラグが生じています。
長崎大学は2014年、五島市、五島薬剤師会、メディカルアイ株式会社と共同して、五島市調剤情報共有システム「おくすりネット」を立ち上げました※ 2。五島市内にある全ての調剤薬局の情報をクラウド上で一元管理し、薬局をはじめ医療機関等で共有することで服薬指導を充実させることが目的です。このシステムによって、インフルエンザ治療薬の調剤情報が蓄積されることを利用し、2015年に五島市において、インフルエンザ治療薬の調剤件数を医療・福祉施設や教育施設等に速報として毎日自動配信する取り組みを開始しました(図1)。本研究では、このシステムの導入がインフルエンザ発生状況に与えた影響を検証しました。
【研究方法の概要】
2007-2008年シーズンから2018-2019年シーズンまでの、長崎県内各定点におけるインフルエンザ患者報告数のデータを分析しました。インフルエンザ速報システムを導入した五島市と、導入していない長崎県内の市町村を比べ、システム導入前(2014-2015年シーズンまで)と導入後(2015-2016年以降)で患者報告数にどのような変化があったのかを、一般化線形混合モデルという統計モデルを用いて解析しました。全年齢に加え、「15歳未満」、「20~69歳」でも分析しました。
図1:インフルエンザ速報システムの概要 |
※1 国立健康危機管理研究機構. インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く。). https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/article/influenza/article.html
※ 2 長崎経済研究所. 五島市地域調剤情報共有システムについて. 2015.https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11452370_po_201511_3.pdf?contentNo=1
【研究の成果】
システム導入後、2016-2017シーズンと2017-2018シーズンにおいて、五島市における1シーズン中の定点当たりインフルエンザ患者報告数のピーク値は、他の地域における平均ピーク値の半分未満でした。
また、定点当たり患者報告数に対して、地域(五島市 対 長崎県の他の市町村)と時期(インフルエンザ速報システム導入前 対導入後)の間に有意な交互作用が認められました(交互作用項のp値は0.001未満)。(図2)長崎県全体ではインフルエンザの年間発生数は増加傾向にありましたが、五島市における増加は他の地域に比べて有意に抑えられており、この傾向は、15歳未満や20~69歳(働く世代)のグループにおいても同様に確認されました。
図2:五島市と他市町村の患者報告数の比較 |
【まとめ】
本研究の結果、日本の島しょ地域において、リアルタイムの調剤データを用いたインフルエンザ速報システムによって、インフルエンザの流行を抑制する可能性が示されました。本インフルエンザ速報システムは、定点サーベイランスによる全国的なインフルエンザ疫学情報速報を補完する、より即時性の高い情報源となり得ることが期待されます。
ただし、人口動態や受診行動の変化など他の要因が影響し、五島市の患者報告数が他の市町村と比べて低下していた可能性もあります。特に、本研究の追加解析では、五島市では他の市町村と比較して、インフルエンザ速報システムの導入前から患者報告数の低下傾向が見られていたことも示されたため、本研究の結果は慎重に解釈する必要があります。
【謝辞】
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)課題番号JP18lk1010008(クラウド型広域調剤情報共有システムの構築と有効性・安全性の検証)の支援を受けて行われました。
【論文情報】
タイトル:
Changes in Incidence Associated With an Influenza Alert System Using Antiviral Dispensing Data From Goto City in Remote Islands of Japan: An Analytical Observational Study
著者: Jun Miyata, Laura Skrip, Hirotomo Yamanashi, Jun Koyamatsu, Ippei Shimoshikiryo, Fumiaki Nonaka, Masaaki Sugahara, Masanori Sugahara, Noritaka Ideguchi, Takahiro Maeda
掲載誌: Journal of Epidemiology
URL: http://doi.org/10.2188/jea.JE20250658
